アーティスト・草野絵美さんによる連載「ニューレトロフューチャー」。今回は、新作『Insta Baby Generator』についての制作レポートです。誰もが手軽にDNAを編集できるようになったら、果たしてどんな問題が起きるでしょうか? 草野さんは遺伝子操作をシミュレーションしたベイビーを3Dプリンタで立体化する本作品で、顕在化する倫理的問題を問いかけます。
前回の更新から随分と時間が空いてしまったことをお詫びいたします。テーマを絞る作業で難航してしまったこと、抽象的なアイデアの種をうまく実らすことができない苦しい日々もありましたが、なんとか克服して、一つのメディア・アート作品を完成させることができました。
そして先日、幸運なことにオーストラリアはブリスベンで行われた、SIGGRAPH Asia(シーグラフ・アジア)の上位15%の倍率をくぐり抜け、アート・ギャラリーで展示をすることができました。SIGGRAPHとはコンピュータ・グラフィックとインタラクティブにおける、世界最大の国際学会であり、デジタル・アートの祭典としても知られています。毎年、開催団体の本拠地である米国ロサンゼルスと、アジアの招待国の二箇所で開催されます。新しい科学技術、アニメーションやゲーム、教育など様々な分野の情報を求め、世界中の技術者とクリエイターたちが多く集まり活気にあふれていました。アート部門も採択された私も、リサーチした内容のプレゼンテーションが必須です。海を渡っての展示から発表までの一連の経験は大変励みとなるものでした。今回の連載では、その作品が出来上がるまでの試行錯誤とリサーチを綴らせていただきたいと思います。
▲オーストラリアで行われたSIGGRAPH ASIAプレゼンテーションを行いました。
「欲しい物がなんでも手に入る世界。」
前回の連載でもお話しましたが、春に深セン視察で、華強北路(ファーチャンペー)を訪れて以来、昨今の加速し続ける消費サイクルについて思考を巡らせていました。中国で作られる、安価な偽物商品の消費の背景にはインスタ映えを意識した消費に原因がありました。また、ガジェットだけでなく、あらゆる産業がファスト化しているという現状もあるでしょう。
かつては年に2〜4回だったアパレル業界のシーズンおきのコレクション発表も、H&MやZARAのようなファストファッションブランドの場合、一年通算52シーズン、つまり一週間おきに新しいコレクションを発表しています。そしてその多くは、老舗ブランドの類似品(英語ではKnockoffs)。ジェネリック薬品やスーパーで売っているプライベートブランドの菓子のように合法的にちょっと変えたデザインのものを10分の1の価格で売っています。
▲ランウェイから生まれたコピー商品たち(引用元:https://stylecaster.com/designer-items-to-buy-for-less/)
しかし一方で、Zaraで買い物をし、Amazonでなんでも手に入れ、時にはAli ExpressでありえないiPhoneケースを買う、新しいiPhoneが出たら買う、こんな消費サイクルに疲れ始めた人たちがでているのも確かです。それにこうした生き方は環境にも精神にも悪いでしょう。昨今、『ミニマリスト』という、物を持たない生き方の流行や、Konmari こと近藤麻理恵さんがNetflixで看板番組をもつといった現象もそうした時代にマッチしたからでしょう。
また、『コンヴィヴィアリティ』という考え方も昨今耳にすることが増えました。コンヴィヴィアリティとは、我々人間が既存のシステムの歯車に成り下がるのではなく、自立的かつ共生的に生きることができるようになることを推進するために、今まで発展させてきた技術を使ってこうという考え方です。具体的にいうと自身の家で3Dプリンターなどのファブリケーションツールを駆使し、人間活動に必要な創造を支援する、家の中に工場を作って自給自足する、という考え方です。今後、自分の家の3Dプリンタ技術で自分で好きな商品をコピーしたりカスタマイズして作れる未来が来るとも言えるでしょう。
ラディカルに考えてみる
▲アイデアスケッチ
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