【今週のお蔵出し】
玩具としての架空年代記――日本人にとっての〈ガンダム〉
(初出:「BRUTUS」2012年5月号 Book in book)
世の中には二通りの人間しかない。ひとつの歴史を生きるしかない人間と、
もうひとつの歴史を生きる術を知っている人間だ。――と、いうのはいささか
冗談にすぎるだろう。しかし〈ガンダム〉という文化現象について考えている
と、あながちそうとも思えなくなる。
宮崎アニメ、ドラゴンボール、ウルトラマン、仮面ライダー、ポケットモン
スター……日本の漫画、アニメ、ゲーム、特撮といったいわゆるオタク系文化
の生んだ作品、そしてキャラクターたちは国際的にもきわめてユニークなサブ
カルチャーとして、広く厚い支持を受けている。そんな中で、独特の位置を占
めているのが「ガンダム」シリーズだ。
〈ガンダム〉シリーズは、国内最大級のキャラクター産業であり文化現象だ。
1979年のテレビアニメ版第一作(『機動戦士ガンダム』)がその後の再放送な
どを通じてヒットし、折からのアニメブームの主役に躍り出た。同作はその後
数年の間に劇場版三部作と劇中に登場するロボット兵器(モビルスーツ)のプ
ラモデルのヒットを通じて社会現象化することになる。いわゆる「団塊ジュニ
ア」世代には、特にアニメファンという分けでもない層にも(初代)〈ガンダ
ム〉がある種の共通言語として機能しているのはこのためだ。
しかし私見では〈ガンダム〉シリーズがあれから国内最大級の文化現象とし
て成長していった理由は、むしろブームが沈静化に向かう中で備わっていった
いくつかの特徴にあると考えている。そのうちの最大の要素が、「宇宙世紀」
と呼ばれる架空年表の設定だろう。
0001 宇宙移民開始をもって宇宙世紀に移行。地球総人口90億人突破。
0010 木星エネルギー船団が再編され、木星開発事業団発足。
0016 連邦政府、フロンティア開発移民移送局を設立。
0027 初の月面恒久都市、フォン・ブラウン市完成。
0034 連邦政府、宇宙引越事業団を再編。NGOとして宇宙引越公社設立。
0035 サイド3建設開始。
0040 総人口の40%(約50億人)宇宙への移民完了。
0058 サイド3独立宣言。共和政体を樹立。国防隊発足。
0073 公国軍、新型兵器1号機完成。モビルスーツ(MS)と名づける。
0079 一年戦争勃発。公国、連邦政府に対し、独立を宣言。
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