デザイナーの池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生ーー世紀末ボーイズトイ列伝』、番外編『トイ・ストーリー4』論のラストとなる第3回です。ジェンダー論的な「政治的正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)を体現する本作で、ウッディやバズに代わってマチズモを象徴する役割を与えられたキャラクター・カブーンから「新しい男性性」の萌芽を考えます。
※注意:本記事には『トイ・ストーリー4』のネタバレが含まれています。
物語のレベルで「置き去り」にされるバズ
『トイ・ストーリー4』は、現代におけるジェンダーと結びついた美学の問題を、おもちゃという必然性あるモチーフによって整理し、ボーというキャラクターを中心に力強く描き出した傑作です。しかし本連載の立場からは、ふたつの問題点を指摘したいと思います。象徴的にいうなら、それはバズの立場が希薄化しているということに集約されます。
ひとつは、『トイ・ストーリー3』まで展開されていた、アニメーション映画史におけるコンピュータ・テクノロジーという主題が後退してしまったこと。これは3DCGがあまりにも当たり前になったという時代の変化に対応していますし、『トイ・ストーリー3』でアンディの物語と共に完結した主題であったので、脚本上の要素の取捨選択としてはむしろ正当なものであるともいえなくはありません。しかしウォルト・ディズニーが確立したアニメーションの伝統を、コンピュータ・テクノロジーで大胆に換骨奪胎し更新していくダイナミズムによって駆動されていた前3作に対して、こうした文脈での批評性は限定的なものに留まってしまっている印象はあります。
先述のように、バズはテクノロジーを象徴するキャラクターでした。バズが物語上積極的な役割を果たす立場でなくなっているのは、テクノロジーという主題がほぼ放棄されていることと関係しているでしょう。これには90年代にはまだギリギリ「新しいもの」としてのイメージを持っていた宇宙飛行士やギミック満載のアクションフィギュアというモチーフが、現在では「中途半端に古いもの」という非常に扱いにくい存在になってしまったという難しさもあると思われます。しかしそれでも「トイ・ストーリー」シリーズが、ポリティカリー・コレクトな世界以上の「未来」を語ることができなくなっている現状には、一抹の寂しさを感じてしまいます。
もうひとつ、より大きな問題は「新しい男性性」の描かれ方が不十分であることです。これまでの作品において「新しい男性性」を象徴してきたのはバズでした。本作において、バズはほとんど物語の中心から外されています。「旧い」「新しい」という縦軸と、「男性性」「女性性」という横軸によって区切られる四象限を定義するとき、『トイ・ストーリー4』は「新しい女性性」による「旧い男性性」の放逐と「旧い女性性」の救済を描いているのですが、「新しい男性性」については、ほとんどなにも描いていません。
ギャビーを通じて「旧い女性性」を救済しつつボーに「新しい女性性」を象徴させ、「旧い男性性」の象徴であるウッディを葬る物語を描いた『トイ・ストーリー4』が語り残してしまったもの、それはアニメーションの未来と「新しい男性性」ーーバズの物語であった。これまで論じてきた本作の問題点は、このようにまとめることができるでしょう。
デューク・カブーンとジョン・ウィック
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