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[特別寄稿]世界中が繋がり続けるアフターコロナ時代の新しい共創の形(前編) ──次世代組織開発から展望する未来の3つのシナリオ 田原真人

2020/07/07 07:00 投稿

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  • 田原真人
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Covid-19のパンデミックを機に、いま世界中で既存の秩序の矛盾や綻びが露わになり、想像を絶する勢いで、社会は先の見えない混迷の時代に突入しているように感じられます。一方で、個々人の働き方や暮らし方には様々な選択肢が生まれ、新たな可能性が拓けつつあることも確かです。この変容の本質をどのように捉えれば、創造的なチャンスに転じていけるのか。
「オンライン社会変革ファシリテーター」として、コロナ危機のずっと以前からリモート教育や「Zoom革命」を主導し、イノベーティブな組織開発の取り組みを表彰するODNJエクセレントアワード組織賞を受賞したトオラス主催の田原真人さんが、その理論と実践の架橋をつづった刺激的な論考を、前後編でお届けします。

Covid-19危機によるオンライン化が生み出した二極化

 2020年は、後から振り返れば、Covid-19の年として記憶されるだろう。
 感染症の世界的大流行を表すパンデミックは、人類史上、何度も起こっている。14世紀にヨーロッパに広まった黒死病、16世紀に南北アメリカに広まった天然痘、近年では、1918年のスペイン風邪など、パンデミックの歴史を辿れば、数十年に一度の頻度で起こっていることがわかる。 
 しかし、Covid-19には、過去のパンデミックとは明確に異なる特徴がある。それは、グローバライゼーションによって一体化した世界が初めて体験するパンデミックだということである。人間が地球規模で移動するようになった影響で、Covid-19は、わずか数週間で世界中に広まってしまった。これは、かつて人類が経験したことがない事態である。私たちは、地球規模で同じ問題に取り組むという体験をしている。その体験によって、Covid-19は、私たちの記憶に刻まれるだろう。

 世界中で行われているのは、感染拡大を防ぐために「Stay at home(家にいろ)」である。私たちは、世界中でほぼ同時に、仕事場やカフェで人と会うことが大きく制限されるという状況を体験している。感染拡大と医療崩壊を防ぐためには、お互いの接触をできるだけ減らすしかないのである。1918年のスペイン風邪のときにも、同様の対策が取られたはずだ。
 だが、今回のCovid-19には、もう1つ大きな特徴がある。それは、インターネット時代のはじめてのパンデミックであるということだ。私たちは、世界中の人たちが自宅に籠り、インターネットで繋がりあっているという共通体験をしているところである。
 その結果、なかなか進まなかった教育のオンライン化と仕事のリモートワーク化が急激に進むことになった。学校を再開できない状況の中で多くの教師がオンライン授業に挑戦をし始めたし、在宅ワークをせざるを得ない状況の中で、Web会議に初めて取り組んだ人が大量発生した。それを端的に表しているのが、Web会議システムZoomのユーザーの急増である。Covid-19以前は1千万人程度だったのが、わずか1カ月後には30倍の3億人へと急増したのである。

 私は、2005年からオンライン教育に取り組み始めた。2011年にマレーシアに移住してから現在までの9年間、すべての仕事をオンラインで行っている。2012年には「反転授業の研究」というFacebookグループを立ち上げ、オンラインの参加型ワークショップのノウハウを集合知によって作り、2017年にはオンラインで繋がる自律分散型の組織「与贈工房(現在は、トオラスに改名)を立ち上げて、そのノウハウを個人や企業に向けて提供している。同じ年に出版した『Zoomオンライン革命』は、日本で最初に出版されたZoomに関する書籍である。
 15年間、オンライン化というものが社会に何をもたらすのかということを考えてきた。本稿では、Covid-19が社会の変化のプロセスをどちらの方向に進めたのかを考察したいと思う。

 Covid-19以前にオンラインに関心がなかった層は、「オンラインはリアルの劣化版である」と認知していることが多い。例えば、図1のように、リアルでできることを100とすると、オンラインでできることは50であると捉えていたりする。

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▲図1 オンラインはリアルの劣化版か?

 しかし、「オンラインだからこそできることはないだろうか?」という問いを立てて探究を始めた人は、図2の水色の領域が存在することに気づく。ひとたび、その領域の存在に気づくと、様々な新しい使い方を工夫できるようになる。それと同時に、テクノロジーの進化によってできることが増えていく。

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▲図2 オンラインだからこそできること

 それが、さらに進むと、リアルだからできることの領域よりも、オンラインだからできることの領域のほうが大きいと感じるようになってくる。そのとき、自分の意識の中心が、リアル世界(黄色い円)から、オンライン世界(青い円)へと移行し、世界の捉え方に変化が生まれる。

