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大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』
第5回 記憶・神話・イメージ
【不定期連載】
第5回 記憶・神話・イメージ
【不定期連載】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.6.16 vol.619
今朝のメルマガでは大見崇晴さんの連載『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』第5回をお届けします。T・S・エリオット、ハート・クレインらに代表される〈日常の神話化〉から、高度資本主義社会における〈固有名の記号化〉へ。村上春樹の〈イメージの文学〉はいかにして出現したのか。その文学史的な必然を論じます。
▼プロフィール
大見崇晴(おおみ・たかはる)
1978年生まれ。國學院大学文学部卒(日本文学専攻)。サラリーマンとして働くかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動、カルチャー総合誌「PLANETS」の創刊にも参加。戦後文学史の再検討とテレビメディアの変容を追っている。著書に『「テレビリアリティ」の時代』(大和書房、2013年)がある。
本メルマガで連載中の『イメージの世界へ』配信記事一覧はこちらのリンクから。
村上春樹が自己を投影した語り手を小説に用いることが多い作家であると例証できたとしよう。それでは村上春樹作品中の記憶――そして記憶には付き物である名詞――に議論を戻す。
ここで取り上げるのは「カティーサーク」である。「カティーサーク」は世界的に有名なイギリスのスコッチ・ウィスキーである。一九二三年に開発されてから世界中で呑まれている。村上作品にも何度も登場するこのウィスキーのために村上春樹は詩を捧げている。
カティーサークカティーサークと何度も口の中でくりかえしているとそれはある瞬間からカティーサークでなくなってしまうような気がすることがあるそれはもう緑のびんに入った英国のウィスキーではなく実体を失ったちょうど夢のしっぽみたいな形のもとカティーサークというただのことばの響きでしかないそんなただのことばの響きの中に氷を入れて飲むとおいしいよ(村上春樹・安西水丸『象工場のハッピーエンド』所収「カティーサーク自身のための広告)
世界文学史的には「カティーサーク」の名前が登場した、もしくは重要なものとして取り扱われたのは、「カティーサーク」がブランドとして広まって間もなく詠まれたハート・クレインの詩『橋』(一九三〇)によってだろう。二十世紀前半のアメリカを代表する詩における橋とは、クレインが居住したニューヨークにあるブルックリン橋(当時にして橋としては最長であり、二十世紀アメリカの繁栄を象徴した)であり、「カティーサーク」はクレインが愛飲していたウィスキーだった。
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