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本誌編集長・宇野常寛による連載『京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録』。今回は、10年代半ば以降の48Gの停滞、坂道シリーズの台頭で見えてきた、今後のアイドルカルチャーの課題を語ります。(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年7月8日の講義を再構成したものです)

ブレイク後のAKBに立ちはだかる「戦後日本の芸能界」という壁

 AKB48が停滞してしまった理由のもうひとつは、やはり「慣れ」でしょう。昔は多くの人が「人気投票でアイドルを選抜し、それにファンが盛り上がるなんて常軌を逸している」と思っていた。ところが、もうみんな慣れてしまったし、後発のアイドルたちもみな似たようなことをやるようになって、珍しさが薄れてしまった。アイドルの選抜総選挙という特異なシステムによってAKB48は注目を集めることができたけれど、今はそうではなくなっているわけです。

 それと、実は地方展開もあまりうまくいっていません。もちろんSKEもNMBもHKTも、他のアイドルよりははるかに売れているし動員力もある。でも結局のところ、指原莉乃が象徴するように、芸能界で生き残っていくには東京のメディアに出て、〈テレビタレント〉になるしかないわけです。昔ながらの戦後日本の芸能界の構造を、48グループは結局は崩すことができていない。地方グループの人気メンバーになるより、東京のAKBの不人気メンバーでいるほうが有利なんです。SKEなんかは、いつ崩壊してもおかしくない状態です。

 それと、規模の問題も大きくなっています。僕が好きになった頃は推しメンに100票入れるだけでも順位が変動するような状況だったんです。ところが今では総得票数が何百万票になっていて、1位の指原なんて24万票ですから、1人の人間が投じられる票数で状況を変えることが難しくなっている。そのことも停滞の原因になっています。まあ、これはゲーム設計の問題だから仕組みで対応できると思うのですが。

 総じて言えるのは、テレビの問題が大きいということです。たとえば最近の総選挙では中継の演出ひとつとっても仕掛けがすべてテレビバラエティ的になってきています。「にゃんにゃん仮面」とかね(笑)。

 〈ライブアイドル〉というジャンルを作ったのはAKBなんだけれど、ある程度の規模を維持しようと思ったら指原=〈テレビタレント〉にならざるをえず、結局は昔のテレビカルチャーに回帰していくしかない――だとしたら、これまでAKBがやってきたことは何だったのか、ということになります。

 さらに、秋元康も自信を失っていると思いますね。AKBはもともと高校野球とかと同じで、若い子たちが過酷なゲームを戦わされて、喜んだり傷ついする姿を僕らが見て楽しむというリアルドキュメントだった。でも、今のAKBは自然発生するドラマだけではもう人々の関心を引きつけることはできないのではないか、という認識がある。だからテレビバラエティ的な「仕掛け」が多くなっているのだと思います。


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