PLANETSのメールマガジンで人気連載だった根津孝太さんの『カーデザインの20世紀』が、大幅加筆修正を加えて、10月7日(土)に書籍として発売開始することになりました!刊行を記念して、著者の根津孝太さんに関連する記事を3日間連続でお届けします。
1日目の本日は、「根津デザインの真髄~創造性は組む相手から生まれる」の再配信です。バイクやミニ四駆から、水筒やお弁当箱まで、様々な人や企業と共に魅力的なプロダクトを生み出している根津さん。そのデザインの真髄に、DMM.make AKIBAの実質的なプロデューサーの小笠原治さん、Cerevo代表の岩佐琢磨さん、宇野常寛、そして根津さんご本人が迫ります!(構成:鈴木靖子)
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電動バイクの概念を変える新しい大型バイク「zecOO」
岩佐 今夜から始まりました「機械じかけのナイトラウンジ」。毎回エンジニアやデザイナーの方をゲストにお呼びして、ものづくりの魅力を存分に語ってもらいます。第一回目のゲストは、根津孝太さんです。
根津 よろしくお願いします。
岩佐 根津さんはトヨタ自動車のコンセプト開発リーダーなどを経て、現在は「znug design (ツナグ デザイン)」代表として、多くの工業製品のコンセプト企画及びデザイン、プロダクトを行ってらっしゃいます。先日は、根津さんがデザインされた電動バイク「zecOO」の販売が始まり、大きな話題を呼びました。
▲ 2015年3月15日より一般販売が開始された大型電動バイク「zecOO」
宇野 ニュースサイトにも取り上げられてましたよね。これって一般販売してるですか?
根津 してますよ。どなたでも購入できます。価格は888万円です。
小笠原 この値段で誰が買うのかと思ったら、すでに買った人がいるらしい。
根津 いるんですよねー。DMM.make AKIBAが入ってるこのビルの中に(笑)
岩佐 そんな話題の「zecOO」について、普通のバイクとはどう違うのか、お話をうかがえればと思います。
根津 この「zecOO」は電動バイクです。ガソリンエンジンではなく、電動モーターを動力とするバイクですね。
まず、これだけ大きな電動バイクって非常に珍しいんですよ。これまでの電動バイクは、スクータータイプがほとんどなのですが、「zecOO」は大型バイクのサイズで、性能的にもリッタークラス以上のパワーを持っています。
「zecOO」の開発には経緯がありまして。僕はずっと「電動バイクを作りたい」と、あちこちで公言していたんですね。そうしたらあるとき、「ここで作れなければ世界中どこに行っても作れないよ」と、千葉のバイクショップ「オートスタッフ末広」さんを紹介されたんです。
そこの中村社長とお話をしているうちに、先方にも作りたいものがあることが分かって。そこで、まずは「ウロボロス」という三輪のトライクの製作を一緒にやることになったんです。その過程で、オートスタッフ末広さんのスゴさを実感して、だったら次に作る電動バイクも、オートスタッフ末広さんでなければできないものをやろうと。そうして生まれたのが「zecOO」なんです。
だから、開発に関わっている人数も少なくて、中村社長と、エンジニアの高坂さん、電気系を担当したエリック・ウーさん。僕を含めても中心になっているメンバーは4人くらいなんですね。
なので、技術的にもデザイン的にもやりたい放題やってます。例えば、普通のバイクは自転車と同様に2本のフォークでタイヤを挟んで支えるテレスコピックという構造になってますが、「zecOO」は横からタイヤを支える片持ちのスイングアーム構造になってます。
全体のフレームも変わった作りになっていて。今、世にある電動バイクは、ガソリンバイクのフレームをそのまま流用して、エンジンをモーターに置き換えたものが多いんですが、「zecOO」は電動バイク用に独自に設計されたフレームを採用しました。アルミを削り出した板状のフレームで、前から後ろまでのユニットを両側から挟み込むような構造になってます。
岩佐 へぇーなるほど! 僕はてっきりパイプ溶接みたいな構造だと思ってました。
根津 オートスタッフ末広さんが、「ウロボロス」のスイングアームの付け根にこの構造を使っているのを見て、全体のフレーム構造に拡大するのを思いついたんですよね。それが「zecOO」のフレームの基本コンセプトになってます。
思わず応援したくなる製品を生み出したい
宇野 今のお話から「zecOO」の開発に込められた情熱はすごく伝わってきたんですが、アルミ板を挟むのとパイプ溶接の違いに「おぉ!」ってなる理由が、僕の知識だとわからなくて(笑)。「アルミで挟んで作るのは超すごい」ということなんでしょうか?
