平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。仲良くなった高級鮨屋の大将は、昔少年院を出ていて……? 敏樹先生が聞いた、大将の若かりしころの「剛の者」たるエピソードの数々を披露します。
脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第27回「男と男 再び」【毎月末配信】
去年、なかなか面白い男に出会った。相手は鮨屋の大将である。B級グルメで有名な町にあって銀座並の店を構え、銀座並の高級鮨を握っている。白木のつけ台を隔て初めて大将と対面した時、私はそのただならぬ雰囲気に緊張した。大柄な体躯に彫りの深い顔、鋭い眼ー鮨屋というよりもイタリアンマフィアのようだった。何度か通ううちに一緒に飲もうという事になった。私は料理人と仲良くなるのが好きである。なにしろこちらを幸せにしてくれる尊敬すべき人々だ。特に鮨屋は、いい。握っている姿が祈りに似ていて美しい。そんな私の気持ちが伝わったのか、私たちはウマが合った。そしてその後も誘い誘われの関係が続き、大将は自分の来し方をぽつりぽつりと語るようになったのである。きっかけは私が『なぜ鮨屋になろうと思ったのか』と尋ねた時で、『少年院を出てなにか手に職をつけようと思ったから』というのが大将の答えだった。少年院、と聞いて俄然興味が湧いて来た。大将の方はなにか申し訳なさそうな口調である。もしかしたら私が引くとでも思ったのかもしれない。だが、こっちは仮りにも物書きである。引かず、食いつく。少年院に入るには色々と理由があるだろうが、詳しく聞いてみると大将の場合は同情の余地があった。
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