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▲図3 リアルからオンラインへ視座の中心が移る

 その結果、リアル基準でオンラインを捉える人と、オンライン基準でリアルを捉える人との二極化が起こる。Covid-19による自粛が空けると、前者はCovid-19以前の生活に戻り、何事もなかったかのように生活するだろう。しかし、今回をきっかけに後者の可能性に気づいた人は、Covid-19以前の生活に戻ることはない。リアルとオンラインを両方選べる状態で、オンラインを選択する機会が多くなるからだ。すでに発生している前者と後者の意識の乖離は、今後、さらに大きくなっていくだろう。

 リアル基準の意識で見ると、リモートワークは、リアルの劣化版の仕事環境である。指示命令系統が混乱したり、マネージャーが姿の見えない部下の管理に苦労したりする。コミュニケーションのすれ違いから人間関係のトラブルが発生したり、メンタル不調を訴える人も増えてくる。 
 一方で、オンライン基準の意識で見ると、別の可能性が見えてくる。管理を手放して、自律分散型で動ける組織へと転換すると、各自がマイペースで仕事ができ、柔軟にオンラインで集まって話せるオンライン環境の生産性の高さに気づく。グループウェアで情報を共有し、多対多・双方向コミュニケーションを日常的に行う環境を構築して、必要に応じて対面やオンラインでミーティングを行う働き方は、一人一人に意志決定を行うために必要な環境を与えるということである。日常的に議論や対話が行われる組織文化を育てることができれば、知的生産性を飛躍的に高めることができる可能性を持つ。

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▲図4 リモートワークの二極化

 トップダウンで管理する組織がリモートワークへ移行すると、にらみを効かせるマネジメントが機能しなくなり、劣化版の一方向コミュニケーションによってチームが崩壊しやすくなる。このようなチームは、Covid-19騒動が収束するのをじっと我慢して耐え、収束後は、元のやり方へ戻るだろう。その一方で、自律分散型の組織がリモートワークへ移行すると、拡張版の多対多・双方向コミュニケーションがリアルを超えた価値創造の可能性を持つことに気づき、生産性がむしろ上がっていく。
 新たな可能性に気づいた組織は、Covid-19騒動が収束した後も、元のやり方には戻らずに、見出した可能性を発展させていくだろう。私は、Covid-19におけるオンライン化によって、このような二極化が起こることを予想している。

会話ネットワークのWeb化が進み、アイディア創発やナラティブ創出が起こる

 Covid-19によって、多くの人が在宅勤務になり、1日に何時間もオンライン会議をする人が増えた。オンライン会議が当たり前になったことで、社交もオンラインへと移行しつつある。SNSで繋がっていた古い友人と何十年ぶりかでZoomで話したり、遠隔地に住む仲の良い友人たちを誘い合ってオンライン飲み会をしたり、オンラインが当たり前になったことで、話し相手の顔ぶれが変わった人も多いのではないだろうか。 
 9年前からマレーシアに住んでいる私にとっては、イベントの多くがオンライン化することによって、参加できるイベントの選択肢が爆発的に増えた。かつては、東京や大坂で実施されているイベントを海外からうらやましい気持ちで眺めていたが、2020年になり、それらの多くがオンラインで参加可能になった。イベントがオンライン化したことで、地方や海外に住んでいる人の知的活動の範囲は急激に広がっている。それは、今後、集団としての知的生産性の向上に結びつくだろう。

 世界中で、様々な組み合わせのグループで会話がなされている様子は、地球規模でワールドカフェが行われているかのようである。ワールドカフェとは、グループのメンバーをシャッフルしながらグループ対話を行っていくワークショップ手法である。ワールドカフェでは、参加者のアイディアがWeb状に相互に繋がり合って新しいアイディアを生み出し、未来を創造する自己組織化が起こるようにデザインされている。

 私は、毎日のように、Zoomを使って様々に異なるメンバーとオンライン対話を続けているが、朝の対話で思いついたアイディアが、午後の別のグループの対話で発展し、夜にはアイディアが大きく育っているということがよくある。また、今までうまく表現できなかったことが、ふっと耳にした言葉によって「それが言いたかったんだ!」と思い、その言葉を借りて表現できるようになることもある。そんなとき、私は、毎日、ワールドカフェをし続けているような錯覚に陥る。
 アイディアの創発やナラティブの創出は、直線的に起こるものではない。蜘蛛の巣(Web)のように複雑に張り巡らされたコミュニケーションのネットワークを、様々な言葉が増殖しながら飛び交い、アイディア同士が結びついてアイディアが創発したり、言葉と言葉が様々な形で結びついて物語化することによってナラティブが創出したりする。それらは、生き生きとしたグループ対話を、様々なメンバーとし続けることで、必然的に起こってくるものである。

 Covid-19以前には都市部に偏っていた文化的イベントへのアクセスが、オンライン化によって世界中へと広がり、それらに触発された人たちが、毎日、毎日、様々な組み合わせで語り合いながら、複雑な会話のWebを作っている。その中で生まれたアイディアやナラティブがアフターコロナの進む先を示すヒントになるのではないだろうか。


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