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「国家安全法」と香港のいま|周庭

2020/06/23 07:00 投稿

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  • 香港
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香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。香港の民主主義を大きく揺るがす「国家安全法」はなにが問題なのか。現地からアグネスさんが語ります。(翻訳:伯川星矢)

周庭 御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第35回「国家安全法」と香港のいま

私はここ数年のメディアインタビューでいつもこう言っています、香港の「一国二制度」はすでに「一国1.5制度」になっていると。けれど、最近の出来事を振り返り、私はまた別の表現を使うことにしました。香港のミニ憲法《基本法》に記載されている「一国二制度」は、完全に「一国一制度」に成り果てたのです。

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もし皆さんが直近のニュースをご覧になっていたら、中国本土の中央政府が議会のプロセスと一国二制度の取り決めを無視し、香港で《国家安全法》の立法を強行しようとしたことをご存知だと思います。本来中国と香港の関係は「一国二制度」であり、香港は中華人民共和国の一部でありながら、中国とは異なる経済・政治制度を実行してきたのです。香港には独自の行政、司法と立法の制度があり、自らの裁判所、立法会(国会)と政府を持っています。《基本法》(1997年返還時に中国が香港市民に行った約束)に基づき、中央政府は香港の内部行政に干渉しないことになっているはずです。でもここ数年、私たちは中央政府が政治と経済面で香港へ干渉、コンロトールしようとしていることを知っています。このような行いは香港市民の不満と怒りを募りました。

例えば数年前、中国の全国人民代表大会(全人代)の「決定」が強行され、香港の行政長官選挙の選出方法を直接制限される出来事がありました。たとえ一人一票の普通選挙を行っても、候補者自体が中央政府の思い通りになる選挙制度となってしまったのです。最終的にこの「決定」がきっかけで、普通選挙と民主主義を求める香港人が立ち上がり、のちの雨傘運動へと繋がりました。

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しかし、今回の国家安全法は過去に経験した「干渉」に比べても、別格と言えるものです。一国二制度を完全破壊するのみではなく、国際金融センターとしての優位性や地位をも、跡形もなく消し去ってしまうのです。


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香港には立法会があり、香港境内で実行する法律はすべてここで審議・投票されることにより生まれます。しかし、国家安全法はこれらの議会プロセスをすべてスキップし、中央政府の決定を直接香港の法律として実行できるようにするものです。今後もし中央政府の気に沿わないことが香港で起きた場合、議会を通さず法律を決めることができてしまう。それは、香港の司法独立は完全に名ばかりの制度となり、一国二制度の終焉が訪れたことを意味しているのです。

さらにこの国家安全法の内容は、元々香港人が持っている権利や自由を奪うことになっています。みなさんご存知の通り、中国は事実上の独裁国家です。中国では多くの人が自由・人権・真実を求めて行動を起こしても、政府によって、国家安全法と言う名義のもと逮捕・軟禁・監禁・存在を消されるケースが頻発しています。デモや集会に参加した人だけが逮捕の対象となるわけではなく、真実を暴き、意見をすることだけで政府に「社会の安寧を破壊」しているとか、「国家政権転覆」を目論んでいるなどとみなされます。

十数年前に中国では毒粉ミルク事件がありました。製造業者が有害化学物質を粉ミルクに添加したことで、子供が飲んだ後に「巨大な頭の赤ちゃん」になったり死亡した事件です。しかし、我が子を心配する親が粉ミルクの製造会社を自ら調査した結果、国家政権転覆罪で逮捕される結末となったのです。

2008年に起きた四川大地震では、多くの建築物や学校が一瞬で倒壊し死傷者を多く出したので、手抜き工事があったのではないかと議論になりました。そして、子を持つ親と地元住民が当局に手抜き工事の有無の調査を要請すると同時に、自ら調査を進めた結果、同じく国家安全法に基づき逮捕されることとなりました。

中国という独裁国家の中では、ありえない出来事も現実になってしまいます。この不合理が国家安全法とともに香港にやってくる、それが私たちが抵抗しないといけない理由なのです。

もし国家安全法が香港で実施された場合、香港人は将来政府に反対する自由を失い、すべてのデモ活動やインターネット上の批判は「国家安全を破壊する」と認定されてしまいます。毎年行われている六四(天安門事件)集会が禁止されることもありました(注)。なぜなら中国では「天安門事件」自体がタブーだからだと思います。皆さん、社会活動に参加している人だけが規制対象になると思わないでください。近いうちにフェイスブック、グーグルやインスタグラムなどのソーシャルメディアがすべて禁止になるかもしれません。なぜならそこには、中央政府が知って欲しくない真実が存在するからです。六四天安門事件もその一つなのです。

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たびたび書いているように、よくメディアにこう聞かれます、「怖いか?」と。正直怖い、本当に怖い。でも、私たちに抗わない理由はない。もし香港人が抵抗をやめれば、香港の崩壊がさらに早くなるからです。日本にいる読者のみなさんも、どうか自ら行える方法で香港を応援してください。

(注)今年の六四集会においては、香港警察は新型コロナウイルス蔓延防止を理由に初の集会不許可とした(集合禁止令)ため、主催側はオンラインで集会を開催を行った。一方、何俊仁(アルバート・ホー)などの民主派の重鎮たちは開催予定地であるビクトリア・パークに入ったが、最終的に数名が警察に「違法集会煽動罪」で逮捕された。

(了)

▼プロフィール
周 庭(Agnes CHOW)
1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政治組織「香港衆志」に所属している。

『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』これまでの連載はこちらのリンクから。

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