この連載で以前、
香港政府による自決派及び本土派の議員資格剥奪のお話をしました(編注:中国からの独立を唱える本土派の議員2名が、議員就任の宣誓時に「Hong Kong is not China」の旗を掲げ、「チャイナ」を「シナ」と発音した。これを受け全国人民代表大会(全人代)は、宣誓の内容を規定する香港基本法の法解釈を行い、2人の議員に宣誓無効を言い渡した)。法解釈が行われた後、香港政府による司法審査が始まりました。現在すでに2人の民選議員が司法審査によって資格剥奪となり、香港衆志の主席であるネイサン・ローを含む4人の議員への判決が間もなく下されることとなります。
▲テムズ川の前で。
▲Human Rights Watch Film Festivalに参加するため、現在はロンドンに滞在中。
この件については法廷で3日間討論され、本来は3月8日から10日の間に司法審査の結果が言い渡されることとなっていました。しかし、4人を弁護する弁護士が「政府による司法濫用」と言う理由で裁判中止を申し出たことにより、判決は少なくとも1ヶ月は先送りされることとなりました。つまり、ネイサン・ローら4人の議員は、3月26日の行政長官選挙を含む今後1ヶ月、立法会議員として政務執行が許されることとなります。
今、香港では行政長官選挙で盛り上がっています。その前にまず日本のみなさんに香港の選挙制度について説明をしたいと思います。香港において、首長にあたる行政長官は、市民が一票一票投票して選出されるわけでも、立法会によって選出されるわけでもありません。行政長官を選び出すのは、1200人で構成された選挙委員会です。この1200人は、製造業、金融、政界など様々な業界に分かれています。政界には、区議員代表、立法会議員全員、全人代代表、全国政協委員などが含まれています。こうした政界からのメンバーを除いた、他の業界からの委員は選挙によって選出されます。しかし投票可能な選挙民は約25万人しかおらず、香港の選挙民総人数である約350万のうちのほんの一部にすぎません。さらに、業界ごとの選挙民人数も異なり、一票の価値が平等とは言いがたい状態になっています。しかも、この選挙委員会は、行政長官候補者のノミネートや投票の権利も持っています。簡単に言えば、選挙結果はこの委員会が握っているのです。
▲次期行政長官候補らへ直接抗議をする周庭さん。「あなたが当選したら、4人の議員資格剥奪問題はどうなるのか」と直接問いかける。
▲周庭さんらの活動の様子は現地のニュースで取り上げられた。
(画像左)最有力候補といわれる親中派、キャリー・ラムへの抗議の様子。
(画像右)次期行政長官候補の一人、ホー・グゥオシン元判事へマイクを向ける周庭さん。
今回の委員会の中には300人以上の民主派の委員がいますが、残念ながらその他の委員は親中派で、中央政府のいいなりです。基本的に、中央政府がある候補者を支持する「風」を吹かせれば、親中派の委員はその「風」に乗らないわけにはいきません。結局彼らにとって、強すぎる中央政府の下で、いかに自分の政治的・経済的な利益を守るかということが最も重要なのでしょう。この行政長官選挙戦では、半分以上の委員の投票を集めた候補者が当選となるため、601票あれば当選確実となります。親中派委員が800人以上いる現状では、間違いなく中央政府の支持者が当選するでしょう。これが行政長官選挙の慣例でもあるのです。
しかし、今回わたしたち自決派が最も憤っているのは、この十数年続く非民主的な制度に対してではありません。親中派の候補者を、自称民主派の委員たちが声高らかに支持していることに怒りを感じているのです。この選挙戦では主要な候補者が二人います。一人が元政務司司長キャリー・ラム、もう一人が元財政司司長ジョン・ツァン。この二人はれっきとした親中派です。彼らは香港特別行政区基本法第二十三条(中国で既に制定されている国家安全法に相当する法律)の成立に賛同し、インフラ建設による環境破壊、予算超過、住居撤去などを容認し、官民癒着を守り、更にこの非民主的な選挙制度も擁護し続けました。二人の違いは、キャリー・ラムはPRがあまりうまくなく強硬な姿勢を打ち出しており、ジョン・ツァンはPRが上手く比較的穏やかな印象であるという点です。また前者は中央政府の支持を得ているという噂が流れていますが、後者は中央政府の支持を得られていないと言われています。
▲キャリー・ラムからは「ほどほどに。お嬢さん、あなたのお母様を心配させないことね」と挑発的な返答を受ける。(動画)
この違いを受けて、数多くの民主派委員が、「現行政長官である梁振英の強硬路線の延長を阻止する」ということ、そして「中央に支持されているという噂があるキャリー・ラムを当選させてはならない」ということを理由に、穏やかな印象を持つジョン・ツァンを支持することを決定しました。民主派なら、その名の通り民主自由の原則に基づき、第二十三条、官民癒着、非民主的な選挙には徹底的に反対しなければいけません。もし民主派が今後、投票段階で白票を投じず、本当にジョン・ツァンを支持するとしたら、それは民主派としての原則を放棄していることになります。もし近い将来ジョン・ツァンが中央政府の支持を得て行政長官に当選してしまったら、推薦・投票した民主派委員は、むしろ民主派及び民主運動を崩壊させる加害者となってしまうのです。
▲ビッグ・ベンを見上げて。
▲香港在住の日本人の先生と日本の大学生に立法会を紹介
日本にいるみなさんにとっては、香港行政長官選挙のような一連の出来事は、遠い話に感じられるかもしれません。それでも私は、香港の状況に少しでも興味を持ってもらえればと願っています。この小さな街で民主と自由を勝ち取ろうと戦う私たち市民を、引き続き見守っていてください。
(続く)
▼プロフィール
周庭(アグネス・チョウ)
1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。
『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』これまでの連載は
こちらのリンクから。
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