被災地復興の問題でも同じことが言えると思う。僕の考えでは、震災の復興には二通りあるんだよ。被災地をそのままもとに戻すのか、それともこれを機会に全く別のものに作り変えるのか、というね。これはさっきのオリンピックと一緒で、日本を取り戻すのか、それとも作り直すのかという問題だと思う。
僕自身、『あまちゃん』の舞台になった久慈市の近くにある八戸の出身で、母方の親戚は大体あそこに住んでいる。やはり東北出身者なこともあって、関東の東北に対する「植民地性」みたいなものや、東北に限らないそういう地方の過疎への影響は東京に住んでいてもまったくの他人事だとは思えないところがある。
だけど、「こんなに酷い状況だけど、人々は助けあって生きています」というような"イイ話"に、みんな誤魔化されすぎないほうがいいと、僕は思う。『あまちゃん』も、僕は宮藤官九郎さんの大ファンで本まで作ったのだけど、あそこに描かれたような、半笑いで傷を舐め合いながら元の状態に無理矢理に延命していくこと――この場合は、第三セクターである北三陸鉄道の復興に象徴的だけれども――が現実的であるとは、どうしても思えない。
70年代に田中角栄が掲げた国土の均等開発プランはどう考えても崩壊しているわけだよ。やはり日本の農村や漁村に、土建屋行政と手を結んだコーポラティズム的な再配分なしで、万単位の人口を養う実力があるとは到底思えない。そうした行政を21世紀の日本で復活させるのは、財政的にも不可能だと思う。そう考えたときに、コンパクトシティを中心とした地方の再構築は不可避だと思う。
僕は常々言っているけれど、これからの地方はせめて人口30万人規模の中核都市に集約すべきだと思う。それ以外の農村や漁村に住むのは、その土地や伝統文化を守る仕事に携わる人たちだけでいい。彼らには税金で補助も出して、クリエイティブな仕事をしてもらう。しかしそれ以外の人は都市部に移住してもらった方がいい。だって地方が生き残るというのは、僕は究極的には今の規模の駅前商店街や工場が生き残ることじゃないと思う。あくまで、土地や文化が生き残ることがその地方が生き残ることだよ。しかし、それを推し進める勇気は、保守も革新も含めて存在しないというのが現実だと思うね。
もちろん、心の中ではそれが不可避だと思っている人もいると思うので、そういう人とは僕も連携していきたい。いや、本当に石破茂さんでも福島瑞穂さんでも、連携しますよ。
ちなみに、今回の都知事選で家入一真を支持したことで僕はだいぶ文句を言われたけど、別にこういうプランに乗ってくれるなら、誰だって構わない。日本ではこういう本質的な対立がなかなか表面化しないのだけど、これこそが新しい政治性だと思う。
結局、福島の問題は開沼博が指摘したように、実質的に福島が東京の植民地であったことから来ているし、原発の問題も旧経世会的な利益分配の問題だったのであったと言える。そう考えると、やはり原発という存在は戦後の国土開発の問題であり、田中角栄的な集票システムの問題だった。だから、小泉純一郎があれだけ嫌っているのだろうしね(笑)。
■次のゲームは既に始まっている
この3年間というのは、まさにこうした本当の論点を表面化させられずにいた時間だった。この間の都知事選が象徴的で、宇都宮さんや細川さんが脱原発を唱えるのは結構なことだと思う。だけど、彼らは果たしてこういう地方経営における真の、大きな痛みも反発も伴い、しかし現時的には極めてシリアスな論点を取り上げられたのかと言えば、無論そんな勇気はなかったでしょう。
その事実をもってしても、ウェブで政治を動かすという、この3年間の試みは失敗に終わったと判断していいと思う。
もちろん、これをもってして先輩たちの業績を否定したいわけではないし、諦めたいわけでもない。むしろ、この失敗を糧にして、どうやって次の政治文化を育み、本当の政治性を取り戻すのかを考えていきたいんですよ。「ポスト戦後」における政治性をどう設定するか――新しいゲームは既に始まっていると、僕は考えています。
【時々更新】今日のお気に入り
宇野のお気に入りアイテムを気ままに紹介します。
015:シュライヒのサファリトラック
ドイツフィギュアブランド「シュライヒ」のサファリシリーズ。このシリーズのメインは動物フィギュアなのだが、僕が最初に買ったのはこのサファリトラックだった。部屋では荷台に同時に買ったアフリカゾウを載せている。車体の上にちょこんと座っている犬のフィギュアや、写真ではわかりづらいが運転手のおっさんなど、付録的に遊び心に溢れた愛嬌のあるアイテムがついているところがシュライヒの魅力だ。ちなみに僕はこのシリーズをいつかコンプリートして事務所に広大な「宇野サファリ」を開設する予定。
今朝も「ほぼ惑」読者からの感想をご紹介いたします。
■スコット・タイガーさんの感想
いつも素晴らしいコンテンツをありがとうございます。
宇野さんたちのレビューや評価を参考にドラマや書籍を読んでいるのですが、ものすごく効率よく名作を見られるので、時間効率が高まっていて本当にありがたいです。
なんとなく迷っているものも、「レビューで良さそうなら見よう!」という決意ができます。
ここ最近では『明日、ママがいない』を見始めました。次が最終回で残念ですが、非常に良いですね。1時間ドラマを見るのは、もう10年以上ぶりです。
朝の連ドラは、『カーネーション』を見ました。これも、PLANETSがきっかけです。戦後のあたりまでなのですが、ヒロインが尾野さんじゃなくなるのが嫌で、そこまでしか見られませんでした。
手を広げすぎるのもしんどいかと思いますが、音楽系の評論はされる予定ありますか?
