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「私の働き方改革」を組織的に進めるための手法 ──(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革 第7回〈リニューアル配信〉

2021/06/28 07:00 投稿

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  • 坂本崇博
  • ゼロからはじめる働き方改革
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(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。
実際に個々人の人生の充実につながる「私の働き方改革」を組織的に進めていくためには、どんなところから始めればよいのか。何かしようとするとすぐに「変わりたくない」ムードに覆われてしまいがちな日本企業の特徴をふまえつつ、「政治的」「論理的」「心理的」の3つのアプローチから、有効な改革推進の手法を筋道立てて提案します。

(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第7回 「私の働き方改革」を組織的に進めるための手法

あらすじ

 「私の働き方改革」を組織的に進める上では、やはり一人ひとりの意識と行動の変容を後押しすることが不可欠です。
 自らの成果を再定義し、やる事・やり方・やる力を自ら見直し、働きかけるという意識行動を促すためには、どういった施策が求められるのでしょうか?
 今回は、これまで私が経験してきた働き方改革推進プロジェクトの成功例・失敗例を踏まえつつ、その成功の鍵として、「政治力」「論理力」「心理力」の3つのアプローチに着目し、解説していきます。

私の働き方改革を後押しするためには、「型」「場」「技」の三位一体改革が必要

 前回述べたように、これから企業は生き残りをかけて、過去の伝統によって培われた価値観や行動原理(不動の根っこ)の変化スピードを高めていくことが求められます。
 集団の指示に従い、周りと合わせて「変化しない」ことを選択するのではなく、一人ひとりが自らの成果を再定義し、自分自身のやる事・やり方・やる力を見直し、周囲に働きかけてそれらを実際に変えていくこと、すなわち「私の働き方改革」ができるように、後押しをしなければなりません。
 しかし、これまで紹介した失敗事例のように、単に「型(制度)」や「場(環境)」を変えるだけでは、なかなか私の働き方改革は進みません。なぜなら、型や場が変わっても、一人ひとりの意識・価値観・行動原理にダイレクトに変化をもたらすには不足があるからです。
 私はこの「意識・価値観・行動原理」のことを「技(わざ)」と表現して、働き方改革推進には、「型、場、技の三位一体改革が必要」と考えています。

そもそも「型」と「場」の両立も難しい

 「技」の改革については後述するとして、実は三位一体以前に、「型」と「場」を一体的に推進することも多くの企業でなかなか実現できていません。すなわち、制度だけの改革や、オフィスなど環境だけの改革でとどまっていたり、制度改革と環境改革が連動していないというケースも多いのです。
 その理由は「管轄が違う」からです。多くの大手企業では「型」すなわち制度や会社の仕組みを作る役割は、人事部や経営管理部といったセクションが担っています。働き方改革に関連する就業規則の見直しや評価制度改革、採用育成の仕組みの変更などは、それらの部門が企画し、経営層に上申して、労働組合とも協議し合意形成を図りながら現場に展開していきます。

 一方、「場」つまりICT環境やオフィス環境については、それぞれ情報システム部門と総務部門が担うことが慣例的です。そうです、「場」の改革だけでも管轄が二つに分かれるのです。例えばフリーアドレスな環境を構築する上では、オフィスの内装や什器備品を入れ替えるだけでなく、どこにいてもコミュニケーションがとりやすいチャットツールの導入や無線LANの構築などICT環境改革が欠かせません。しかし、両者の管轄が異なっていると、そもそも何のためにフリーアドレスにするのかから意識合わせができていなかったり、目指す状態にズレがあるまま環境構築を進めてしまい、いずれかに不足が発生したり、逆に過剰スペックになってしまうということもあります。
  そして、オフィスとICT環境が完成し、現場に活用してもらおうにも、オフィスの物理的環境は総務部から、ICTは情報システム部からそれぞれ説明会やマニュアル発信がされ、現場社員としては情報が錯綜しているように感じてしまい、次第に疲れて無関心になってしまうこともままあります。
 場の改革だけでも足並みが揃いにくい中で、さらに型の改革も一体的に進めるとなるとますます難易度があがります。例えば、フリーアドレスな環境では、一人ひとりが自律的に最も生産性の高い環境を選択し働こうとすると、「上司や同僚から離れて静かに集中して働く」という選択に偏りがちになります。これでは偶発的な情報共有や課題発見が起こりづらくなり、長期的には組織の生産性・創造性の低下につながるおそれがあります。
 これを防ぐには、各部署が「この環境を生かしてうちの部署はどのように働くべきか?」を考え、対話し、何らかのローカルな「型」を作ることが肝要です。そして、各部署が自らの型を作ってもらうには、組織評価制度や管理職の360度評価制度を生かして、部署長が率先してそうした型づくりを進めることを制度的に後押しすることも重要です。
 しかし、総務部にも情報システム部にもそうした後押しをするには経験値と権限が不足しており、人事部や経営管理部が登場して、フリーアドレスのメリット最大化とリスク防止に向けたマネジメント改革を進めていくことが求められます。

