地方創生の貴重な成功例として注目を集め、目下クラウドファンディングによる全国への支援呼びかけも実施中の石川県能登町「春蘭の里」に、宇野常寛とPLANETS編集部がお邪魔してきました。恵まれた風土と文化、豊富な山海の幸、故郷を蘇らせるため奮闘するパワフルなリーダー。そこから見えてきた「地方創生」の形とは? 2日間にわたる奥能登の旅のレポートを前後編でお届けします。全文無料公開です。
「春蘭の里」のクラウドファウンディングはこちらから(11月25日まで)
1泊2日、奥能登「春蘭の里」へ!
高く澄み渡る秋晴れの空、四方に紅葉間近の濃い緑の山、山、山…。とある10月のある日、PLANETS編集部一行は「のと里山空港」に降り立ちました。
▲のと里山空港の入り口
ことの発端は2018年3月、向島百花園にて行われたNPO法人ZESDA主催のイベント「山菜の、知られざる魅力」。(イベントの様子はこちら)このイベントでは宇野常寛が「アドバイザー」として登壇し、「地方創生」をメインとした講演を行いました。同じくこちらのイベントで基調講演を行った「春蘭の里」代表の多田喜一郎さんは、自らの故郷・石川県能登町の昔ながらの里山の風景を残すため、農家民宿を行うことで日本でも有数の「農家民宿」を行う里として、今や国内外から注目を浴びています。
3月に行われたイベントでは、多田さんのお話を聞いた宇野が「別に京都やローマみたいに、観光で一大産業を打ち立てようってわけじゃない。地域の人達の暮らしや、昔ながらの文化を守れるレベルでお金を稼げれば十分なんだから、少数でもいいから、この取り組みを支援したいファンを直接ネットで募ってお金を集めるのが良いのではないか」とアドバイスしたところ、「いいね! やりましょう!」というやり取りで盛り上がりました。
それから半年、そこから立ち上がったクラウドファンディング・プロジェクトが、あれよあれよといううちに実現することになり、なんとそのお披露目式に宇野とPLANETSの面々が春蘭の里へご招待いただくことに。
今回は、念願かなってついにPLANETSが初訪問することになった「春蘭の里」の魅力を、あますところなくレポートします!
農家民宿体験 きのこ狩り
今回の旅でPLANETS編集部は、実際に多田さんが経営する宿「春蘭の宿」に泊めていただき、「農家民宿」を体験させていただくことになりました。「のと里山空港」から車に乗ること約10分。あっと言う間に「春蘭の里」に到着した一行は、多田さんご夫妻が営まれている「春蘭の宿」に向かいます。
▲「春蘭の宿」到着! 立派なお屋敷です……!
今晩の編集部一行の宿「春蘭の宿」に上がり、立派な囲炉裏を囲みます。
▲囲炉裏に火をくべる多田さん
囲炉裏の火を眺めてほっこりしたあと、一行は農家民宿体験でも一番の目玉体験とされている「きのこ狩り」に向かいます。(多田さんのお家に泊まったときに「農家民宿体験」できのこ狩りは、季節によって「山菜狩り」になります)宿から10分ほど車を走らせたところで、きのこ狩りの舞台に到着しました。
▲多田さんの森の入り口
きのこ狩りができるのは、多田さんの私有地であるこちらの森です。扉は見るからに頑丈な有刺鉄線が張り巡らされており、「関係者以外立ち入り禁止」の看板が立っています。が……聞くところによると、最近は「きのこ泥棒」が多いとのこと。多田さんのお話通り、足元をよく見るとたしかに何かが掘り返されたような穴がたくさん見られます。
▲穴が……。
多田さんにきのこ狩りのポイントをご教授いただきながら、森の奥へ進む一行。
「足元とか、木の根元見てるとあるのよ」
その言葉通り、注意深く下を向きながら歩くと、たしかに小さなきのこが……ある……!
