お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。
今回の舞台はスーパーマーケット。レジ打ちの店員さんに商品を見せるときにどうしても考えずにはいられないことについて綴っていただきました。
高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ
第28回 カモフラージュフード
何かいい手はないかと、さっきからずっと考えている。
僕の横をいろんなお客さんが通り過ぎる。ビールとお弁当をカゴに入れた仕事帰り風の会社員、カートの下にトイレットペーパーを入れた年配の御婦人、お酒やおつまみを大量に買い込んだ仲良し学生3人組。それぞれが各々の列に並んでいく。
僕はといえば、レジより少し手前にあるパン売り場でさっきからずっと棒立ちだ。僕の持つレジカゴには、じゃがいも一袋、人参一袋、玉ねぎ一袋、牛肉300g、カレーのルー一箱が入っている。
こんな状況は今日が初めてではない。今までに何度も訪れた。そして何度も歯を食いしばりながらレジに並んだ。しかし、なんとか今日で終わりにしたい。そのためにスーパーの店内で、軽やかなBGMが流れる中、さっきからずっと考えあぐねているのだ。
僕はレジカゴの中の品物から献立を想像されるのが嫌だ。なんとなく、頭の中を見透かされているみたいで恥ずかしい。
このままレジに進むと、店員さんがバーコードを読み取っては、レジカゴから精算カゴへと商品を移していくだろう。そして黙々とその手を動かしながら、「このお客さん、今晩カレー食べるんだあ」と思うはずだ。
だって、じゃがいも、人参、玉ねぎ、牛肉、カレーのルー。完全にカレーだもん。じゃがいも、人参、玉ねぎ、牛肉だけでもカレー感が醸し出されているのに、カレーのルーとなるとそれはもう紛れもない。丸裸にされる気分だ。きゃーー。
バーコードのピッ、ピッという音に合わせて、僕の服がスッ、スッと一枚ずつ脱がされていく。
カレーの時はまだいい。お手軽料理も困る。
たとえばクックドゥのような、パッケージに「キャベツと豚肉で簡単にできる!」と書かれた箱と一緒に、キャベツと豚肉が入っている。
そういう時にだけ発動する僕のテレパシー能力のせいで、頭の中に「このお客さん、今晩キャベツと豚肉で簡単にできる料理を食べるんだあ」という声がはっきりと聞こえてくる。聞こえたと同時に、僕はすっぽんぽんだ。
恥ずかし献立の頂点に君臨するのがすき焼きだろう。
牛肉、卵、長ネギ、木綿豆腐、しらたき、春菊、わりした。謎の怪人コンダテーは秘密のベールを剥がされ、ただの今晩すき焼きを食べる男として正体を現してしまう。
すき焼きがカレーよりもたちが悪いのは、「なんか奮発してるな」と思われるところにある。黙々とバーコードを読み取る店員さんは、僕の脳内をも読み取ってくる。合計金額のところに 「このお客さん、今日なんかいいことあったんだあ」と表示されてしまった。精算カゴに入れられた卵から雛が孵り、ピーチクパーチク言いながら僕の頭の周りをぐるぐる回る。『ストリートファイターⅡ』でいうところのピヨった状態だ。
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