宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月16日に放送されたvol.7のテーマは「〈伝統〉をアップデートする」。ゲストに丸若裕俊さんを迎えて、茶を通じて日本の伝統を現代に更新する取り組みや、生活にリズムを生み出す句読点としての茶のあり方などについて語り合いました。(構成:籔和馬)
NewsX vol.7
「〈伝統〉をアップデートする」
2018年10月16日放送
ゲスト:丸若裕俊(丸若屋代表・EN TEA代表)
アシスタント:得能絵理子
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【インタビュー】丸若裕俊 茶碗に〈宇宙〉をインストールする 前編|後編
『ボーダレス&タイムレスーー日本的なものたちの手触りについて』
猪子寿之がもたらした佐賀での出会い
得能 NewsX火曜日、今日のゲストは丸若屋代表・EN TEA代表の丸若裕俊さんです。まずは、宇野さん、丸若さんとどういう経緯で知り合ったのかを教えてください。
宇野 友人の猪子寿之さんが、長崎県の大村市という長崎空港がある町で、講演会と長期の展示をやるから、そこに来てくれということで行ったんだよね。そこで、大村市長をはじめ、いろんな地元の業者とか地元マスコミとかいるんだけど、「これぞ日本の地方」という感じのすごいテンションの高いガハハ系のヤンキーが主導権を握っている地元中学校同窓会みたいな感じだった。みんな狩猟民族で居場所がないなと思った中に、ひとりだけ農耕民族がいるなと思って、ちょっと話してみたのが、丸若さんなんだよ。丸若さんは猪子さんともずっと仕事をしているし、個人的にもすごい親しい関係で、佐賀に自分の茶葉事業の拠点があって、あの時もそこに訪れていたんですよね。
丸若 僕も猪子さんに呼び出されて、大村に行ったら、宇野さんがいたんですよね。だから、本当に会うべくして会った感じですよね。
宇野 丸若さんはすごくカッコいい車とかに乗っていたんだよ。この人だけが文化の香りがすると思っていて話しかけて、お仕事の話とかをさらっと聞いて、そのあと夜にホテルに戻って、調べたら、この人はすごい面白いことをやっているなと思った。そこで僕から丸若さんにコンタクトをとって、ちょっといろいろ話を聞かせてもらえませんかと言ったことがきっかけで、今ウチのメールマガジンで丸若さんの仕事とそのコンセプトを語ってもらうという連載(『ボーダレス&タイムレスーー日本的なものたちの手触りについて』)もやっているし、「PLANETS vol.10」にも出てもらっているような関係ですね。
伝統・文化の21世紀的解釈
得能 今日のテーマは「〈伝統〉をアップデートする」です。
宇野 誤解しないでほしいんだけど、今から「日本の伝統・文化は最高だ」とか「最近の若者はチャラチャラしていているから、もっと日の丸とかを崇めろよ」みたいな、ネット右翼みたいなことを言う気は全くないわけ。わびさびが大事とか、おもてなしが大事とかいう話も一切ない。どちらかというと、丸若裕俊というクリエイターが日本のトラディショナルな生活文化から何を持ち帰って、それが今の僕らの生活とか、社会にとってどんな意味を持つのかという、そういう話をしてみたい。
得能 ひとつ目のキーワードは「丸若裕俊とは何者か」です。
宇野 ここまで聞いて、丸若裕俊という人はどういうことをやっている人なのかと真っ先に疑問が湧いていると思うので、ざっくりと丸若さんがこれまで何をやってきたかということを紹介してもらって、そこから話を始めたいなと思います。
丸若 僕がやっているものは、伝統・文化というようなもの。僕の場合は、それがプロダクト、職人技術で作るものづくりがほとんどなんです。そのなかで、僕は翻訳する役なんですね。昔ながらの日本の伝統・文化をそのまま伝えると、今はもう生活環境があまりにも変わっちゃっているじゃないですか。
宇野 ふすまの絵とか、時代劇に出てくるようなお茶碗とかになっちゃうということですよね。
丸若 そういうものも、もちろんシチュエーションがその当時であったら、こういう効果を発揮していたという事例がありますよね。その同じ効果を現代だったら、どうやったら伝えられるのかということを、僕の場合、言葉じゃなくてモノを作るということで、みんなに伝えていく仕事をしているんです。でも、実際にモノを作るのは職人さんなんですよ。職人さんが作ってくれるものを僕がセコンドみたいな感じで寄り添って作っていくことを10年以上やっているんですね。
