お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。
今回は、誰もが仕事でついたりつかれたりする営業トークの「嘘」について。言葉巧みに「ぴったりの商品」をオススメしてくる服屋やパソコンショップの店員さんが、思わず出してしまった本音と方便の境目を、高佐さんが観察します。
高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ
第14回 正直すぎる人もどうかと思った話
皆さんは仕事で嘘をつくことはありますか?
僕の職業は芸人だ。簡単に言うと、人前に出て笑いを取ることを目的とした仕事。笑いを取ることを目的とした、とか言うと一気にハードルが上がり、この先何も言えなくなってしまいそうだが、まぁ説明するとそんなところだ。僕は芸人という職業柄、話を盛ることもある。それはもちろん、笑いを取るという目的のために遂行することもあるが、多少大袈裟に言った方が自分の気持ちが上乗せされて、話が伝わりやすいという側面もある。例えば、曲がり角から大きな犬が飛び出してきたことを話す時、その犬が実際は体長1mくらいだったとしても、曲がり角からいきなりそんな大きな犬が飛び出してきたのであれば相当驚くし、プラス僕は犬が苦手なので、大きな犬は恐怖の対象としてある。結果、「曲がり角から軽自動車くらい大きな犬が飛び出してきた」と言ってしまう。怖かったという気持ちを伝えるための誇張だが、まぁこれも嘘といえば嘘だ。
服屋での話。
僕は別にオシャレではないのだが(最近になってよく私服がダサいとイジられるので気づいた)、気が向いた時に「何かいい服ないかな」と、ふらっと服屋を巡ることがある。そこでいつも思うのは「店員さんというのはどこまで本心で言ってるのだろう?」ということだ。棚に置いてある服を広げて見ていると、そばに近付いてきて「その服いいですよね?」だの、「今のお客様の服にも合いそうですね」だの、「一着持っていて損はないですよ」だの言ってくる。だの、と言ったのは、僕が元々服に対する知識が乏しかったり、基本的に疑り深いところがあるので、「本当は似合ってないんじゃないだろうか?」「何としてでも買わせようと言葉巧みに誘導しているんじゃないだろうか?」と思ってしまうからだ。店員さんの言葉を素直に受け取ればいいのだが、どうも本心ではなくマニュアル的にそう言っているような気がして、買うのを躊躇してしまう。
一度、カーキ色をベースとした柄物のシャツを見ていたら、店員さんがいつものように「そちら、基本的にどんな服にでも合いますよ」と言ってきた。「柄物カーキだぞ。そんなはずないだろ」と思いつつも、「どんなのに合わせたらいいですか?」と聞いたら、「何にでも合いますよ」と返ってくる。これは完全に買わせようとしている案件だぞと思い、あえて「逆にどんなのだったら似合わないですか?」と聞いてみた。すると、「う〜ん」と5秒くらい顔を歪め、「強いて言えば……、蛍光の紫ですかね」と絞り出してきた。服の知識が無い僕でもさすがに、「そりゃそうだろ。逆に蛍光の紫パンツに合う服ってどんな服だ! じゃあほぼ何でも合いますね〜って言うと思ったか、バカ!」と思い、つい「そうですか。だったら大丈夫です」と言って店を出てしまった。店員さんには普段蛍光の紫パンツを履いている人なのかと思われたかもしれない。
何度も言うようだが、僕のセンスが無いことは重々承知しています。ただ、何としてでも買わせようとしてくる欲が見えてしまった瞬間、僕はスッと引いてしまうのだ。正直に「これは似合わない」「これはオシャレだけどお客様にはハードルが高すぎる」と言ってもらいたい。他にもMサイズが在庫切れな時に、「Lでちょっと大きめに着る方がいいですよ」と言ってこられるのも「本当か?」と思ってしまう。
これは厳密に言うと嘘ではないのかもしれない。方便と捉えることもできる。だが、嘘も方便というが、方便も嘘だ。
服屋に限ったことではないだろうが、どの職業でも方便というのはある。飲食店員でも、美容師でも、雑貨屋店員でも、接客を主とする店員さんは、やはり売り上げのことも考えなければいけないので、自分の本心とは別にオススメしなければいけない。
で、ここからが本題。
先日、使っているノートパソコンが突然プツンッとシャットダウンしてしまった。再起動したら普通に立ち上がったのだが、「これはそろそろ寿命か?」と思い、パソコン内に入っているデータがいつ消えてしまってもおかしくないので、命燃え尽きる前にと、ソフマップに向かった。
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