香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。 7月1日は、香港の主権がイギリスから中国に返還された記念すべき日でした。2003年と2014年の激動の返還記念日デモを振り返りながら、新しい熱気が生まれつつある2018年のデモの様子を報告します。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第18回 2018年の返還記念日デモで考えたこと
7月に入りました。今月、最も重要なのが返還記念日デモへの参加です。
1997年7月1日、香港の主権がイギリスから中国に移りました。この日は、その後の香港の多くの変化を象徴することになります。以降の十数年間で、多くの香港人は民主、自由、法治などの普遍的な価値が、だんだんと衰退していくのを実感することになりました。
1997年以降、香港の団体「民間人権陣線」はその1年で最も注目を集めた議題を取り上げ、返還記念日デモを開催しています。
今年のテーマは「結束一黨專政,拒絕香港淪陷(一党独裁を終わらせよ、香港の陥落を拒否せよ)」です。わたしは去年と同じように、香港衆志の仲間たちや、民間の戦友たちと共にデモに参加しました。
返還記念日デモの参加人数は、その年の社会の雰囲気を、かなりリアルに反映しています。市民の政治的な訴えや、香港の経済環境、社会政策にも深く関係しています。
過去に一番参加者が多かった年は、2003年と2014年になります。
2003年当時の香港は、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行し、多くの市民と医療関係者が命を落としました。世界の経済環境も悪く、失業率が高い状態でした。
さらに、当時の香港政府は基本法23条(※注1)の制定を進めようとしていました。これは民衆の反対の声を抑え込み、市民の基本人権と自由を侵害する条例です。普段あまり政治に関心がない人でさえ、政府が基本法23条を通して、国家転覆・分裂の罪をデモ参加者に押し付けるやり方に、強い不安と不満を感じることとなりました。さまざまな要素が集まったことで政府の支持率は急激に下がり、デモに参加する人数は、なんと約50万人にも達しました。
強い民意と穏健親中派の反対により、政府は基本法23条を撤回することになりました。
※注1:基本法は香港特別行政区内でのみ適用される法律。基本法23条は、国家の分裂や叛乱の扇動、政府の転覆を禁じる法律を、香港特別行政区自らが制定することを定めるほか、海外の政治組織の香港内での活動の禁止、海外の政治組織との接触を禁じる内容となっている。
▲返還記念日デモで演説するジョシュア・ウォン
そして2014年、すなわち雨傘運動の前に行われた返還記念日デモでは、約51万人(主催者発表)の参加者を記録し、参加人数では歴代最多の返還記念日デモとなりました。
雨傘運動は突然起こったのではありません。過去2年間にわたり、一般社会に対するさまざまな方法による宣伝で民意を固め、市民に民主選挙やデモ抗争の重要性を意識させたことで、雨傘運動へと発展したのです。2013年の戴耀廷(タイ・ヨウテイ)博士の「オキュパイ・セントラル」構想をはじめ、一般社会や民主派政党から、さまざまなな普通選挙案が提出されて、出馬もありました。
さらに2014年には、約80万人が622民間投票(※注2)に参加し、市民はいろいろな選挙案を知ることができました。一般社会からの宣伝による動員、さらに政府官僚による愚かな失言で、より多くの人々が政治改革や普通選挙などに興味を持ち、約50万人を越える参加者が集まったデモとなったのです。
※注2:2014年に香港の民間団体によって実施された選挙案を選択する住民投票。電子投票システムが大規模なハッキングを受けるなどの妨害もあったが、最終的に約80万人の有効投票を集めた。なお、中国・香港両政府はこの投票を無効かつ違法であると表明している。
▲握手に応じるネイサン・ロー
そして今年、デモへの参加人数はそれほど多くありませんが、去年よりも強烈な空気を感じました。
確かに、去年に比べると物議をかもすような話題が多い一年でした。
たとえば、わたしを含む自決派・本土派の人間が、立法会の選挙権を剥奪されたり、一国両制度と法治制度を破壊するJuxtaposed control(※注3)や、デモ参加者への実刑判決などです。
ほかにも連日、新聞で取り上げられているトップニュースでは、建設中の鉄道「沙中線(サーティン・セントラル線)」の度重なる不合理な工程ミスと安全問題もあります。
※注3:他国の領土・境界内で別の国の入管手続きを行うこと。ここでは香港と中国本土とを結ぶ高速鉄道の香港側の駅に、中国の入国管理施設の設置を認める条例案が可決されたことを指す。施設内では中国の法律が適用されるため、事実上の領土割譲であるとして批判が高まった。
わたしが一番恐ろしく感じるのは、香港人がこのような不合理に慣れてしまっていることです。でも、今回の返還記念日デモで、市民の怒りを感じ、香港にはまだ諦めていない人がたくさんいることを知ることができました。
これからも義憤も持って前に進んでいきたいです。
(続く)
▼プロフィール
周 庭(Agnes CHOW)
1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。
『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』これまでの連載はこちらのリンクから。
チャンネル会員の皆様へ
-
いま再編されつつある「フィクションと人間の関係」とは?――成馬零一、宇野常寛の語る『ど根性ガエル』(PLANETSアーカイブス)
-
一覧へ
-
【インタビュー】AR三兄弟・川田十夢 〈芸能〉を拡張する――笑いの更新としての『テクノコント』(後編)
ブロマガ会員ならもっと楽しめる!
- 会員限定の新着記事が読み放題!※1
- 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
-
- ※1、入会月以降の記事が対象になります。
- ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。
PLANETS Mail Magazine
PLANETS/第二次惑星開発委員会
月額:¥880 (税込)