働き方改革アドバイザー・坂本崇博さんの『意識が高くない僕たちのためのゼロからはじめる働き方改革』が、ついに本日、Amazon・全国書店等にて発売となりました。今日のメルマガでは、同書のプロローグを特別に公開します。
現在の「働き方改革」の問題点とは何か。いち「コミュ障」のアニメオタクが、延べ10万人超の働き方改革支援を行うに至るまで、どんなことがあったのか。同書の核となる部分を実体験をもとに語っていただきます。
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20年以上にわたり社内における自分自身や周囲の働き方改革を推進し、さらに働き方改革プロジェクトアドバイザーとして毎年数十社、延べ10万人超の働き方改革を支援してきた著者 坂本 崇博がその経験をもとに「そもそも働き方改革とは何か?」を定義するとともに「真の働き方改革推進ノウハウ集」としてその推進手法やテクニックを体系化。
組織として働き方改革を推進する立場の方はもちろん、今の仕事にモヤモヤを感じていたり、もっとイキイキ働きたいと考えているすべての人に読んでもらいたい一冊です。
さらにPLANETS公式オンラインストアでは、限定特典としてオンラインイベント「働き方改革1000本ノック」への参加権付きにて好評発売中です。お申し込みはこちらから!
意識が高くない、いち営業マンの帰宅術が働き方改革プロジェクトになるまで|坂本崇博
一人のオタクがカワレタ話
私はオタクです。オタクにもいろいろなジャンルがありますが、主にアニメ・漫画オタクです。小学生のころに『らんま1/2』に出会ったころからその道にはまり、虚構の世界に片足を突っ込んで暮らしてきました。
中学生時代では『スレイヤーズ』を代表とする異世界ファンタジーものに傾倒し、『機動戦艦ナデシコ』や『無責任艦長タイラー』などのSFものにも食指を広げ、高校生になると阪神・淡路大震災で家が倒壊し、小学校の体育館で避難生活を送りながらそこに寄付された漫画『ぼくの地球を守って』に出会い号泣。さらに『新世紀エヴァンゲリオン』や『カウボーイビバップ』のリアルな虚構世界に衝撃を受け、大学に入ると、図書館で偶然出会った『銀河英雄伝説』に熱中し、アニメ全話(外伝含め160話超)をレンタルで視聴し続ける学生時代を送ってきました。
そうした学生時代を過ごした私は、ある意味必然的に「コミュ障」と呼ばれる人種になっていました。人と話す機会が極端に少なく、アニメ以外の話題をもたず、休み時間は机に突っ伏して寝たふりをするか、アニメの原作の小説を読むかという過ごし方。大学に入ってアニメ研究会に入ろうと部室の扉を開けたものの、やけに明るくにぎやかなコミュニティについていくことができず、翌日から幽霊化しました。大学時代にキャンパスで会話をした回数は年数回といったところでしょう。確かにそこにいるけれど、誰も気に留めない、話しかけようと思わない、そんな人間でした。
そんな私が社会人になり、働き方改革に出会って、カワレマシタ。
あ、この本は、働き方改革を通じて自分が「リア充」になって彼女ができたとか、幸せになれたとか、「だからみんなも働き方改革に取り組もう!」とか、そんな自己啓発本の類かと思われたかもしれません。しかし、決してそのような話ではありません。カワレマシタというのは「変われました」ではなく「買われました」です。
私は十年ほど前から、コクヨという創業百年を超える老舗の事務用品総合メーカーでひょんなことから「働き方コンサルタント」や「働き方改革プロジェクトアドバイザー」と名乗らせていただきながら、大手企業や官公庁中心に、自分がこれまで培ってきた働き方を紹介するセミナーや、その働き方テクニックをまとめたノウハウ、さらには組織をあげて働き方改革を実践していく上での推進ノウハウをご提供しています。
会議の進め方、資料の作り方、メールの書き方や管理方法といったベタな仕事術から、ダイバーシティな職場づくり、短い時間で高い成果が出せる組織づくり、新規事業開発につながる人材づくりといった組織開発技法まで、幅広くお手伝いをさせていただいています。つまり、私の働き方もしくは働き方改革のノウハウが「買われている」わけです。
私が働き方改革コンサルタントになったワケ
私の働き方が買われるようになったのは、きっと私が当時も今も変わらず「オタク」だったからです。
