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プレステ初期に築き上げられた新たなゲームカルチャー ――ポリゴン表現が可能にした「メディアアート」「映画」への漸近 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.162 ☆

2014/09/19 07:00 投稿

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  • 中川大地の現代ゲーム全史

プレステ初期に築き上げられた新たなゲームカルチャー
――ポリゴン表現が可能にした「メディアアート」「映画」への漸近
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.9.19 vol.162

今日のほぼ惑は、大好評の中川大地さんによるゲーム史連載。今回は1990年代後半、プレイステーションの初期ソフト群の画期と、CGを駆使して「映画」に近づいていくさまを解説します。

▼「中川大地の現代ゲーム全史」
前回までの連載はこちらから
 
 
第8章 世紀末ゲームのカンブリア爆発/「次世代」機競争とライトコンテンツ化の諸相
 
1990年代後半:〈仮想現実の時代〉盛期(2)

 
初期プレステが牽引したアーティスティックゲームのカルチャー
 
 32ビット機時代の業界三国志の構図を形成するに至ったプレイステーションの初期ラインナップには、3D化のインパクトを前面に打ち出すことで、従来とは異なるゲームのカルチャーを築き上げようとするタイトルが数多くみられた。
 まず3D化の最も素直なアプローチとしては、『ウィーザードリィ』の系譜を継ぐストイックな一人称視点でのダンジョン探索型のアクションRPG『キングスフィールド』(フロム・ソフトウェア 1994年)や、SF世界のFPS『キリーク・ザ・ブラッド』(開発:GENKI 発売:SME 1995年)といった、新進ディベロッパーによるタイトルが挙げられる。いずれも、同時期に海外で始動していた『The Elder Scrolls』シリーズや『DOOM』シリーズなどと同様の基本ゲームデザインで、のちにグローバルスタンダードとなるきわめて3Dゲームらしいオーソドックスで硬派なジャンルに、この時点の国産ゲームが遅れることなく挑戦していたことがわかる。
 海外ゲームからの流れでは、WindowsやMacintoshで人気を博していた静謐でミステリアスな雰囲気の3Dアドベンチャー『MYST』が、かつてハドソンの懐刀としてPCエンジンの屋台骨を支えたアルファ・システムによる高い完成度で移植されて鮮烈な印象を放った。これはちょうど、スーパーファミコンの最初期に『シムシティ』や『ポピュラス』の移植が強烈なインパクトをもたらしたのに近い。
 一方で、PCエンジンやメガドラの時代からそうだったように、オーソドックスなストーリー体験型のターン制RPG(ないしシミュレーションRPG)のオリジナルタイトルこそが家庭用ゲーム機の雌雄を決する花形ジャンルという意識も、この時期のプラットフォームホルダーには根強かった。そのためのタイトルとして、SCEは『アークザラッド』(ジークラフト開発 1995年)『ビヨンド ザ ビヨンド』(キャメロット開発 1995年)、『ポポロクロイス物語』(シュガーアンドロケッツ開発 1996年)といった独自シリーズをリリースしている。あるいは『I.Q. インテリジェントキューブ』(シュガーアンドロケッツ開発 1997年)のようなクールなテイストの3Dパズルが登場したこともまた、スーファミ時代までの任天堂ハードに伍するラインナップの総合性とプレステ独自のブランドイメージを確立する上で貢献したと言えるだろう。

 加えて、飯田和敏の『アクアノートの休日』(アートディンク 1995年)や『太陽のしっぽ』(アートディンク 1996年)のような、ゲームというよりも仮想世界の疑似環境の中でのインタラクションの雰囲気を味わうメディアアート風の作品、あるいは人工知能学者の森川幸人がニューラルネットワーク技術を応用してデザインした育成シミュレーション『がんばれ森川君2号』(SCE 1997年)など、クリエイター色が強く既存のゲームの概念に挑むような実験的な作品が、プレステのラインナップを特徴づけるようになる。
 こうしたアーティスティックな雰囲気をまとったタイトルの中で、特にキャッチーな作品としてヒットしたのが、ミュージシャンの松浦雅也や伊藤ガビンらが手がけた『パラッパラッパー』(SCE 1996年)であった。イラストレーターのロドニー・アラン・グリーンブラッドがデザインしたペラペラの紙のようなキャラクターを、お手本となる音楽のリズムに合わせてラップさせるというシンプルなアイディアは、従来のゲームファン層を越える幅広い層に受け入れられ、音ゲーないしリズムアクションゲームと呼ばれるゲームジャンルを切り拓く。同時に、プレステをファッショナブルなサブカルアイテムとして認知させ、子供向けの任天堂やマニア向けのセガとは異なる、特に大人のライトユーザー層にリーチする初期プレステのカルチャーを象徴するタイトルともなった。

 こうしたラインナップ傾向は、ゲームの内容ではなくそのゲームをプレイする人々の風景をコミカルに映し出す統一感あるテレビCMの宣伝戦略などとも相まって、それまでのゲーム文化にはなかった新たなカルチャーとしてのプレステのブランド性を強烈に印象づけることに成功する。既存のゲームらしさから逸脱しようとするアイディア先行のタイトルの数々は玉石混淆で、単にクソゲーと切り捨てられても仕方のない完成度のものも少なくなかった。
 しかしながら、中小のディベロッパーやクリエイター陣が参入しやすい開発環境をSCEが整えたことで、プレステがポリゴン表現の試行錯誤によるゲームデザインのカンブリア爆発をこの時代にもたらす牽引役となったことは、間違いのないところだろう。
 
 
■『バイオハザード』に至る「映画的」ホラーゲームの台頭

 ゲームがマルチメディアコンテンツとして「何だかわからないが子供の遊びではないらしいテクノロジカルで凄そうなクリエイティブジャンル」としての新たなイメージを得ていくのと呼応して、その担い手であるゲームクリエイターが脚光を浴びていく潮流が巻き起こっていくが、その象徴的な存在が、ワープの飯野賢治であった。ちょうど一昔前の映画監督やロックミュージシャンを戯画化してコスプレするかのような天才然とした立ち居振る舞いで、自作やゲームの未来像についてビッグマウスを振るうといった飯野のキャラクター性もまた(長髪で巨体の不健康そうな風貌も含めて)メディアによる消費の対象となり、時代の寵児としてもてはやされたのある。 

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