本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。従来イメージされている「知性」とは異なる「身体的な知」へのアプローチを試みる猪子寿之さん率いるチームラボの作品群。「世界」と「人」の境界を無化しようとする猪子さんの取り組みを宇野常寛が解説します。(初出:『小説トリッパー』 秋号 2017年 9/30 号)
9 身体的な知をめぐって
ハンケのそれが人間の意識に、理性に、言語化された知性にアプローチするものなら、猪子のそれは無意識に、感性に、非言語的な知性にアプローチする。たとえば猪子が故郷である徳島に対して行ったアプローチは、川と森から生まれた地誌に対してのものであり、徳島という城下町の文字化された歴史に対してのものではない。
この差異は猪子の考える「人間」観に由来している。
〈言葉の領域とか論理的な領域というのは、知的領域の中で最も低水準なものにもかかわらず、みんなそれを最も高度だと言い、それ以外のことを低俗だと扱っている事自体がまったくおかしいと思う。
たとえば、人間がつまずいて転びかけた時に、何かものがあればつかんで転ばないようにするし、受け身もとる。それって、すごい量の情報を人間は過去の経験とか含めて処理していて、コンピューターには全然真似ができない。知的レベルははるかに高度だと思うけど。〉(14)
人間のもっとも高度な知性は非言語領域にこそ存在し、情報技術の発展の意義は非言語的な領域の知性にアプローチし得ることにこそ意義があると、猪子は考えるのだ。
この非言語的な知性を「身体的な知」と呼ぶ。
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