宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。2月19日に放送されたvol.23のテーマは「学校はいじめにどう立ち向かうか」。千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんをゲストに迎え、いじめ問題に対して今、学校で行われている対策についてや、藤川さんのNPOが現場で取り組んでいるスマホアプリ活用を促す授業などについてお話を伺いました。(構成 籔 和馬)
NewsX vol.23 「学校はいじめにどう立ち向かうか」
2019年2月19日放送
ゲスト:藤川大祐(千葉大学教育学部教授)
アシスタント:後藤楽々
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。
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時代による、いじめの変化とその対策
後藤 NewsX火曜日、今日のゲストは千葉大学教育学部教授、藤川大祐さんです。
宇野 藤川先生のメインの研究は「授業をどうおもしろくするのか」で、エンタテイメントの手法で、より効果的な授業をする研究成果をまとめた『授業づくりエンタテイメント!』という本を出されています。
藤川 エンタテイメントに学んで、楽しい授業をつくろうという研究をしています。
宇野 また藤川先生は授業づくりの研究の一方で、メディアリテラシー教育をどうするか、いじめ対策をどうしたらいいかということも研究されていて、実際の教育現場で実験をされたりしているんですよ。なので、今日はいじめというテーマで、あらためて藤川先生と議論したいなと思っています。
後藤 最初のキーワードは「なぜ、いじめ被害は起き続けるのか」です。
宇野 「なぜ、いじめ被害は起き続けるのか」とテーマ設定をしたんですけど、今日大津の事件の裁判判決が出たりしましたけど、社会を挙げていじめ対策をしなきゃいけない動きがずっとあると思うんですよ。近年その声が高まっているんだけど、実際にどのような取り組みが行われて、どういう成果があって、どんな課題があるのかという前提は共有されていないというか、ブラックボックスになっていると思うんですね。そこを藤川先生に解説してもらうところから議論を始めたいと思っています。
藤川 まず文部科学省の統計から見ていきたいと思うんですね。上のグラフが文部科学省のいじめ認知件数です。いくつかの線がありますが、一番上が合計なので、一番上の線を見ていただくとわかるんですが、ここのところ急激に多くなっているんですね。平成18年が少し多くて、平成24年からずっと多いですよね。これはちょうど今日判決が出た大津の事件が平成23年に発生して、平成24年からさまざまないじめ対策をきちんとやっていこうという動きが急速に強まって、いじめをしっかりと認知しようという動きになったので、こういう変化が起きているんです。
宇野 つまり、きびしく取り締まろうと思ったことで、計上されるいじめの件数が増えたんですか?
藤川 そうです。きちんといじめを認知しましょうとなりました。いじめは曖昧なものなので、先生の主観によって「これはいじめかな?どうかな?」と思ったときに、あまりいじめが多いと嫌だという気持ちも働きますから、「この程度だったらいじめとしてカウントしない」という主観的な判断が働きやすかったんですね。それを変えようというのが、大津のいじめ事件をきっかけにかなり進んだということですね。
それまでのいじめの問題は、ずっとグラフがありますけど、1980年頃、葬式ごっこがなされたことで知られる中野富士見中の鹿川くんという生徒が亡くなった事件あたりから、かなり注目されるようになり、何年かに一回深刻ないじめ事件が起きて、そのときは注目されるんだけど、しばらくすると冷めてしまう。それの繰り返しだったんですね。
いじめについての研究も、社会学的な分析が多いんです。教室の空気があって、誰かを排除する空気ができあがって、その人を排除するんじゃないか。あるいは、いじめを傍観者で見ている人がいじめに影響を与えているんじゃないか。そもそも学級組織のような、同じ人がずっといるような組織がよくないんじゃないか。そういった分析はたくさんあったんです。でも、対策の議論がほぼなかったんですね。だから、対策はほとんど経験則で、先生たちが工夫するばかりだったんです。
