現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。
先端的なニューヨーカーたちが日常的に使う電動キックボードを、さっそく自らの通勤の足に採り入れた橘さん。そこで得られた気付きから、日本の研究支援やビジネスの現場に持ち帰れるものが何かについて、思考を進めていきます。
(前編はこちら)
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橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第3回 あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(後編)
日本の科学技術力を底上げする方法について
日本のテクノロジーと言えば、先日、仕事で、ニューヨークで活躍する日本人の超一流の理系研究者らとお話しする機会がありました。みなさん海外での活躍がだいぶ長い方々でしたが、日本への愛国心は大変強く、母国のテクノロジーやイノベーション力が衰退していることを、とても憂いておられて、どうしたらよいか、興味深い意見をいろいろと聞かせてくれました。
まず、一同口を揃えて言うには、彼らのような海外一線の研究者らと日本国内の研究者コミュニティーの間は、かなり断絶しているとのことでした。別に喧嘩別れしたわけではなくとも、日本人研究者が所属組織と提携関係のない海外の研究機関等に移籍する際には、「片道切符」になってしまい、結果的には、所属組織と縁を切らされるかたちになってしまうことが多いそうです。すると、日本国内の研究者コミュニティ内での居場所もまた失われてしまうので、彼らの研究成果や最新情報、人脈が国内に還元されていくチャンネルが途絶えてしまうわけです。確かに、これでは、後進に海外で活躍する先輩からの情報が入ってこないわけです。それどころか、組織としても、新しいコネクションを開拓できるチャンスを、みすみす潰してしまうことになっているわけですね。なんと、もったいないことでしょうか……。
ちなみに、役所では、いろいろと特務や諸事情がある人材については「総務課『付き』」など、無役だけれどなんとなく「籍」(多くの場合物理的な「席」も)を置いておく人事上の技術があって、いろいろと便利に使われています。まわりも、ああいろいろあるんだろうな、と察します。民間でもこういうテクニックはあると思います。なので、研究所でも、形だけ、例えば所長特任補佐、などといった席(籍)を残しておいて、zoomなどで、定期的に近況報告してもらうだけでも、だいぶ違うと思います。
また、日本人研究者は、欧米の研究者に比べると、概して、ビジネス上のニーズに関するアンテナやセンスが低いことも憂いていました。例えば、特許を取得しても、自ら企業等に売り込みを行わず、世間知らずの自分でも知っているような知名度の高い大企業から声がかかるまで受け身で待つばかりで、良い筋の新興ベンチャーキャピタル等から声をかけられても信用せず、頑なに商談に応じない傾向があるとのことです。一方、米国では博士課程のプログラムの中に、知的財産の扱い方や諸手続き、マーケティングやコンサルタントの役割等について概説する授業があるため、研究者も知財ビジネスのリテラシーを養う機会が確保されているそうです。なるほどなあと思いました。日本の大学でもこうした授業を導入するのは難しいことではないはずですから、すぐにでも広く取り入れられるとよいなと思います。
黄金期到来 東工大ら率いる「大学発スタートアップ・エコシステム」始動(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース
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