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井上敏樹エッセイ連載「男と×××」第二回『男と女』 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.165 ☆

2014/09/25 07:00 投稿

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  • ほぼ日刊惑星開発委員会
  • 井上敏樹
  • 男と×××

井上敏樹エッセイ連載「男と×××」
第二回『男と女』
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.9.25 vol.165

あの井上敏樹先生がほぼ惑に降臨! 豪華書きおろしエッセイ連載、第二回目のテーマは『男と女』。さまざまなエピソードを参照しながら、「愛」について語ります。前回までの連載はこちらから。

▼プロフィール
井上敏樹〈いのうえ・としき〉
1959年埼玉県生まれ。大学在学中の81年にテレビアニメの脚本家としてのキャリアをスタートさせる。その後、アニメや特撮で数々の作品を執筆。『鳥人戦隊ジェットマン』『超光戦士シャンゼリオン』などのほか、『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー555』『仮面ライダー響鬼』『仮面ライダーキバ』など、平成仮面ライダーシリーズで活躍。2014年には書き下ろし小説『海の底のピアノ』(朝日新聞出版)を発表。
 
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▲井上敏樹先生が表紙の題字を手がけた切通理作×宇野常寛『いま昭和仮面ライダーを問い直す[Kindle版]』も好評発売中!
 
【関連動画1】
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男 と 女
 
井上敏樹
 
 さて、男と女である。
 まずは知り合いのプロデューサーから聞いた話。
 男は女のマンションでテレビを観ていた。時は湾岸戦争の頃である。男はニュース番組に夢中だった。湾岸戦争を知る事はプロデューサーとしても興味がある。ところが女は勝手にチャンネルを映画に替えた。『薔薇の名前』である。男はムカッとしてチャンネルを戻した。今は映画など観ている場合ではない。湾岸戦争は歴史的な事件ではないか。大体『薔薇の名前』なら、女はDVDを持っているはずだ。だが、女はDVDとテレビでは味わいが違うのだと訳の分からないダダをこねて再びチャンネルを替えた。それからチャンネル争いになり怒り心頭に発した男は女に別れを宣告した。このアホ女、もうお前にはうんざりだ。
 その口の利き方はなんだ、と女は言い返した。大体勝手な別れなど許さない。私は女としての大事な時間をあなたに捧げて来たのだ。
 け、知るか、と言い残し、男は女の部屋を後にした。
 男は心の底からほっとしていた。考えてみれば男はとっくの昔に女にうんざりしていたのだ。未練はない。チャンネル争いで別れる事が出来たのだから安いものだ。湾岸戦争よ、ありがとう。
 エレベーターを降りマンションから外に出ると吹き渡る風が爽やかだ。
 これぞ自由だ、と男が思った瞬間である。
 男の頭をかすめてなにかが地面に落下した。駐車場のコンクリートが放射状にひび割れている。それはボーリングのボールだった。ボーリングが趣味のその女は、去り行く男を狙ってマンションの高層階からマイボールを落としたのだ。もちろんカッとなっての衝動的な行為だろうが女の殺意は明らかである。男は悲鳴を上げて走り出した。

 次は知り合いの役者から聞いた話ー。
 男と女はリビングの畳の上で正座の姿勢で向き合っていた。場所は男の家、男は売れない俳優で、女は深窓の令嬢である。女は一方的に男を責め立てている。それも無理のない話で男の二股がばれたのだ。 

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