本記事の記述に一部誤りがあったため、修正いたしました。読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。【5月9日12時00分追記】
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。最近の政治報道が森友問題やセクハラ問題一色でしたが、官報では私たちの生活に密接に関わっている「水道法改正」が審議中であることが報じられていました。主権者である我々の考えなければならない3つのトピックについて橘さんが考察します。
▲暮らしに欠かせない水。だけど、決してタダではないんです...
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
なお、第一回でとりあげたEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策)は、今年の正月に日経新聞「やさしい経済学」でも取り上げられていました。一見地味なトピックではありますけれど、いよいよ注目が集まり始めているのかなと思いました。
証拠に基づく政策とは何か(1)科学的知見を活用して決定 東京大学教授 山本清(日本経済新聞 2018年1月4日)
第一回から今回の第二回まで、ずいぶん経ってしまいましたが、その間は、「現役官僚の滞英日記」刊行記念として、PLANETSと活動する僕自身の自己紹介というか、マニフェスト的なエッセイを連載させていただいておりました。
さて、現在国会(第196回国会(通常国会))が開会中です。ご存知のとおり、最近の政治報道は、森友問題やセクハラ問題一色でした。しかし、その裏で、80本以上の法律案の審議も行われています。働き方改革関連法案やカジノ法案は比較的報道されているかもしれませんね。戦後最大規模となる97兆円7128億円の予算も3月28日に可決しています。
そんななか、本稿第二回では、敢えて「水道法改正」を取り上げたいと思います。なぜなら、今後僕たちが向き合っていかないといけない超重要なトピックが3つも含まれているからです。尚、これと非常に関係が深い、いわゆるPFI法改正(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律の一部を改正する法律案)もセットで論じます。
水道法改正のポイント
官報としては、2018年3月9日、水道法の一部を改正する法律案が閣議決定され、同日に国会に提出されたことが報じられました。実は、去年も、ほぼ同内容の法案が国会に提出されていました。しかし、2017年9月に衆議院が解散され総選挙になったため、廃案となりました。なので今回は再チャレンジになります。ちなみに下水道は国土交通省が所管しているのですが、上水道は厚生労働省が所管しているので、この法案の作成は厚生労働省が担当しています。
法案の提出理由は、内閣法制局(内閣が国会に提出する法案を最終チェックする役所)によると「人口減少に伴う水の需要の減少、水道施設の老朽化等に対応し、水道の基盤の強化を図るため、都道府県による水道基盤強化計画の策定、水道事業者等による水道施設台帳の作成、地方公共団体である水道事業者等が水道施設運営等事業に係る公共施設等運営権を設定する場合の許可制の導入、指定給水装置工事事業者の指定に係る更新制の導入等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」となっています。
ここに水道法改正のポイントはだいたい凝縮されていますけれど、ちょっと読みにくいですよね。ストーリーとして背景や狙いをざっくり整理するとこういう感じだと思います。
事情をざっくり解説
まず、日本は人口が減る。すると必要な水の量も変わる。だから、水道料金の収入が減る。だけど、戦後の人口増加にあわせて高度経済成長期に一気にたくさん作った水道管の寿命はだいたい40年なので、そろそろ日本中で更新しないといけない。むしろ工事費用が一気にかかる。水道料金を上げないといけなくなる。でも、なるべく上げたくない。費用を節約すべく、より安く水道事業を運営する方法はないだろうか。じゃあ「民営化」したらどうだろう。しかし、国民の命に係わる水は、やはり国家が守ってくれないと不安だ。経営悪化したら、水質が悪化してかつ水道料金上がるかもしれないというのはまずい。ならば、水道施設の所有権は政府が持ったままで、事業の運営だけを民間に委託する、PFI(※)の一種の、いわゆる「公設民営(コンセッション方式)」でやろう。でも、現在のところ、水道事業の経験がある業者は国内にいない。海外では、フランスの企業はじめ、実績豊富な水道事業者がたくさんある。彼らの参入も受け入れたりしつつも、国内の企業に水道局の運営ノウハウを移して事業者を育てて、競わせて、競争市場を築いていかないといけない。
それから、必要な水量の増減は、地方と都市で大きく異なっていくだろう。だから地方それぞれで色々経営判断してもらわないといけない。また、一定の規模と人口の大きさで事業運営しないと、非効率で割に合わない。だから、水道は市町村単位で管理してきたけど、都道府県がリーダーになって市町村横断の広域連携できるようにしよう。
あと、地方自治体にもインセンティブが生まれるように、PFI法もあわせて改正しよう。そしたら、これまで進んできた空港や公園や下水道だけじゃなくて、国有・県有林野の林業だとかにも官民連携(PPP)を広げていけるじゃないか。じゃあそうしていこう。
※PFIとは、Private Finance Initiativeの略で、公共施設等の建設、維持管理、運営等に民間の資金、経営能 力及び技術的能力を活用することにより、同一水準のサービスを より安く、又は、同一価格でより上質のサービスを提供する手法。例えば、〇〇省の建物を建て替える際に、費用を全部税金でまかなえば公共事業ですが、民間企業も建設費用やビルメンテナンス費用を一部負担するかわりに、高層ビルにして、いくつかのフロアを民間企業も使えるようにしたりしたときに、「あのビルはPFIでやった」などと言います。ひとくちにPFIと言っても、方式は色々あります。PFIは、PPP(Public Private Partnership:公民が連携して公共サービスの提供を行うスキーム)の一種です。
PFIって何?(内閣府)
PFIとはPPPとは(日本PFI・PPP協会ウェブサイト)
水道法改正自体の詳細については、水道法改正に向けて ~水道行政の現状と今後のあり方~(厚生労働省 2017年8月21日) などを参照していただいたり、適宜ググっていただきたいのですが、このストーリーのなかに潜んでいる、主権者である僕たちが考えないといけない、非常に重要なトピックを3つ挙げたいと思います。
1、不均等な人口減少
少子化で、2060年には2010年のおよそ3分の2(8700万人くらい)に減少します。なので、色々な公共需要も減りますし、同時に税収も減ります。ただ、その過程は全国で均一には進まないでしょう。都市には人口集中が続きそうです。地方の人口減少のスピードは激しそうです。このことが、僕たちの生活をどのように変えるか、絶えず想像力を働かせていかないといけません。
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