ANN0やこのメルマガのファンにはお馴染みのそば屋チェーン「いわもとQ」。宇野が愛してやまないこの店の味の秘密を探るべくPLANETS編集部は「いわQ」を運営する岩本浩治社長に取材を敢行! セブン-イレブンの社員から経営コンサルタントを経て「いわもとQ」を始めたという社長にその運営の思想と今後の展開について聞いてきました。
■ 「Ann0の翌日に歌舞伎町店の売上がガッと伸びました(笑)」
宇野 今日はお会いできて光栄です。実は、さっきも池袋店で食べてきたんですよ。二日に一回くらい食べないと禁断症状が出るくらいハマっています(笑)。蕎麦は好きなんですけど、ヘタな専門店より「いわもとQ」のほうがずっと美味しいです。特に、冷や蕎麦に関しては、美味しいと思うことが多いですね。
岩本 ありがとうございます。
宇野 ハマったキッカケは、歌舞伎町の店なんです。あとでここに来る猪子寿之(編集部注:猪子さんは前の予定が押して遅刻中でした)という、メディアアーティストのようなIT社長のような男に、無理やり歌舞伎町に連れて行かれたことがあって(笑)、その帰りに「歌舞伎町で遊んだあとは、"いわQ"にいくもんだよ、宇野さん」と連れ込まれたのが最初でした。
岩本 ネットは普段やらないのですが、自分の店だけはサーチしているんです。すると、検索結果に最近、宇野という名前がやたらと出てくるので、誰だろうと思っていたのです。先週も、Ann0で取り上げていただいたでしょう。翌日、歌舞伎町店の売上が一気に跳ね上がったんですよ。
宇野 いやあ、それは嬉しいですね(笑)。
■ 「いわもとQ」ができるまで
宇野 そもそも、岩本社長はどういう経歴で「いわもとQ」を始められたのですか?
岩本 物心ついた時から銀行員や役人になるのが、気が狂いそうなくらい嫌だったんですね。なので、職を転々としていました。ただ、あるときに自分の将来を考えて、このままでは嫌だなと思い、お客さん相手の商売で独立しようと思ったんです。でも、当時27歳で、女房と子供もいるわけで、まずは短期間で自分を鍛えてくれそうな職場を探しました。そこで応募したのが、セブン-イレブンでした。まだ1989年でしたから、バブルの真っ盛りです。最も中途採用枠を広げていた時期ですね。
P8を開きながら、宇野からPLANETSについての説明を聞く岩本社長。
セブンでは、加盟店を巡回して接客から棚の陳列、商品の発注などを全般的に教える指導員をしていました。ただ、独立するための能力を身につけたくて入ったのに、やりたい事業がどうしても浮かばないまま、35歳になってしまったんです。でも、次のステップには行きたかったんですね。そこで、まずは経営コンサルタントになりました。当時はセブン-イレブンもやめたてでしたから、比較的ノウハウの鮮度がいい、リーズナブルなコンサルタントでしたよ。
宇野 鮮度がよくてリーズナブルって、まさに「いわもとQ」ですね(笑)。
岩本 ただ、コンサルタントって人気商売で、芸人みたいなところがあるんです。そこは悩んでいましたね。鮮度も落ちるだろうし(笑)。
■ 値段を安くして、ダメ出しを沢山喰らって改善を繰り返す
宇野 「いわもとQ」を思いついたのは、いつ頃ですか?
岩本 2000年の12月31日の真夜中です。20世紀と21世紀の間に家でボーっとしてたら、突然「これだ!」と思い浮かんで、ガーッとメモを取ったんです。それが、いまの「いわもとQ」のほぼ原型。嘘みたいでしょ?
宇野 嘘みたいですね(笑)。やはり、年越し蕎麦を食べてるときにですか?
岩本 いや(笑)。でも、気持ちが燃えてきちゃって、それからはコンサルタントの合間を縫って、美味しい立ち食い蕎麦を探しては、そこの生ゴミを漁って「一斗缶、このメーカーか?」「この機械はなんだ?」とやってました。
宇野 12月31日に思いついたときのコンセプトは何だったんですか?
