第6回 ムービー・マスターピースDX『ダークナイト』1/6スケールフィギュア ジョーカー
今回紹介するのは、僕が事務所のデスクに飾っている、『ダークナイト』に登場したヴィラン「ジョーカー」のフィギュアです。
クリストファー・ノーラン監督の映画『ダークナイト』(二〇〇八)は、アメリカン・コミックヒーローの代名詞である『バットマン』シリーズを、言ってみれば「9.11」以降の状況にあわせて再構築したものです。「9.11」以降いっそう加速したであろう、ポストモダン的なアイデンティティ不安を背景に、アメリカン・コミックヒーローが再帰的に召還された作品は、ゼロ年代後半のアメリカ大作映画に頻出していたわけですが、その中でも『ダークナイト』は興行的にも内容的にも特異な存在感を放っていいます。
『スーパーマン リターンズ』(二〇〇六)がその代表例ですが、同時期のアメリカン・コミックヒーローの再召喚は、「古きよきアメリカの正義」という物語を「あえて」再召喚するという、極めて直接的な物語回帰だったのだと思います。言いかえればそれは社会の流動性上昇に対するある種のアレルギー反応のようなもの。高まる流動性を前に、たとえそれが無根拠なものであると理解しながらも、それを織り込み済みで「あえて」コミットするという現代的な物語回帰の回路が、分かりやすく露出していたと言えます。
しかし『ダークナイト』が優れているのは、こうした物語回帰を促してしまう世界の構造の変化こそを描いている点にあるでしょう。
『ダークナイト』は三人の登場人物の対比でその物語構造を成立させています。同作において「古い世界」を体現しているのが新任検事ハービー・デントこと怪人トゥーフェイスです。「こんな時代だからこそあえて」再召喚された「古きよきアメリカの正義」の象徴であり、舞台となる架空の都市ゴッサムの救世主「光の騎士」として登場する彼は、劇中で味方の裏切りによってジョーカーの罠に嵌ります。その結果恋人を喪い、自身も激しい火傷を負います。信じていたものに裏切られたデントは怪人トゥーフェイスに変貌し、個人的な復讐のために次々と関係者を抹殺していくことになります。そして連続殺人鬼となったトゥーフェイスは自滅するようにその命を落としていくのです。
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