今気になっているのは、サウンドホライズンです。音楽、という枠ではとらわれていないかもしれませんが。楽曲も素晴らしいですが、演劇とか物語とか、総合芸術的な感じがしています。
私は妻に前々から、サンホラが好きだと言われていたのですが、ちゃんと見るようになったきっかけは、松井玲奈さんがサウンドホライズンが好きだったことです。妻も同じこと言ってるなぁと思って見始めて、おそらく一番有名な3連曲のみハマりました。特に『石畳の緋き悪魔』が良いですけどね。普通過ぎますけど。
サウンドホライズンに手を出したら、熱狂的ファンがたくさんいるので、それはそれは、どうなっちゃうかわかりませんけどね。でも、宇野さんたちなら、扱えるのかなぁとも思っています。
今日のライダーも、良かったです。
全然見てないので、何をおっしゃっていたかよくはわかりませんが、フレーズやワードで、ムム!と感じるものが多数ありました。
ニコ生で「全然わかりませんでした!」というコメント拾っていただいて恐縮です。
悪い意味は全くありません! 石巻地区に住んでいて、石の森漫画館もすぐ近くにあるのに……まあ、そんなもんですかね地元って。
グッズとして、タオルはどうですか?
そのときの宇野さんたちの格言で作るとか、アイドル商法的に手堅い収益源になるかもしれませんし。昔、会社でタオルを作ったことがあるのですが、2000個で30万くらいした気がします。原価は色・素材・デザインにもよるかもしれませんが。
ではまた。
■宇野からのコメント
お便りありがとうございます。
音楽評論については、僕自身は明るくないのでそれほどコミットする気はないのですが、この春から夏にかけていくつか企画を動かしています。お楽しみにお待ちください。
あと、グッズについてはどうせなら「ほぼ日手帳」のような実用的なものをつくってみたいです。生活用品に思想をこめて、そこから社会を変えるというコミットを試してみたいと思っています。
【次回予告】
我らがメールマガジンに惑星開発委員会が送り込んだ次なる刺客は、速水健朗&原田曜平!
新しいブルーカラーのライフスタイルとして定着しつつある「マイルドヤンキー」とは何か。
彼らが仲間とジモトを愛するのはなぜか。そして彼らを嗤うマイルド文化系の病理とは?
次回、ほぼ日刊惑星開発委員会
「ヤンキーは何を食べているのか――消費があぶり出す新しい政治性の見取図」
に、ご期待ください!
コメント
コメントを書く(ID:3139555)
ネットによって政治・メディア報道との情報というか社会の雰囲気の乖離が加速している気はする。(磁石のNSがネットという力で無理やり引き剥がされていく感じw)ただ、それによる効果が誰にもわからない。その乖離した隙間に海外勢力やアメリカの利権(TPPとかで)なんかが入って、接着剤みたいになるとこまる。
(ID:597590)
ネットはどの情報が真実か見分けないといけない分、余計に頭を使う。
もっとネットリテラシーを整えないと話にならない。
(ID:2222886)
「変わらない」というか、ネットってのは「見たいものしか見ない」側面もあると思う。
ネットで政治活動をしても、それを見るのはもともと関心があった人たちだけで、無関心の者は見ない。
支持者の裾野が広がらないどころか、逆に先鋭化してしまって、敬遠されてしまう可能性もある。
……なんてことを、東京都知事選の田母神さんや家入さんを見ていて思った。