 このように、一つの働き方改革施策においても、総務や情報システム、人事、経営管理、さらには各現場の部門長といった「セクション」を超えた一体的な推進が必要になるわけです。しかしながら、そもそも各セクションは「決められた仕事を最も効率的・継続的に進めるために役割分担する」ことを目指して設立されているので、その枠を超えて変化のために共同するという経験が少なく、どうしてもぎこちなさが生まれてしまいます。
 そしてそのぎこちなさは、確実に現場にも伝わります。それは、「会社の本気度が伝わらない」という結果につながり、「技(意識・価値観・行動)」の変化の後押しにならずに、「うまくやり過ごして、今の働き方を維持しておくほうが安全だ」と無意識的に動いてしまう原因にもなってしまいます。

働き方改革の推進手法 ①政治的アプローチ

 こうしたセクションを超えた一体的な改革において、「足並みが揃わない」というリスクを防いでうまく進めるためには、「政治的アプローチ」が必要であると考えます。
 「政治」というキーワードを耳にすると、今の日本の政治ニュースでよく見るような、組織間の利害調整や「顔を立てる」ことを主眼として、能力を度外視した体制づくりをしたり、姑息な根回しや権力闘争の構図が頭に浮かぶかもしれません。しかしここでいう「政治」とは、その言葉の本来の意味合い、つまり「より良い状況を目指し、仕組みやルールを作る意思決定を、責任をもって行う」ということを指します。
 すなわち、政(まつりごと)を司る経営トップらが大きな意思決定をして、今の組織体制を超えた新たな体制を作り上げるとともに、従来組織のトップらのベクトルを合わせる目標を定義することが重要です。
 これは単に新たに「働き方改革推進部」を作ればよいというものではありません。誰をどのポストに置いてどの部署の誰をメンバーとして参画させればうまく連携が進むかを必死に考え、「人」に着目し、適材適所を企むことが重要になります。

 具体的には、型づくりを担う人事部門や経営管理部門、そして場づくりを担う総務部門や情報システム部門から中堅かつ意思決定力のある人材を登用し、専任に近い形で推進プロジェクトメンバーとしてアサインすることが必要となります。このとき、プロジェクトリーダーは、各部門を統括し、一つ上のレイヤーで意思決定ができる役員や社長本人が担うことが望ましいと思います。
 さらに大手メーカー企業の場合は、本社部門とは別途、各事業部内にも型づくりや場づくりを担う企画管理部門や品質管理部門、営業企画部門といった業務運営部門が存在するので、そこからも兼務メンバーとしてアサインし、意思決定や現場へのプロモーション推進を担ってもらう体制にできれば進めやすいでしょう。
 また、型・場づくりだけでなく、一人ひとりの意識・価値観の変化を促す「技」づくりも重要であり、社内広報担当として広報部門が参加し、かなり高い頻度で社内全体への情報発信を行っていくことが望ましいと考えます。

 また、政治的アプローチのもう一つの柱は「大義名分」を定めることです。
 「とにかく働き方改革をせよ」という指示では、混成集団である働き方改革推進プロジェクトは一枚岩になって動きづらく、各所属部門として「できそうなこと」や「やってきたこと」の延長で施策を立案しようとしてしまいます。
 そうならないようにトップ自ら方向性を示し、単に制度づくりや場づくりで留めず、一人ひとりの社員が「私の働き方改革」に意識をやり、やる事・やり方・やる力の見直しや周囲への働きかけが実践できるようにプロジェクトのゴールを設定することが重要です。

働き方改革の推進手法 ②論理的アプローチ

 こうして、経営トップが指針をしっかり示して適切な推進体制を整備した後は、論理的アプローチで進めていく必要があります。


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