岩本 いまでもPCに当時の文書は残してるのですが、いまと同じですよ。立ち食い蕎麦の値段とノリなのだけど、食べたら立ち食い蕎麦じゃない、というような内容ですね。
それで、職人はチェーンに不向きだから、素人だけで作れるようにしよう、と。あと、立ち食い蕎麦は客がいる時間が短いので、回転率が高い。立地さえ良ければ、店が小さくてもいいんです。ただ、蕎麦は昼は強いけど、夜に弱い。そこで、蕎麦に天ぷらを使うのだから、天丼を出せばいいだろうと考えたり、まあ、そんな内容です。
当時、実は既に競合は、富士そばさん、小諸そばさん、あと駅の蕎麦のあじさい、と沢山あったんですよ。でも、根拠のない自信があった。安くしてお客さんにダメ出しをたくさん食らいながら、改善を繰り返せばイケると思ったんですね。
宇野 最初はβ版でいい、と。
岩本 ただ、そうやって出した麹町の1号店は、最初は全然ダメでした。とにかく、マズい(笑)。200円で出してたんですけどね。
2003年当時のメニュー。「いま見たら、この写真の蕎麦、のびちゃってますね」(岩本社長)
当時は、もう出しちゃいけないレベルのものだったんですよ。ある日、客に「これ飲んでみ」って、"ひやかけ"を渡されたのですが、メチャクチャしょっぱい。あの汁は、醤油とみりんを加えた返しに、だし汁を1:4で混ぜて作るんですが、それをバイトの中国人が4:1で作っていた。「申し訳ございません」と謝りました。
宇野 さっき、まさに"ひやかけ"を食べてきたところです(笑)。
岩本 ただ、やはり麹町なので、場所は良かったんですね。飲食店をナメていたことを反省して、レシピを改善したら、売上が伸びました。それで調子に乗って、今度は麹町と真逆の、日本一いかがわしい歌舞伎町で勝負してやろうと思ったんです。
ほとんど人通りがない道だったのですが、腐っても歌舞伎町だろうと思って出したら、また全然人がこなかった(笑)。そこで考えたのが、どうせ客が来ないのなら、来てから作ろうということです。少なくてもいいから、来た人が「美味しい」と言う店を出そう、と。これが実に効いて、すぐに麹町もそうしました。困らないと人間って工夫しないんですね。
宇野 いわもとQの蕎麦の美味しさって鮮度にあると思うのですが、そこからだったんですね。
■ セブン-イレブンから持ち帰ったもの
宇野 ここまで岩本さんの経歴を聞かせていただいて、セブン-イレブンにいたのが大きいのかなと思いました。そこから「いわもとQ」に持ち帰ったものってありますか?
『商売で大事なことは全部セブン‐イレブンで学んだ』岩本浩治(商業界・2005) http://www.amazon.co.jp/dp/4785502762岩本 ありますよ。例えば、『セブン-イレブンの仕事術』という本を出しているのですが、これは品質管理などの手法を書いた本です。あそこで学んだ、ひとくくりで大雑把に見ずに、要素分解しながら改善していくような手法は、やはり多くの人が興味を持ちますね。
とにかく、お客様を細かく一人ひとりで見て、ディティールで妥協しないことの積み重ねが莫大な差になるんですよ。この考え方には普遍性があると思っていて、それが飲食でも通用するか試しているところがあります。
宇野 僕はポップカルチャーの評論家をしているのですが、小賢しい作家性の発露の結果生まれた作品よりも、ただ売れることを考えて開発された商品の方が結果的にユニークな想像力を発揮したものがたくさんあるという現実を知っています。
僕は「いわもとQ」の面白さって、「蕎麦も天ぷらも鮮度でほとんど決まる」って割り切りだと思うんですよ。個人の調理技術というものを一切当てにしないで誰が作っても同じ結果が得られるシステムを整備して、あとは単にゆで立て、揚げたて、製麺仕立てだけを追求する。結果、ヘタな職人よりも、マニュアルで作った素人のほうが美味しいものを出している。あれが僕にはインパクトがありました。
そういう意味で、一番似ていると思うのが、セブンイレブンのコーヒーなんです。あの美味しさって、単にその場でドリップした出来たてを淹れていることでしかないと思うんです。コンビニの店員さんは専門家でも何でもないけれど、あのシステムなら誰が作っても同じでしょう。「コーヒーなんて鮮度が8割なんだから」という割り切った発想でやってる。
岩本 きっとセブンは私からパクったんでしょうね……というのは冗談です(笑)。
あれは、単純にセブンがそういう考え方をする集団なんです。私がいたバブルの頃から、既にそういう発想でやっていましたね。コンビニの運営というのが、そもそもそういう考え方でしょう。誰でも出来るようにマニュアルを作り、管理をしながら品質を上げていく。あのコーヒーも、自社に商品開発の技術が追いついたときにそれを応用しただけのことでしょう。
「いわもとQ」についても、まさに仰るとおり、その発想は反映されています。ところてんみたいに蕎麦を押し出す機械がありますよね。あれは食べ歩きの中で私が見つけた機械で、実は麹町の一店目からあります。あの出来立てを茹でる麺だけは、初日から独特の食感が美味いと言われていました。
ただ、あれは宇野さんのようなもり蕎麦が好きな方には合うのですが、かけ蕎麦には合わないんですね……。
宇野 確かに、僕も“もり”か“ひや”(※ 冷たい蕎麦)以外は食べないです。というか、“かけ”(※ 温かい蕎麦)は「いわもとQ」で頼んだことがないですね。
コメント
コメントを書く