2001年に大学を卒業しコクヨに入社した私は、コクヨの中でも珍しい「購買システム(自社と取引先との購買取引プロセスを電子上で行うツール)」を取り扱う新規事業の営業職に配属になりました。そこで、当時の日本の会社に入った以上は避けられない課題に直面しました。すなわち「残業」です。
日中は外回りをしてお客様と打ち合わせをして、夕方からオフィスに戻って事務処理や会議を行う、必然的に帰宅時刻は19時、20時、22時と遅くなります。仕事はエキサイティングで楽しかったこともあって肉体的にも精神的にも負担はなかったのですが、一つ困ったことがありました。
それは「アニメが観られない」という問題でした。
もちろん、家に帰ってからや休みの日には録り貯めた深夜アニメやレンタルDVDを観て過ごしてはいましたが、それではとても追いつかないくらい、日本には観るべきアニメが存在し、日々製作されています。せめて一日4~5時間はアニメ鑑賞の時間が欲しい。となると、会社を18時には出て、帰宅しておかなければいけませんでした。
そこで、私は私の働き方を変えることにしました。お客様との商談議事録は、夕方オフィスに戻ってから打ち込むのではなく、商談しながらその場で作成し商談終了時には完成するように、商談先にPCを持ち込んで打ち合わせをするように変えました。そもそも商談打ち合わせの回数を最小限にするべく、あらかじめ議題を整理しメールや電話で済むことはわざわざ集まらずに進められるように、お客様の意識改革も含めて試行錯誤をしていきました。また、営業会議で使う資料をエクセルのマクロ機能を覚えて手早く作成できるようにしました。今や当たり前になった「ウェブ会議」ですが、当時としてはまだまだ珍しいツールでした。これを積極的に活用して、お客様にとっても「即時かつリアルな打ち合わせができる」という価値を訴求しながら、移動時間を大幅に軽減していきました。他にも、「会いに行く営業ではなく来てもらう営業になれないか」とセミナー型の集客営業スタイルで営業効率と付加価値を高めるため部内で検討を進めて実験してみたり、日報を記入する作業を電話秘書サービスに外注して、出先から電話で内容を伝えながら清書してもらう、など試してみたり、いろいろやりました。
もちろん、軋轢やら失敗もさまざまありましたし、周囲を巻き込む上での苦労もありましたが、こうして「自分の働き方改革」を進めた結果、ノルマは達成しながらも残業を減らしてアニメ鑑賞時間を増やすという成果を生み出すことができました。そして、こうした働き方を認めていただいたとあるお客様から、「その働き方を、うちの社員にも広めたい」とお声がけいただいたのが、私が働き方コンサルタントになるきっかけでした。
働き方コンサルタントから働き方改革プロジェクトアドバイザーへ
当時、コクヨとしては、自社のオフィス家具の販売に関連する付加価値サービスとして、オフィスレイアウトの作成やその前段階での「どのような働き方をオフィスで行うべきか」といったワークスタイル調査・分析・コンサルテーションで、役務の対価として費用をいただくというビジネスを行っていました。
しかし、働き方コンサルタントとして会議や資料づくりのノウハウだけを販売するということはしていなかったので、働き方コンサルタントになるにあたってまずはコンサルティング契約の勉強からはじめることになりました。
また、とくにこれといった明確なメニューもない中でしたので、逆にお客様のご要望に応じて幅広くサポートを提供することができました。お客様の社内の働き方の課題を調査分析するアンケート調査の開発や、業務効率を高める施策として仕事術セミナーやルールづくり、さらにはウェブ会議ツールなどの活用促進勉強会、さらには管理職向けの業務改革推進ノウハウセミナーなど、次第に提供できるメニューや商材が広がっていきました。そうこうしている中で、働き方のコンサルタントではなく「働き方改革を社内で推進する上でのアドバイザー」として、企業の人事部門などが立ち上げた「働き方改革プロジェクト」に対して、その進め方を助言するという立場でもお手伝いさせていただくようになりました。従業員数が数千~数万の大手企業において、どういった制度設計や推進活動をすれば一人ひとり、それぞれの部署が自分たちの働き方を見直し、より短時間で高い成果を出そうと工夫したり会社に提言してくれるようになるのかを考え、試し、ノウハウを蓄積し、ご提供するという役割です。
