『らき☆すた』や『かんなぎ』で知られるアニメ監督・山本寛さんの、これまでの活動を総括するロングインタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」。第5回では、『らき☆すた』以降の諸作品、『かんなぎ』、『私の優しくない先輩』、そして震災をテーマにした『blossom』についてお話を伺いました。(取材・構成:高瀬司)
山本寛監督インタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」第5回 アニメのなかに真実がある【不定期連載】
――また『ハルヒ』はYouTube、『らき☆すた』はニコニコ動画と、新しいWebサービスの登場と同期するかたちで人気が拡大したと思います。ああいった同時代的なシンクロニシティは、当時どのように感じられました?
山本 以前から2ちゃんねるの反響や、YouTubeでのハルヒダンスの盛り上がりは見ていましたから、『らき☆すた』のときは伊藤プロデューサーと「ネットで突っこまれるような作品にしたいですね」とよく話していたんですよ。そうしたら、2ちゃんのひろゆきが関わり、YouTubeを利用した、コメント付き動画サービスがはじまった(笑)。あのころは、時代が僕の背中にある感覚がありましたね。
――あわせて京都アニメーションのフィルモグラフィ自体が、セカイ系の『AIR』にはじまり、セカイ系から日常系への移行を象徴する作品として『ハルヒ』があり、日常系の『らき☆すた』、そして『けいおん!』シリーズ(2009-2011年)と、時代の変遷を体現していたと思います。
山本 ただ、美学的観点から見れば、アニメが劇的に変化してしまったのは、そのパンドラの箱を開けてしまったのは『けいおん!』だと思います。『らき☆すた』は日常系ではありますが、きちんと人間ドラマを組みこんでいた。オリジナルエピソードとして、柊一家の人間模様を描いた第17話「お天道様のもと」や、修学旅行に行く第21話「パンドラの箱」、こなたの亡くなった母親・かなたをめぐる第22話「ここにある彼方」を加えるなど、必ず家族や異性、社会を意識させるようにしていたんです。女子校ではなく共学であることを強調するために、白石みのる(CV:白石稔)を目立たせたりもしました。
ところが『けいおん!』では男性は徹底的に排除されているし、両親も出てこないか、映画でやっと出てきても顔が見切れている。ついにここまで来たかと思いましたね。アニメのポストモダン化は『けいおん!』で極まったと思います。
――京都アニメーション時代に関する最後の質問になりますが、『ハルヒ』『らき☆すた』と、実際に責任あるポジションを務められてみていかがでしたか? 各話演出時代に武本監督から言われたように、何か意識の変化などはあったのでしょうか。
山本 やはり見え方が大きく変わりましたね。僕は本当に生意気だったんだなと痛感しました(笑)。よく自分が2人いればいいのにと言う人がいますけど、もし僕が2人いたら確実にもう1人を殺しますね(笑)。なのでいろいろありましたが、京都アニメーションには強い恩義を感じています。これだけ生意気で半狂乱の男をよくここまで育ててくれたなと。
――メインテーマに関して一通りうかがったところで、後半では京都アニメーションを辞められたのちのご活躍も簡単に振り返らせてください。山本監督はその後、新たにOrdetを立ち上げられますが、どのような意図があったのでしょうか。
山本 僕が京都アニメーションを辞めたときというのは、社内もかなり揉めたんですね。実際、僕と同じタイミングで、守りに入った会社の方針に嫌気がさして辞めていったスタッフが何人かいて。Ordetはその受け皿というつもりで立ち上げました。なので必ずしも会社である必要はなかったんですが、そのときの落ちこんでいた気持ちを切り替えるいいきっかけにもなるかなと、軽い気持ちで大阪で起業を。でもこの選択が最悪でしたね。その後の10年にわたる悲劇のはじまりです。
――悲劇というのは?
山本 経営者になってしまうことで、監督としてうまく暴れることができなくなってしまったんですよ。それまでは会社に文句を言う側だったのが、経営者として文句を言われる側へと立場が変わってしまったわけですから。結局、社長であるということを、自分のなかでうまく咀嚼できなくて……それでスタッフもみんな離れていってしまいました。自分で自分の首をどんどん締めていったのがこの10年でしたね。
――Ordetでの監督第1作は『かんなぎ』(2008年)ですが、このころというのは?
山本 『かんなぎ』のころはまだぜんぜんよかったんです。会社を立ち上げた直後ということで、ていねいに作ろうという一心で臨んだ作品でした。それに武梨えり先生の原作は、自分探しのドラマの要素もあるし、ギャグも萌え要素もある、パロディもいける。つまり多方面で自分にとってやりやすい題材で、自分の持ち味を活かせばいいだけだったので、本当に楽しく取り組めて、リスタートにはもってこいの一作でした。
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