今朝のメルマガは、PLANETS副編集長・中川大地の寄稿をお届けします。
「映画」と「ゲーム」が接近していった2010年代、メディアの境界を越えた物語体験を目指したシネマティック・ゲームの数々は、「アメリカ」という主題をいかに描いたのか。ジャンル全体の動向と『The Last of Us』『Detroit: Become Human』『DEATH STRANDING』の3作品のレビューを通じて浮き彫りにしていきます。
※本記事は、2020年2月発売の『USムービー・ホットサンド 2010年代アメリカ映画ガイド』(フィルムアート社)所収の同名記事を採録したものです。
ゲームにとって、先行の総合芸術メディアである映画は、1970年代末のエンターテインメント産業としての成立以来、ずっと憧れであり挑戦対象であった。その野心は、1990年代半ばに2Dピクセル表現からポリゴンによる3DCG表現に移行することで、顕著なモード・チェンジを起こす。「映画的」たらんとするゲーム作品の数々は、『バイオハザード』(1996)や『メタルギアソリッド』(1997)などの成功を機に、いよいよ実写映画のそれを目指したフォトリアリスティックに漸近するためのビジュアル表現のレースを始動。そして2006年発売の「PlayStation 3」の世代に入ると、コンソールゲーム機の3DCG技術が個人の容姿や芝居を判別可能なレベルに到達し、2010年代には実在の俳優をキャスティングしたAAA級のタイトルが世界的なヒットを遂げていくようになった。
一方で、映画の側も同じくVFXの中核をなすCG技術の発展を背景に、2000年代後半以降のハリウッドの業界構造そのものが大きな変動を遂げている。すなわち、『トイ・ストーリー』(1995)で世界初のフルCGアニメーションによる長編映画を劇場公開したピクサー・スタジオをウォルト・ディズニー・ピクチャーズが2006年に完全子会社化したのを機に、2009年にはマーベル・エンターテインメントを、2012年にはルーカスフィルムを傘下に収めていく。こうしたディズニー一強の環境が、2010年代のメジャー映画の方向性を大きく決定づけていたのは周知の通りだ。
あるいは『アバター』(2009)以降の3D・4Dブームによって映画興行が体感アトラクション化し、その環境を前提にした『ゼロ・グラビティ』(2013)のような作品も登場。同作監督のアルフォンソ・キュアロンの盟友であるアレハンドロ・G・イニャリトゥが手がけたVR作品『Carne y Arena』がアカデミー監督賞を受賞するなど、xR技術の普及とも相まって、いまや20世紀型の映像表現そのものが、ゲームによって培われた没入型のインタラクション体験によって変質を遂げつつある。
このように、3DCGという共通の基幹技術を土台に、ゲームと映画(さらにはNetflixなどの伸張で影響力を増した連続ドラマ)の関係がはっきりと連続性のある隣接領域として並び立つようになったのが、2010年代だったと言えるだろう。
では、そのような環境下で、“シネマティック”を謳うタイプのゲームは、どのような体験の器として映画そのものとの距離感を築きつつ、その表現内容を確立していったのか。
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