平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は「贈り物」について。物を「贈る」ときには、その相手への理解度が問われているのだと敏樹先生は語ります。「平成仮面ライダー」シリーズなどで知られる脚本家・井上敏樹先生による、初のエッセイ集『男と遊び』、好評発売中です! PLANETS公式オンラインストアでご購入いただくと、著者・井上敏樹が特撮ドラマ脚本家としての半生を振り返る特別インタビュー冊子『男と男たち』が付属します。 詳細・ご購入はこちらから。
脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第65回
男 と 贈 り 物 井上敏樹
友人から連絡があった。前々から行きたかった割烹の予約が取れたのだが、店の主人に手土産など、持参するべきだろうか、と言うのである。私は即座に返答した。やめなされ、と。もちろん、色々な考え方があるだろうが、よほど相手に対する理解がないかぎり、物を贈るのは危険である。この世に迷惑な事はあまたあるが、いらない物を貰う事ほど迷惑なものはない。先日も知り合いの知り合いの知り合いと会食があり、その知り合いの知り合いの知り合いが私に手土産を持って来た。帰宅して開けてみると鳩サブレである。これには困った。無論、鳩サブレに罪はない。寧ろお菓子の中では傑作の部類に入るであろう。だが、私は甘い物が大の苦手なのだ。甘味でなんとか食べられるのは愛だけだ。試しに渋茶を入れて食べてみたがやはり腹におさまらない。しかし、敵は食べ物だ。捨てるわけにはいかない。今、鳩サブレは私の部屋の片隅で眠っている。時が解決してくれる、それが私の答えである。鳩サブレは時が流れ、賞味期限が切れ、捨てるという行為に私が罪悪感を抱かなくなるまで眠らねばならない。
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