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知られざる「大衆文化」としての戦前プロ野球――『洲崎球場のポール際』著者・森田創インタビュー(中編) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.708 ☆

2016/10/11 07:00 投稿

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知られざる「大衆文化」としての戦後プロ野球
『洲崎球場のポール際』著者・森田創インタビュー(中編)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.10.11 vol.708

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今朝のメルマガは、草創期のプロ野球を描いたノンフィクション『洲崎球場のポール際』著者・森田創さんのインタビュー中編をお届けします。戦前のプロ野球は、当時の東京都民にどのように受容されていたのか。洲崎球場と東京下町をホームとしたプロ球団の可能性や、当時人気絶頂だった大学野球と黎明期のプロ野球の関係について語ってもらいました。


▼プロフィール
森田創(もりた・そう)
1974年5月21日、神奈川県出身。1999年、東京大学教養学部卒業。同年、東急電鉄入社。現在、広報部勤務。2014年10月、初めての著書『洲崎球場のポール際』(講談社)を発刊し、翌年のミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。2016年7月、戦前のテレビ開発を追ったノンフィクション『紀元2600年のテレビドラマ』(講談社)を刊行。

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◎聞き手/構成:中野慧

インタビュー前編はこちら


■新聞社・鉄道会社と絡み合いながら発展した戦前プロ野球

――野球というスポーツの発展は、マスメディア、特に読売グループとの関係を抜きにしては語れないと思います。戦前から東京の下町地域で読売新聞がシェアを伸ばしていったということでしたが、そこには様々な背景があったわけですよね。

森田 昭和10年代は東京の東側に市街地が拡大し新住民がたくさん移り住んできたわけですが、その地域を走っていたのが京成電鉄です。読売新聞社主の正力松太郎は、京成電鉄の社長だった後藤圀彦(ごとう くにひこ)と大親友だったんです。正力はこの沿線に着目して「谷津遊園」という遊園地や、谷津球場という巨人軍の練習場を京成と作ったんです。この谷津遊園は、今は「谷津バラ園」となっています。ちなみに浦安にディズニーランドができたのも、正力と京成電鉄の関係によるところが大きかったんです。

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▲読売新聞社主(当時)の正力松太郎。プロ野球だけでなく、戦後のテレビ放送や原子力発電の普及において大きな役割を果たした。(画像出典

 前回お話ししたように読売は、山の手のインテリの住む地域では朝日や日日新聞に勝つことができなかった。だから下町に目を付けたんです。しかも紙面も、小難しいことは言わずに誰でもわかるようなものにしたわけですが、なかでも興味深いのは日本の新聞で初めて「都内版」を作ったことです。その第1号が「江東区版」でした。何をやったかというと、冠婚葬祭のニュースや人探しとか、とにかく住民の名前を載せたんです。そうすると「ご近所の◯◯さんが新聞に出てる」ということで、住民の人たちも人情で買いたくなる。この企画のコンセプトは、「政治とか経済とかそういう小難しいことはいいから、『自分ごと』として新聞を読んで貰えるようにしよう」ということだったわけです。
 本紙のほうでも「エロ・グロ・ナンセンス」という言葉を作って、そのテーマに絞って記事を作っていった。そういった取り組みが下町の庶民の心を捉えたんですね。
 発足当初のプロ野球って、そういった都市の発達・新住民の流入と密接に関係するビジネスだったんです。昭和11年のプロ野球発足時は、巨人、大阪タイガース(現・阪神タイガース)、阪急(現・オリックス・バファローズ)、名古屋軍(現在の中日ドラゴンズ)、名古屋金鯱軍、東京セネタース(西武を経営母体としていたが現在の埼玉西武ライオンズと直接の関係はない)、そして洲崎球場を本拠とした大東京軍(現在の横浜DeNAベイスターズの前身のひとつ)の7球団でスタートしたものなんですね。このうち巨人、名古屋軍、名古屋金鯱軍、大東京軍の4球団は新聞社を母体としていて、残りの3球団は鉄道会社を母体としていた。当時のプロ野球は本業だけで回収できるビジネスモデルではなく、鉄道会社は観客輸送による運賃増、新聞社なら新規読者の開拓による購読料収入増を織り込まないと、なかなか成り立たないものだったんです。


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