編集者・ライターの長谷川リョーが、(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。今回インタビューするのは、モビリティ・プラットフォーム『CREW』を運営する株式会社Azitの"インハウス・ロイヤー"(企業内弁護士)として、パブリックアフェアーズ・法務を担当する弁護士の南知果氏。
未だ厳しい規制が残っている国内の交通産業において、CREWを任意の謝礼で成り立つ「互助モビリティ」と定義し、市場を切り拓いてきたスタートアップ・Azit。南氏は、大手の弁護士事務所でキャリアをスタートし、創業間もない法律事務所ZeLoを経て、2019年6月にAzitにジョインしました。利益誘導ではなく「未来の共創」を目指す“ロビイング2.0”構想から、インハウスロイヤーが普及して多様化する弁護士のキャリア、また大手事務所とスタートアップのカルチャーギャップまで伺い、南氏の「激しく動き、自ら道を切り拓く」“激動型”の思考に迫ります。(構成:小池真幸)
利益誘導ではなく「未来の共創」。“ロビイング2.0”構想とは?
長谷川 まず、南さんが現在Azitのインハウス・ロイヤーとしてどのような活動をされているのか、教えていただけますか?
南 活動内容は、社内向けの業務と社外向けの取り組みの2種類に大別されます。社内向けでは、一般的な企業の法務担当と同じように、あらゆる事業部からの法律相談を受けています。
CREWのモデルは、法律を遵守することが非常に重要な領域です。地方で実証実験をするために、少しスキームをアレンジしようとするだけでも、すぐに法律に引っ掛かってしまう。そうした法律観点での是非を判断したり、アプリの文言をはじめ、外に出す文言をチェックしたりしています。
長谷川 ビジネスサイドからの要望が、法律的にグレーだった場合はどう対応しているのでしょうか?
南 かなり慎重に意思決定していますね。センシティブな領域ゆえに、リスクを取って良いことはないと思っているので。
長谷川 法律の分野は、前例を踏襲する形で意思決定が行われるイメージもあります。Azitのように、新しくて前例がない領域では、どのように意思決定しているのでしょう?
南 おっしゃる通り、基本的に前例はありません。専門家に相談はしつつも、法律の主旨や解釈を細かく検討し、慎重に判断していますね。
長谷川 一歩ずつ丁寧に前進していくしかないのですね。社外向けには、どのような取り組みを?
南 官公庁や地方自治体の方々にCREWの取組みを知ってもらうべく、ロビー活動を行なっています。
長谷川 「ロビー活動」という言葉を使うことに、抵抗はないのでしょうか?アメリカなどでは一般的に使われていますが、日本ではややネガティブなイメージを持たれている印象もあります。
南 めちゃくちゃ使っていますね(笑)。たしかに日本だと、利益誘導のようなイメージを持たれることも多いのですが、実際にやっていることは「未来についての話し合い」です。
ロビー活動のイメージをアップデートしていきたくて。いわば“ロビイング2.0”ですね。シェアリンングエコノミー伝道師の石山アンジュさんと一緒に手がけている「PMI(Public Meets Innovation)」でも、よくそんな議論をしています。
長谷川 なぜロビイング2.0が必要なのでしょうか?
南 パブリックな観点で本気で日本を良くしようとしている官僚の方々が、実際に企業が何を考えてどういったビジネスを進めようとしているのを知らないのは、もったいないと思うんです。そのギャップを埋めるべく、最先端のテクノロジーの状況や、それに基づくビジネス構想を伝えています。
CREWについての話題が出たとき、「そんな違法なサービスがあるなんてけしからん」とならないように、CREWの取り組み内容やビジネスモデルを前もって説明しておいたり。「道路交通法の許可なしにヒトがヒトを運送するって、そもそもどういうこと?」といった懸念事項に対し、一つひとつ丁寧に説明し、「ファンを増やしている」感覚です。
事前に知っておいてもらうことで、もし万が一なにか問題が起きたとしても、正しく理解してもらえる可能性が高まります。
長谷川 なるほど。法律の変化などにも、常にキャッチアップしながら動かれているのですよね?
南 おっしゃる通りです。法律はこの先も刻々と変わっていくので、常に情報収集しながら動き続けていますね。国会のスケジュールを見れば、法案が書かれたり審議会が実施されたりする時期は分かるので、そうしたタイミングにあわせて動いています。
たとえば「自家用有償旅客運送」と呼ばれる、交通空白地で自家用車を使い、人の運送を助ける制度があります。次の国会で法改正がなされる予定になっていますが、交通課題を抱える地方ではよく話題になることもあり、注目しています。
大手事務所で感じた“限界”。スタートアップの世界に足を踏み入れた理由
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