根津 そうですね。アルミの板状のフレームで挟む構造は、大手のバイクメーカーではやってないですし、電動ならではのやり方とも言えます。オートスタッフ末広さんならではの作り方の技術で、特許も出してます。
宇野 なるほど。バイクの構造としてはまったく新しい発想なわけですね。
根津 バイクのフレームの形式って、長い歴史の中で生み出された、究極に近い形があるんですよ。僕もそういうものは大好きです。でも、動力が電動であることを考えると、ひょっとするとタミヤさんのラジコンカーのほうが進化の先にあるのではないかと。
小笠原 それは絶対にありますね。
根津 最近のハイエンドのラジコンカーって、カーボンの板にアルミの削り出しのパーツを乗っけて、さらにもう一枚、カーボンの板を上にのせて剛性を確保するというダブルデッキ構成です。いわゆる、「板もの」と「削りもの」の構成ですね。「zecOO」はそれを縦にしたような構造です。
サウンドに関しても「zecOO」は普通のバイクとはまったく違います。エンジン音や排気音はなくて、代わりに、ジェット戦闘機みたいな「キーン」という音が小さく鳴ります。
宇野 めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!
根津 やっぱりバイクファンの間には「バイクはこうあるべき」みたいな意見があって、例えばハーレー好きの方は、そのサウンドも好きでハーレーを買っている。同じように「zecOO」には「zecOO」の良さがあって、走行音が静かなのもそのひとつです。だから普通だったらバイクで騒音を出すのは気が引けるような場所でも、気兼ねなく行けるんですね。
小笠原 そういえば若い頃は、実家の100mくらい手前でバイクのエンジンを切ってから、手で押して帰ってましたね(笑)。
根津 改造すればするほど、エンジンを切るタイミングが早くなっていく。よく父親に「街の外に出てからエンジンをかけろ」って言われてました。
小笠原 しまいには「うるさいから帰ってくんな」って(笑)。
宇野 「zecOO」は走行性能的にはどうなんですか?
根津 加速感も電動ならではです。ガソリンエンジンはパワーバンドが決まっていて、シフトチェンジしながらギアをつないで上げていく。自動車でいうMT車(マニュアル車)ですね。ギアチェンジにはテクニックも必要で、それも面白さのひとつなんですが、電動バイクはオートマチックです。モーターを入れると、カーンっと立ち上がって、陶酔感のある加速をします。これ、本当にヤバイです。エコモードとパワーモードがあるんですけど、パワーモードに入れてカッとアクセルを開くと、「ハァ~」ってなりますよ。
岩佐 車重が結構あると思うんですが、パワーモードに入れて急加速しても、フロントはリフトしないんですか?
根津 車体の全長が長いのとバッテリーの配置を工夫したことで、安定性はすごく高くなってます。
岩佐 リアのタイヤって、幅はいくつのを履いているんですか?
根津 アホみたいに太いんです。240mmあって。
岩佐 240mm!? 軽自動車のタイヤほぼ2本分ですよ!
小笠原 タイヤの扁平率ってどのくらいですか?
根津 40%くらいですね。
岩佐 自動車だと「フェラーリF40」とか、あの辺のクラスですね……。
根津 それをどうやって決めたかというと、結局、見映えなんですよね。だって、太いほうがかっこいいじゃん!
一同 おぉ!
小笠原 それを言い切ってしまえるのがスゴい(笑)。でも絶対に専門家は「勘弁してくれ」って言いますよね?
