宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。11月27日に放送されたvol.13のテーマは「都市と農業のこれから」。株式会社えと菜園代表取締役の小島希世子さんをゲストに迎え、独自に構築した生産・流通・販売の仕組みや、土いじりを通じて自己実現を目指す、新しい農業体験のあり方について考えます。(構成:籔和馬)
NewsX vol.13
「都市と農業のこれから」
2018年11月27日放送
ゲスト:小島希世子(株式会社えと菜園代表取締役)
アシスタント:加藤るみ(タレント)
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農業体験を通じて、農家と食卓との距離を縮める
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社えと菜園代表取締役、小島希世子さんです。宇野さんと小島さんはどういった経緯でお知り合いになったんですか?
宇野 3〜4年前に大阪のグランフロントで、関西や西日本で活躍しているイノベーターを集めて、いろいろプレゼンをしてもらうイベントがあったんですよ。僕はコメンテーターで、小島さんは出場者という関係で来ていたんです。そのイベントがMBSという大阪のTBS系列のテレビ局の特番にもなっていて、その公開収録で知り合ったのが最初なんです。そのとき、小島さんが話していたことがおもしろいなと僕の頭の中でずっと引っかかっていて、どこかのタイミングで呼びたいと思っていて、この番組が始まったので来ていただきました。
加藤 今日の小島さんとのトークですけど、テーマは「都市と農業のこれから」です。宇野さん、こちらのテーマを設定した理由は何ですか?
宇野 その番組で小島さんは社会起業家の扱いだったけど、実際に小島さんがやっていることはもっと幅広くて、僕ら都市生活者にとって農業とはどういうものなのかを問い直す力があると思うんですよね。なので、今日は小島さんのいろんな活動をうかがいながら、日本の農政ではなくて「僕らの生活と農業」について考えたいなと思います。
加藤 今日も三つのキーワードでトークしていきます。まず一つ目のキーワードは「まちのひとが農業を支える」です。
宇野 「まちのひとが農業を支える」とは、まさに小島さんがやっているテーマのひとつなんです。まず小島さんの活動を説明していただくところから始めたいと思うんですよ。なんで農業ベンチャーを始めたんですか?
小島 30年前まで遡って、私が10歳ぐらいのときですかね。私は熊本県の農村出身で、両隣の家が農家で牛を飼っていたり、小学校の同級生のお父さんがお米農家や大豆農家だったりするところで育ったんですね。ただ、うちの両親は普通の地方公務員、学校の先生だったので、家には乗用車が一台しかなかった。友達の家には牛もいるし、トラックやトラクターもある。農家ってかっこいいなと思っていたんです。そんな感じで農家に憧れを持っていたんですけど、大きなきっかけは小学校の低学年のときに観たドキュメンタリー番組なんです。食べ物がない国があるという番組を観て、将来そういう国に行って農業をしたいなと思い、農家を目指すようになりました。そこから海外で農業をするために体を鍛えなきゃと思って、中高時代、柔道や空手や剣道をしたんですよ。バイオテクノロジーなどで不作の地でもできる作物をつくれたらいいなと思って大学受験で農学部を受験したんだけど失敗をしてしまって、一浪してもう一回チャレンジしたんですけどまた落ちちゃったんですね。予備校の先生が「農学部にこだわらなくても、国際協力や食糧問題について学べる学部がある」と言われたので、大学進学のために上京してきたんです。田舎から急に都会に出てきて、横浜駅で初めてホームレスの人を見て、現代の日本でも衣食住に困っている人がいる、日本でもまだやることがあるなと思ったので、大学を卒業して農業系の会社に入って、その後独立したという経緯があります。
宇野 その農業系の会社とは、どういう会社なんですか?
小島 最初入った会社は、400軒の農家さんと協力をして、食品メーカーなどに原料を送る会社でした。二つ目の会社は有機農業の会社で、その会社は面白くて、1700軒の農家が株主なんですよ。農家のみんなで出資し合ってつくった会社なんです。そこで有機農業の作物を流通させたり、栽培指導をしていました。
宇野 既存の農協に依存したシステムとは別の回路で有機農法をやりたい人たちが株主になってやっている会社ということですよね。
小島 かなり熱い会社です。
宇野 小島さんが独立するときは、最初はどういうビジネスだったんですか?
小島 自分が独立するときは、最初に農家直送のオンラインショップを始めたんですね。もともと有機をやりたかったし、私の出身が熊本なので、有機にこだわっている熊本の農家さんの作物を扱おうと考えていました。そういう農家さんの作物も農協に出しちゃうとこだわりがなかなかお客さんに伝わらないのはもったいないので、直送スタイルにしました
宇野 今の農協のシステムを使うと、どうしても生産者の顔が見えなくなりますからね。
小島 もちろんお客さんがたくさん買ってくれるという長所はあります。また、不特定多数の生産者から市場に作物を集めて、不特定多数の消費者に分配する仕組みだから、消費者はいつでもどこでもどんなときでも好きな量の作物を買えるメリットがあるんです。でも、誰がつくったかは見えなくなるので、生産者を選んで買えない。それを解消したいなと思っていました。それで、キャッシュフローの問題もあって、最初は通販から入って、農地を借りました。通販で農家さんと消費者の距離は近くなったんですが、消費者の方に農業を実際に体験してもらうほうが距離が近まるなと思って、農業体験を始めました。それと就労や農家になりたい人のトレーニングにもなってほしいということもあって、起業しました。
宇野 今やっているのは基本的にはオンラインショップと貸し農園なんですか?
小島 大きく三つなんですけど、ひとつは普通に農家として作物をつくっています。
宇野 普通に自分の農家をやっているんですね。
小島 今日もここに来る前に、大根をチェックしてきました。農薬や化学肥料を使わずにだいたい年間30種類ぐらいの作物をつくっています。
宇野 流通も自分でやっているんですか?
小島 体験農園に来てくださるお客さんに販売したり、徒歩圏内で行けるスーパーに出したり、「顔が見える生産者」とよく言われるんですけど、うちの場合、「顔が見える消費者」の方々に支えられています。
宇野 今、小島さんの畑がある藤沢に行ったら、近所のスーパーに行くように買えるわけですよね。
小島 買えます。あとは直売所もやっています。熊本の農家さんの作物も売っているし、自分たちでつくった作物も売っています。
宇野 貸し農園では、具体的にどんなことをやっているんですか?
小島 貸し農園では、お客様が自分の7坪の体験エリアで種まきから収穫まで年間20種類の野菜の栽培を楽しめるんです。今日はその様子を撮影した写真を持ってきました。
宇野 これは何をしているところですか?
小島 毎週やっている野菜作りの日曜講習です。
宇野 東京から来ている人もいるんですか?
小島 東京の方も藤沢市民の方も参加しています。
宇野 みんなで畑仕事を一日体験する感じですか?
小島 そうですね。講習が午前中に一回、午後に二回あり、どちらも同じ講習内容なので好きなときに出てもらって、各自で自分の7坪の体験エリアで作業する感じです。
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