それを変える契機になったのが、大津のいじめ事件で、平成23年に起きて、翌平成24年に注目されるようになりました。私がいじめ研究に取り組むようになったのも実は新しくて、そのへんからなんですよ。それまでも関心があって、いろいろと文献を見ていたんですけども、本来授業づくりが専門だったものですから、あまり縁がなくて少し距離を置いていたんです。でも、やっぱりこれほどのことが起きていて、また同じことを繰り返してはいけないと私を含めて多くの人が思いました。ジャーナリストの荻上チキさんもそのように思って、当時いじめのデータをいろいろ分析して「ストップいじめ!ナビ」という組織をつくって、データに基づいたいじめ対策をしようと動きました。
私は過去のいじめの事例をきちんと振り返って、どういう教訓があるのかをもとにいじめ対策を進めようというような議論で本を出したりしていました。『授業づくりエンタテイメント!』のひとつ前の本は、いじめの本(『いじめで子どもが壊れる前に』)です。
ということで、平成24年を期にかなり研究の流れが変わった。それまでのアカデミックで社会学的な路線から、実効性のあるいじめ防止対策を実践的に研究しようという流れに変わった。政治の側でも、平成25年に、「いじめ防止対策推進法」という法律ができまして、いじめについて初めて法律に基づいた対策をすることになりました。
この法律で大きなポイントは、いじめについて計画を立てて、組織的に対応することを決めたことなんですね。それまで、いじめの対策は各学校にほとんど任せられていたんですけど、学校がいじめについて対策の方針を決めて、それを公表しましょうとなりました。そして、担任の先生が個人で動くのではなくて、学校の組織で対応することになった。そこが大きい変化です。その中で、いじめについては誰かがイヤな思いをしたら、それはもういじめですよと広く捉えようとなったんですね。だから、急激に件数が増えてきました。それもまだ数え方が足りていないんじゃないかと毎年言われているので、ここ2〜3年でどんどん増えていて、新聞の見出しではいじめの件数は41万件ぐらいと出ます。でも、件数が多いのは悪いことではなくて、きちんと数えるようになってきたということですね。こういう変化が今起きています。
宇野 実際に教育現場でのいじめ対策は変わってきているんですか?
藤川 もちろん温度差は学校や地域によって、かなり違います。実は、私は今千葉大学教育学部附属中学校の校長をやっていますが、私がいる学校や周りの学校では、いじめに該当する事案があると、見つけた教員は学年や組織で必ず共有して、その日のうちに管理職まで報告するようにしています。管理職の指示のもとで一定の方針を立てて、どんなに小さい事案でも対処していくようにしています。
宇野 藤川先生はもうひとつの大きい研究テーマとして、メディアリテラシーの問題があると思うんですよ。今インターネットがあることによって、いじめの形態も変わってきていると思うんですけど、そのへんはどうなんですか?
藤川 これは文科省が2006年から統計を公表しているものを私がグラフ化したものなんですが、一番上の緑が高校、真ん中の赤が中学校なんですね。同じようなカーブを描いていますけど、平成19年度にちょっと多いんですね。また下がって、平成25年から多いんです。これはピークが2回あったということです。平成19年度のところが多いのは、ガラケーでプロフィールサイトや学校裏サイトなどが流行った時期です。その後啓発が進んで、ネットいじめが下がってくるんですね。
ところが、今多いのはLINEなどのSNSのいじめです。これはスマホの普及から始まっていて、スマホが子どもたちに普及したのは、はっきりと平成25年度なんです。ちょうどいじめ防止対策推進法ができたときなんです。その時期に、たまたまスマホが一気に普及しました。やっぱりLINE関係のいじめが多くて、LINEで悪口を書いたり、仲間はずれにするとかはもちろんありますし、最近はバレないようにする方法で、タイムラインという機能で日記みたいなのがありますね。あれでちょっと悪口を書いておいて、しばらくすると消すんです。ということは証拠が残らないんですよ。今では24時間以内なら消せるようになってしまいましたけど、LINEでメッセージを送っちゃうと、誰かの端末に証拠が残ってしまいますからね。あるいはアカウントの下にちょっと一言を書く、ステータスメッセージがLINEにはありますよね。あそこに、「ちょっとうざいんだけど」や「ちょっと私のほうを見ないで」など誰のことかは見る人が見ればわかるようなことを書いて、また少ししたら変える。このように証拠が残らないようにして、ネチネチいじめるのも多いですね。
一方で、たとえば、女の子が男の子と一緒に歩いている写真を撮って「こいつら仲がいい」みたいなことを流しちゃう。(後藤さんに向けて)そういうのイヤですよね?
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