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今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。
本日は、株式会社日立製作所フェローの矢野和男さんをゲストにお迎えした「多様化する〈幸福〉とテクノロジー」の前編です。著書『データの見えざる手』から6年。新会社ハピネスプラネットをリードし、「幸福の可視化技術」を追求する矢野和男さんと一緒に、データサイエンスを前提とした社会における人間の「幸せ」について議論します。(放送日:2020年8月25日)
※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
【次回『遅いインターネット会議』のお知らせ】
10/6(火)矢島里佳「〈伝統のアップデート〉でなにをもたらすか」
全国の職人と共にオリジナル商品を生み出し、伝統工芸を新しいかたちで暮らしの中に提供する矢島里佳さん。
「伝統や先人の智慧」と「今を生きる私たちの感性」を「混ぜる」のではなく「和える」というコンセプトを掲げた
“0歳からの伝統ブランド aeru”をはじめ、独自のスタイルでの〈伝統のアップデート〉の取り組みが目指すものについて、じっくりと伺います。

生放送のご視聴はこちらから!

遅いインターネット会議 2020.8.25
多様化する〈幸福〉とテクノロジー|矢野和男

長谷川 こんばんは。本日ファシリテーターを務めます、モメンタム・ホースの長谷川リョーです。

宇野 こんばんは。PLANTSの宇野常寛です。

長谷川 遅いインターネット会議、この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで、様々な分野の講師をお招きしてお届けします。本日は、有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペースSAAIからお送りしています。本来であれば、トークイベントとしてこの場を共有したかったのですが、当面の間は新型コロナウイルスの感染防止の為、動画配信と形式を変更しております。今日もよろしくお願いいたします。それではゲストの方をご紹介します。今日のゲストは日立製作所フェローの矢野和男さんです。よろしくお願いします。

矢野 よろしくお願いします。 

宇野 よろしくお願いします。日立製作所フェローのまま、もう1つ肩書が加わっている感じですか? 

矢野 そうなんです。一応フェローのままで、今回新しくハピネスプラネットという会社を作りまして、そこの代表になりました。

長谷川 さて、本日のテーマは「多様化する〈幸福〉とテクノロジー」です。著書『データの見えざる手』(草思社)から6年。今日は、新会社ハピネスプラネットをリードし、幸福の可視化技術を追求する矢野和男さんと一緒に、データサイエンスを前提とした社会における人間の幸せについて議論したいと思います。

宇野 まさにこの『データの見えざる手』っていう本が出たときに、僕は矢野さんの研究がものすごく面白いなと思ってインタビューを申し込んで、根掘り葉掘り聞かせていただいたんです。そこから5年経って、日立でずっと進められていた研究を、より広い社会に発信していこう、ビジネスを作っていこうということで新会社ハピネスプラネットをこの度設立されたわけですが、このタイミングで、ここ5年分のアップデートについてたっぷりと伺いたいと思っております。改めてよろしくお願いします。

矢野 よろしくお願いします。

多様化する幸福のあり方とは何か

長谷川 それでは早速議論に入っていきたいと思います。今日は大きく二部構成でお届けします。まず前半では、今年6月に設立されたハピネスプラネットを中心にしつつ、矢野さんのこれまでのご活動についてお話をお伺いしたいと思います。後半では「withアフターコロナ時代における幸福の追求とは」というテーマで議論したいと思います。ということで、さっそく矢野さんからハピネスプラネットでの新しい取り組みについてお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。

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矢野 わかりました。それではスライドで説明したいと思います。改めまして、矢野と申します。私、日立に入って36年になるんですが、幸せというテーマで仕事をするようになった必然性は全くなかったんです。「人生波乗りだ」って私はしょっちゅう言ってるんですが、入社してから20年ぐらい半導体の研究開発をやっていて、たまたま日立が半導体の事業を辞めたので、仕方なく違う分野の仕事をしなきゃいけないっていう状況になりまして。そこでこの幸せというテーマに携わるようになりました。

宇野 そうなんですか。じゃあ、日本のものづくり産業が沈没していなければ、矢野さんは今のお仕事はされていなかったんですね。

矢野 そうですね、ずっと半導体やっていましたからね。日立がその中でもわりと早く撤退して、20年間で培ってきた人脈やスキルを一旦すべてリセットすることになって。頼るものがなくなり先が何にも見えなかったので、大きくデータを扱うことを始めたらどうなるかなと妄想したんです。その時に目標が必要になるわけですが、たまたま私、学生時代からヒルティの『幸福論』(岩波書店、白水社)が大変好きだったので、幸福というテーマを扱い始めました。それがひとつの大きなきっかけになっています。

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 先ほどお話しした、半導体をやっていたような頃は、きっちりいいものを作れば誰かが買ってくれるという時代だったと思うんです。ところが21世紀に入って豊かになり、一人ひとりが違うものを求めていますし、同じ人でも明日になると違うモノを欲しがるようになる。さらに、生きがいが必要だとか、あるいは人の役に立ちたいといった要求がより上になっている中で、まさに需要が複雑に変化し、多様性を認めないと価値が生まれないという状況になっていると思います。

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 今まさにコロナでこういう変化が顕在化していると思うんですが、未来は予測不可能であるということに、企業も社会も国も全くまともに向き合っていない。ドラッカーが「未来について我々が知っていることは2つしかない。1つは、未来は知りえない。未来は我々が知っているものとも、予測するものとも違う」と言っていますが、これで終わってるんですよね。日立もそうですけど、ほとんどの企業は未来はある程度予測できる、計画できるという前提でやってるんです。

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 そこで、前提を書き換えて、未来のことはわからないということを前提に、やってみないとわからないことは、ちゃんとやってみて、そこから学ぶというフローを繰り返すという、実験と学習をベースにしたほうがいいと私は考えています。私自身、20年間やってきた分野がいきなり断たれて、新しいことを始めなきゃいけないという時にまったく先が見えなかった中で、日々この実験と学習をやってきたわけです。

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 この実験と学習をするということにおいては、今までのように作ったルールを守る、従うのではなく、常に廃棄し上書きするという仕事のやり方になります。でも、そのためには非常に精神的なエネルギーが必要なわけです。1998年にアメリカの心理学会でポジティブ心理学が始まってから、この20年ぐらい、幸せやポジティブな人間の行動に関する科学が非常に盛んになっていて、心理学にとどまらず経営学や組織行動、経済学に至るまで、今までのようなノイローゼだとかうつ病なんかを研究するような学問から、もっともっとポジティブなほうに移っています。幸せな人たちは生産性も高くクリエイティビティも高く、健康で離職しにくく、離婚もしにくく、幸せな人が多い会社は一株あたりの利益も18%も高い。幸せだから生産性が高いのであって、その逆ではないということもわかってきた。さらに、この中でどういう要因が効果的か、どういう要因が訓練や学習によって高められるかということも明らかになってきた。つまり、テクノロジーでリアルタイムで計測し、改善することが可能になってきたということです。


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