現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は、令和元年版の防衛白書を読み解きます。日韓関係が冷え込む中、外交・防衛戦略上の韓国の重要度も格下げされたかに見える今回の白書ですが、その背景には、ASEANを中心にインド洋・太平洋を結ぶ巨大なビジョンが構想されているようです。
(写真出典 陸上自衛隊HPより)
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
まず、台風15号及び19号並びに間断ない豪雨によって被害を受けられた皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。また、豚コレラの猛威もなかなか収まらないのも心配です。他方で、ラグビーW杯での日本代表の躍進には大変に目覚しいものがありましたですよね。海外にルーツを持つ日本代表選手が躍動する姿は多くの日本人の目には新鮮に映ったことと思います。ちなみに僕は小さい頃からサッカーのラモス瑠偉選手が大好きだったこともあり、ソフトパワーとしてのサムライ魂がむしろ世界中に浸透していっている証拠を見たようにも感じていました。
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永田町・霞ヶ関にも大きな動きがありました。財務省は、2020年度一般会計予算の概算要求総額が104兆9998億円で過去最大になったと発表しました。高齢化による社会保障費の膨張などが主な原因です。僕の印象では、あまり大きく報道されなかった感がありますが、いかがでしょうか。そして、消費税率が8%から10%へと増えました。さらには第4次安倍第2次改造内閣の組閣。初入閣は13人にのぼり、各省の事務方も心機一転しています。小泉進次郎氏の環境相入りが特に注目を集め、就任後の各種発言ではこれまでにない困難に直面しています。そして、即位の礼です。休日となったこともあって、儀式の生中継に張り付いてい方々も多かったのではないでしょうか。分断や格差の時代、国民の統合の象徴としてのお役目は一層重くなっていくんだろうと思います。個人的には、テレビの前で、息をこらして紫色の幕が開くのを待ちながら、元号を定め、休日を設ける、「時」という至上のプラットフォームを左右する力は、大きいなあ、と感じたりしていました。ギリシャ神話でも、最高神ゼウスの枕詞(まくらことば)には「時の神クロノスの御子たるゼウス」と付されますね。ちなみに、枕詞と言えば、本稿にも大事にしている枕詞があります。「我が国の主権者たる国民」である僕たちという言い回しです。あくまでも国家経営の当事者である主権者が判断を行う上で大事な情報を届けるという点で、本稿はこの枕詞は強く意識しており、これからも繰り返し使っていきます。
さて、今号では、激動の9、10月を振り返るなかで、敢えて、「防衛」を扱いたいと思います。具体的には、2019年9月27日「令和元年版 防衛白書の閣議了承」を取り上げます。というのも、防衛白書とは、「わが国防衛の現状と課題及びその取組について広く内外への周知を図り、その理解を得ることを目的として毎年刊行」されるものですが、今年度版では、防衛協力国の紹介順において従来2番目だった韓国が4番目に移動していることについて、昨今の日韓関係の悪化と結びつけることだけで済ませてしまう報道が多過ぎると感じたからです。
韓国の重要度を引き下げ 安保協力で 令和元年版防衛白書(産経新聞 2019年9月27日)
韓国の紹介順2→4番目に「降格」 防衛白書を閣議了承(朝日新聞 2019年9月27日)
韓国との関係悪化を反映=防衛白書(時事ドットコム ニュース 2019年09月27日)
(なお、日経のこの記事は僕が以下で書く内容に近いことにも触れています。)
安保協力、距離感に変化 防衛白書 韓国後退、インドが浮上(日本経済新聞 2019年9月28日)
確かに、昨今の日韓関係の悪化は由々しいです。また、白書は、毎年出す書類なので、時事的な配慮をにじませたりと、細やかなメッセージの出し入れが行われたりします。しかし、日本国の主権者たる国民が、今年度版の防衛白書から読み取るべきメッセージは、「日韓関係の悪化が防衛白書にも反映された」という次元にとどまらない、もっと全然違うことだと僕は思います。踏み込んで言ってしまえば、日韓関係が良好であっても、今回、韓国の紹介順が下がっていた可能性はかなり高いのではないか、と思われます。
というのも、現在、とある巨大な、しかも、実は比較的長い経緯を有する構想に基づいて、日本の安全保障観のシフトが着々と進められています。外交上のスローガンにとどまらず、実体的な安全保障の次元にもその構想が反映されてきています。僕は、国民はこの構想の存在感を令和元年度防衛白書において確認することこそが重要だと思いました。
ではその安全保障観のシフトとは何でしょうか。以下、みなさんと一緒に情報をたぐってみたいと思います。
河野大臣の記者会見をよく聞く
まず、日韓関係と2位→4位の関係についてですが、河野防衛大臣は、白書発表時の記者会見で、
Q:韓国について伺います。本来友好的な書きぶりをするべき安全保障協力の章の中で、韓国については、昨年の国際観艦式での問題、レーダー照射問題、今年のGSOMIAの破棄など具体例を挙げた上で、韓国側の否定的な対応が防衛協力や防衛交流に影響を及ぼしている、と批判的・否定的な書きぶり(防衛白書366頁)になっています。このような書きぶりになった意図を教えてください。
という質問に対し、
A:事実を列挙しているということです。
と回答しています。
Q:防衛協力を進める国を紹介するコーナーにおいて、韓国を記載する順番が昨年2番だったのが、今年は4番になりました。その理由を教えてください。
という問いに対しては、
A:防衛大綱の順番に並べたということです。
と回答しています。
つまり、防衛白書の本文中では韓国をしっかり批判していても、それが安全保障パートナー国の紹介順を2番から4番に格下げした理由であるとまでは述べていません。理由は「防衛大綱の順番に並べたということ」であると述べています。なるほど。そうですか。では、防衛大綱を見てみましょう。
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