おかげさまで最近では、霞が関働き方改革推進チームのファシリテーター(議論の進行役)として全省庁での働き方改革の推進のお手伝いをさせていただくなど、働き方のコンサルタントから働き方改革推進のコンサルタントとしての活動のほうが多くなってきています。
10年前に一人で働き方コンサルタントを名乗り始めた当時からチームメンバーも増えました。2017年、コクヨの中に新しく働き方改革関連ビジネスを担う部門が設立されるとそこに参画して、年々数割の成長率で拡大していく組織の一翼を担わせてもらえるようになりました。ある意味、社内からも「買われた」と言えるかもしれません。
働き方改革の本質
日本中で働き方改革がブームになり、提供メニューも増えて組織も大きくなり、やれることがどんどん広がっていく中で、しかしながら私の中で変わらない信念のようなものがあります。それは、「働き方改革とは、自分で自分の働き方(仕方)を変えることから始まる」という考え方です。
近年、日本中が働き方改革を掲げ、「仕組み」を変えようと躍起になっています。オフィスの照明を消灯して早く帰そうとしたり、ITツールを導入して使わせようとしたり、オフィスを変えてフリーアドレスにしたり、フレックス制度や副業制度を導入したり。しかし、それでは本質的に働き方を改革することはできないと思います。
私が考える働き方改革とは、自分の仕事の仕方を自分自身で見直すことです。そして、もし自分だけでは変えることができないような大きなプロセスや習慣であっても、周囲に働きかけて変えようとすることです。いわば、「私のための私による『私の働き方改革』」です。
世間では働き方改革の大義名分として、組織の競争力強化とか法令順守、顧客満足向上、社会の進化、従業員のワークライフバランスなどの言葉が掲げられています。これらのスローガンはいずれも目線が国とか会社(組織)になっています。もちろん、これらのスローガンも大事なテーマです。しかし「私の働き方改革」において最も重視すべきは「私はどう変わりたいのか」「そう変わるためには何をすればいいか」だと思うのです。
そうした問いに向き合い、いろいろと変えてみることは自分自身にとってとても楽しいエンターテインメントであると私は信じています。いえ、信じているというより、過去の経験から自分で自分の働き方を改革することは「楽しいと知っている」のです。
本書の願い
本書は全体を通じて、私が考える「本来の働き方改革」のあり方、進め方についての経験談や持論、そして働き方改革にかける想いをお伝えしたいと思っています。この本を手に取っていただいたみなさまにその想いが伝わり、自らの働き方改革を楽しんで進めていく、そのちょっとした後押しになれば幸甚です。
コロナ禍を経て、「私たちは働き方改革ができた」という声も聞こえてきます。確かにテレワークやIT化が進み、働く環境は大きく変わりました。しかし、本質的にはこれまでの残業削減のための消灯活動やフリーアドレス化と変わらず、働く場や仕組みが半ば強制的に変わったに過ぎないと感じています。
ただ、こうした強制的な仕組みの変化は、自分で自分の働き方を変える大きなチャンスでもあります。仕組みや環境の変化に留まらず、自分の働き方改革を楽しんでほしいと思います。少なくとも私は楽しんでいます。
そして、いつかはこの本が「漫画でわかる働き方改革」としてスピンオフが製作され、かわいらしい萌えデザインのキャラクターが主人公になったオリジナルストーリー漫画となり、ゆくゆくはアニメ化されてくれる未来(虚構)を夢見ています。
(了)
▼プロフィール
坂本崇博(さかもと・たかひろ)
働き方改革PJアドバイザー。2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、アウトソーシング、会議改革など数々の働き方改革ソリューションの立ち上げ、事業化に参画。残業削減、ダイバーシティ、イノベーション、健康経営といったテーマで企業を対象に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポート。
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