宇野 僕は京都での生活が長かったので、街を歩いていて目に入るレベルで伝統・文化のあるものにめちゃくちゃ接してきたわけですよ。1000年以上の歴史のあるものが、『ポケモンGO』のザコモンスター並みの感じでいっぱい遭遇するというね。それで、そういったものは京都であるから、偽物であるわけはないんですよね。でも、それがときどきコスプレのように見えちゃうときがあった。だって、京都の街中は超近代化されていて、現代的な文化的な都市だからね。京都の伝統・文化がすごいことはよくわかるんだけど、それは当時の平安時代とか室町時代においてエッジだったものであって、それを今の日本においたとしても、街中に博物館があるようにしか見えないわけですよね。そういったものに対して、丸若さんは当時の伝統・文化のエッセンスを抜き出してきて、今に蘇らせたらどうなるか。500〜1000年前の当時の名匠たちがもし今生きていたら、こんなものをやっていた人だったんじゃないかな、ということをしているというのが、僕の理解なんですよ。
丸若 たとえば、ひとつの文化において400〜500年くらい前に、こんな素晴らしい作品がありましたとなったときに、それは大きく分けると二つの要素でできているわけですよ。ひとつは「本質」、もうひとつは「時代感」。この二つのものがベストバランスで混じり合っているものが「名品」と呼ばれているわけですよ。そこで重要なことは、本質という部分は変えちゃいけないんです。1ミリも変えちゃいけないし、角度も変えちゃいけないんですよ。そのモノのガワの空気をまとう部分、時代を反映する部分は、僕が21世紀という時代を生活していているんだったら、21世紀をそのものにフルに表現しなくちゃいけないと思っているんです。それでようやくイコールになりえると思っているんですね。僕がそれをやろうと思ったのは、「これだったら自分でなにかできるな」「人よりかはなにか形にできるな」と思ったからなんです。だけど、多くの場合はその逆なんです。本質を変えて、ガワだけ残す感じになっている、いわゆる和風といわれるようなものになっちゃっている気がしていて、それだと職人さんとかモノを作る人たちももったいないなと思ったんですよね。
宇野 すべてのカルチャーにはタイムレスな本質が、特に名品と呼ばれているものであるほど横たわっています。その本質がリアルタイムの空気とぶつかることによって、化学反応的にいろんなものが生まれていくというわけですよね。丸若さんはその本質の部分をちゃんと時間を超えて持ってきて、21世紀の今の空気にぶつけて化学反応を起こしているんですよ。
なので、次のキーワードから、丸若さんの具体的な作品を見ながら、お話していきたいなと思います。
「工芸批評」としての工芸
得能 続いてのキーワードは「工芸のアップデート」です。
宇野 丸若さんのお仕事をざっくりと大きく分けると、「工芸」と「茶」でいいですよね?
丸若 そうですね。
宇野 なので、前編後編みたいな感じで、最初は「工芸」について色々語ったあとに「茶の話をしたいと思っているので、まずは「工芸」からいきたいなと思います。
▲上出長右衛門窯作 PUMA 8 SPEED URBAN MOBILITY BIKE
丸若 僕が工芸と出会って、やっていこうとなったきっかけが、この自転車(『上出長右衛門窯作 PUMA 8 SPEED URBAN MOBILITY BIKE』)なんですよ。パッと見た目はおしゃれな自転車ですよね。これは北欧のデザインで、MoMAとかにデザインが所蔵されるような自転車で、プーマさんがその当時、日本で自転車を出そうとしていた企画から生まれたものですね。この自転車には実は、伝統工芸と言われる技術と工業、日本の美意識と北欧の美意識が混ざっているんですよね。
丸若 これがパーツだけの写真です。石川県の九谷焼という焼き物があるんですけど、その焼き物は磁器でできているんですよ。伝統的な技術のものがなんでパーツになっているのかというと、家で飾るときはこれをつけて、外に行くときはいわゆる普通のサドルだったり、グリップだったりに替えられるようにしたんです。
あと、僕は子供心をすごく大切にしているんですよ。やっぱり変形とか、パーツが分解できるとか、そういう楽しみって子供心にくすぐられるので、そういうのを作品に入れたかったんですよね。
宇野 ガンダムのプラモを改造したり、ミニ四駆にハイマウントローラーつけたりみたいな感じですね。
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