▲落ち葉の合間から顔をだすきのこ
巷ではよく「きのこ狩りをしていて足を踏み外し、崖から落ちました」という事件を聞きますが、事件が起こる原因がよくわかります。最初は小さなかわいいきのこを発見するたびに歓声をあげていた一同ですが、森の奥に進むに連れ、より大きなきのこを求め、我先にと目を皿にして下を向いて歩きます……。
▲ファーストきのこゲット!
▲森の奥に進むにつれきのこの大きさが……。
ワイシャツにネクタイという出で立ちにもかかわらず、どう見ても道のない崖を軽々と上がっていく多田さんに必死についていきます。崖をよじのぼる最中、スタッフのひとりは見かけてしまいました。あの白くて丸い物体は…もしや……!!
▲ラスボス感のあるきのこにご対面です。顔よりでかい……!
見たことないほど大きなおばけきのこにひとしきり興奮したあと、多田さんに食べかたをレクチャーしていただきます。なんとこのおばけきのこでも、食べられるそう。
▲上の皮をむいて、割いて……。
その日の夕食で出てきたきのこは「自分たちで採ったきのこ」という実感も相まって、よりいっそうおいしく感じられます。(写真がないのが残念!)「体験型農家民宿」の体験に一同はなるほど、とうなずきます。たかがきのこ、されどきのこ。「自分で取るという体験、ストーリーがそのものを美味しくさせるのだ」という、以前のイベントでのひとことが蘇ります。
リノベ施設「こぶし」でファッションショー&土地の給食
きのこ狩りで得た収穫を手に、次に向かったのは民宿施設「こぶし」。
こちらの施設は春蘭の宿の農家民宿再生プロジェクトの一環として廃校になった小学校施設を改修し、宿泊施設・食事処としてリノベーションされた施設。昔懐かしい匂いのする体育館には、数々の農機具が展示されています。今ではなかなかお目にかかることのできない蓑とかさに沸く一同。
▲春蘭の里ファッションショー ウィンターコレクション「みの、かさ」
校舎部分の食事処では、観光客向けにお昼ごはんを出していただけます。小学校というだけあり、春蘭の山の幸が懐かしの給食のお皿に盛り付けられています。記憶のなかにある「給食」よりもはるかに豪華で、品数の多さに目を見張ります。山菜のてんぷら、キスの揚げ物、きのこと大根おろしの酢の物、つやつやとしたごはん、定番のポテトサラダ……。
▲給食の時間です!
▲教室の黒板には、こんな嬉しい書き込みが!
余談ですが、私たちが食事している間、どこからからともなく音楽が聞こえてきました。耳をよく済ませてみると……昭和歌謡曲? こんな場所で? 気になって校舎の奥へ見に行ってみると、校長室らしき場所で地元の方と思しき方々が、マイクを握りしめ気持ちよさそうに歌っているお姿を発見。この施設が、観光客の宿泊施設としてだけでなく、地元の方の交流の場所として機能していることを知り、ほっこりした気分で「こぶし」をあとにしたのでした。
山と海、奥能登の豊かさ
お昼ご飯ですっかり満たされた一行は、車に乗り込み、次の目的地へ向かいます。車内ではZESDAの方々から多田さんの数々の武勇伝(噂話)や、「地域おこし」の現状、奥能登に初めて来たときのお話など、さまざまなお話を聞きながら、10分ほど車を走らせたときでした。それまでののどかな田園や緑深い森の風景から一変して、突然広い海岸線が現れました!
