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大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』
補論 記号と階級意識(後編)
【不定期連載】
補論 記号と階級意識(後編)
【不定期連載】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.9.13 vol.688
今朝のメルマガでは大見崇晴さんの『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』の補論、「記号と階級意識」の後編をお届けします。
永山則夫から加藤智大に至るまで、現代の無差別殺人の特徴は、そのあまりの「凡庸さ」にあります。昭和から平成まで断続的に発生している「メッセージなき犯罪」。その根底にある、コミュニケーションの不全性について論じます。
▼プロフィール
大見崇晴(おおみ・たかはる)
1978年生まれ。國學院大学文学部卒(日本文学専攻)。サラリーマンとして働くかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動、カルチャー総合誌「PLANETS」の創刊にも参加。戦後文学史の再検討とテレビメディアの変容を追っている。著書に『「テレビリアリティ」の時代』(大和書房、2013年)がある。
本メルマガで連載中の『イメージの世界へ』配信記事一覧はこちらのリンクから。
3.演技と消費
消費社会が訪れたことを、若者批判を介して明らかにしようとしていた人物がいる。その人物もまた、寺山修司だった。
当時すでに『書を捨てよ、町へ出よう』や『ドキュメンタリー家出』などで知られていた寺山修司は、若者たちの「自立」や「反抗」を代弁する人物に思われがちだ。しかし、よく読めば彼は一貫して新左翼によるテロリズムに対して疑いを持ち続けていた。社会主義・共産主義の激戦地域だったベトナムに向かわず、アラブや北朝鮮に亡命していった日本赤軍派の宣伝主義的な疚しさを寺山修司は視界に収めている。若者たちは自己実現のために反抗的な若者を演じ、それにふさわしい舞台を探しているのではあるまいか? 寺山修司の評論は当時の若者たちが抱えていた疚しさを見逃さない。引用魔として知られた寺山は経済学者ヴェブレンの言を引いて論じる。
(略)爆弾を投げて戦死した奥平剛士の死は、政治的にだけ解明しようとしても解明できるものではない。彼には、表現したい願望があり、それが彼の参加の理由でもあった。「もはや消費が自己顕示の手段として有効ではありえない時代では、あとはじぶんの命を浪費することによって自己顕示する手段がのこされる」(ベブレン「有閑階級の理論」)。
日本赤軍は自己顕示のために自らの命を浪費した部分が存在すると、寺山は分析する。つまり、日本赤軍に属した奥平の死に、政治によって社会を変革する以外のことが強く存在すると看る。寺山は自死も厭わぬテロに消費主義を見出す。「持つこと」、所有のための対価を支払うことを超えた消費である。言うなれば、何者かを演技するために必要な衣裳の所有することをも超越した消費主義である。消費の対象は自らの生命に達する。そこにあるのは、演技の果てに、依頼もなく死地に向かう人間である。永山と同時代に、階級や階層を無くそうとした(共産主義に熱中した)若者の末路には、こうした消費主義の極限が待ち受けていた。
顧みれば、これほどまでに消費に飽き足らなかった若者たちが、消費のない世界を思い描いて行動することでしか、消費というエクスタシーの享受が不可能だったのが、昭和元禄(一九六四)と呼ばれた高度成長期を迎えた日本だったのである。
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