根津 「コーナーで曲がれなくなるぞ」って言われたんですけど、実際に乗ってみたら曲がれたので、別にいいかなと(笑)。クセがないバイクを作るなら、こういったこだわりは不要なんですけどね。
小笠原 最初のプロダクトを世に出すとき、クセがないものを作る意味はないですよ。僕はモーターショーで発表されるコンセプトカーを、そのまま販売してほしいといつも思ってます。
岩佐 今の大企業は超少品種の多量生産に特化していますが、その結果、どこのショップに行っても万人受けを狙った製品しか売っていない。この現状に不満を抱いている人は多いですよ。
小笠原 本当の意味で「万人に受ける」なんてプロダクトは存在しないからね。
岩佐 タイヤを太くすると「パワー効率が悪い」とか「重量が重い」とか「曲がりにくい」みたいな話は当然出るんだけどさ。でも「かっこいいんだから、太いほうがいいじゃん!」っていう人だっているわけです。
100人いる内の3人だけが「よっしゃぁ!」と盛り上がれる商品だっていいんですよ。それがたくさん出てきたら、万人がそれぞれのお気に入りを見つけられるんです。お客さんの顔が見える距離で製品の開発に取り組める。そういう選択肢もありうる世界になってきていますよね。
根津 もちろん、使う人に大きなリスクを背負わせてはいけないけど、ある種の尖ったものを作ると、ちょっとクセがあるとか乗りにくいとか、そういう面もあるわけです。でも、それも含めてファンになってくれる人がいる。
僕はよく「お客さんは最後のチーム員だよね」って言うんだけれど、ユーザーとチームを組んで、ニーズを聞き取りながら魅力的な製品を作っていく。そういうスタンスは、あっていいと思っています。
岩佐 お客さんが応援したくなるものを、僕らクリエイターは作らなくちゃいけない。
小笠原 スポーツと一緒で、お客さんが応援したくなるようなプレーをすればいいんです。野球やサッカーだって、全チームが同じようなプレーをしていたら、誰も応援しなくなりますよ。
宇野 いつの間にか僕たちは、顔も知らない誰かが作った製品が量販店に並ぶのが当たり前だと思い込んでいる。だけど、画期的な製品の背後には冒険を試みた開発者がいるんですよね。そんな当たり前のことを、消費社会の中で忘れてしまっていた。
根津 そうですよね。僕がトヨタにいたときは、企画が得意だったので企画のフェーズばかりやらされていて。それは一つの効率化でもあるんだけれども、ちょっと寂しかった。ものづくりの現場で、お客さんに最後まできっちりと接しながら作ってる人って、実はものすごく少ないと思う。だから、スタートアップの何から何まで自分でやらなければならない状態は、むしろいいことだと思うんですよね。
現代は「再発明」のパラダイムに入っている
根津 例えはあまり良くないかもしれませんが、僕、あの映画の「エイリアン」ってすごい生物だと思ってるんです。寄生した宿主の遺伝子をもらって、適応した形で出てきますよね。オートスタッフ末広さんに僕が寄生して、その結果出てきたのが「zecOO」なんです。要は、組んだ相手や寄生した先によって生まれてくるものが違う。そんな仕事をやりたいと思っていました。
小笠原 それはデザインにおいてむちゃくちゃ大事な部分ですよね。融合しないとものは作れないのに、自分自身を押し出せればいいという作り手は多い。
根津 自分のことばかり言ってても、なかなか実際に製品は出来てこないですよね。
小笠原 人もついてこないですしね。陰口叩かれるし(笑)。
根津 僕も陰口は叩かれています(笑)。「アイツは本当に何もわかっていない」って。でも、いいんです。実際わかっていないし。
岩佐 わかっていない人が作るのがいいんですよ。わかっている人は下手に知識や経験があるから、その殻を破るのが難しくて新しいチャレンジができない。
例えば子供用のおもちゃって、コスト的に見合わないので金属の削り出しの部品を使わないんですよ。それはいいんですが、最初から使わない前提で考えているのが問題で、使ってみたら今までにない形のものを作れるんじゃないか、付加価値を出せるんじゃないか、といった発想が、業界内部から出てこない。
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