▲緑深い景色と打って変わって、真っ青な海が広がります。
陽の光を受けてきらきらと光る水面、穏やかな港町の風景……。たびたび春蘭の里を訪れているZESDAのスタッフの方は、能登の地域の最も魅力的な点は海と山が近い点だと言います。
▲「ボラ待ちやぐら」は、江戸時代に編み出された漁法だそうです。
その言葉通り、次に向かった「能登民俗資料館」ではボラ漁、地元海軍の方の武勇伝など、昔から海とともに暮らしてきた記録が数多く展示されていました。
▲大きな塩窯と台所
今回訪れた「能登町民俗資料館」では、このように地元の昔ながらの風俗が展示されている「民俗館」がある一方で、「郷土館」では昔ながらの能登のお屋敷がそのまま展示されています。こちらは能登町の網元のお屋敷が当時の姿のまま残されており、お屋敷に入ると、まるでタイムスリップしたかのよう。
▲能登町民俗資料館「郷土館」の外観。「能登造り」では珍しい茅葺き屋根。
▲仏間から見た縁側の庭
こちらの写真は郷土館の中央、仏間から臨む縁側の風景。屋敷の中央に位置する仏間から、もみじの植えられた庭を眺めることができるような間取りになっています。秋になると紅葉の景色を眺めることができるそうです。計算しつくされた日本家屋の粋な設計に趣を感じます。
海と山に恵まれた豊かな環境と、古くから営まれてきた暮らしの歴史に触れ、奥能登のさらなる奥深さを体験した一行。宇野曰く、「これがほんとのディスカバー・ジャパンだ!」
能登の情熱の結晶「マルガー・ジェラート」
お次は能登町にあるジェラート店、「マルガー・ジェラート」にお伺いしました。店主の柴野大造さんは昨年、世界最大のジェラートコンペティション部門でグランプリを取ったという、凄腕のジェラート職人さんです。今回はZESDAさんのご厚意のもと、特別にPLANETSの取材を受けてくださることになりました。
▲「マルガー・ジェラート」本店
まず到着したとき目に飛び込んでくるのは、おいしそうなジェラート屋さん…ではなく、店舗の裏に広がるのどかな田んぼの風景。こんなところに世界最高峰レベルのジェラートがあるのか……? 主張を感じさせないこじんまりとした店構えに、期待が高まります。さっそく、ジェラートを注文します。
▲マルガー・ジェラートのメニュー表。ひとつだいたい3〜400円でいただけます。
各々思い思いのジェラートを注文し、口に入れた瞬間に驚嘆の声があがります。
「なんだこれうま!! 」「ジェラート……!?」
もともと能登町で牧場を営むご家庭に生まれたという柴野さんは、東京の大学に進学した学生時代に帰省した際、自分の父親の絞った生乳の美味しさに衝撃を受け、この美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思ったのが、ジェラート作りの原点であると語ります。そこから20年、ここ、能登の地でジェラートを作り続ける理由について、こう語ります。
「『ここに来なければ体験できない』『ここに来なければ食べられない』『ここに来なければ会えない』そこがすべてのキーワードかなと思ってます。僕が信じてるこのジェラートの可能性っていうのは、世界中からこのジェラートをキーワードにして人が集まってくる仕組みそのもの。ジェラートは、その起爆剤になる力を持っているんじゃないかと思ってます」
▲マルガー・ジェラート社長・柴野大造さん
1時間にわたる熱いインタビュー取材を終え、宇野がぼそっと一言。
「なんか話聞いたらまた食べたくなってきた……」
この言動にそそのかされ、2回目のジェラートにぱくつきます。当日、外の気温は10℃を下回る秋の冷え冷え夕暮れ時…。歯の根が合わないほどの寒さに震えながら、ジェラートのおいしさに感動するのでした。
▲「能登の塩」味と「赤崎産いちご」味に、おためしショコラ味。
こちらのインタビューは後日別記事として配信予定です。お楽しみに!
(続く)
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コメント
いつも楽しく読ませてもらっています。
記事にジェラート職人の柴野さんの名前を見て驚きました。
先日NHKBSにてイタリアで行われた世界ジェラートコンクールの映像を見ていたので…
奥能登は能登空港が出来るまで「東京より最も遠い地域」と言われていた。
つまり、日本で東京から到達するのに最も時間がかかるという意味で、
僻地中の僻地だったわけだ。