マル激!メールマガジン 2016年2月10日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第774回(2016年2月6日)
米大統領選に見る米国内に鬱積する不満の正体
ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)
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米大統領選挙が2月1日、アイオワ州の党員集会を皮切りに本格的にスタートした。今回の大統領選挙は少なくとも前哨戦の段階では、前代未聞の異例な事態に見舞われている。
共和党では不動産王にしてテレビタレントのドナルド・トランプ候補が、信じ難いような暴論や問題発言を繰り返しながら支持率で首位を独走している。民主党も本命のヒラリー・クリントン元国務長官が、社民主義者を自任し、当初は泡沫候補扱いさえされていたバーニー・サンダース上院議員の猛追を許し、州によっては支持率で逆転されている。
アイオワ州の党員集会では、共和党では保守勢力のティーパーティ系からの支持が厚いテッド・クルーズ上院議員が27.6%の支持を集めてトップとなり、トランプは24.3%で2位に甘んじた。一方の民主党も大本命のクリントンが49.9%で勝利したものの、サンダースも49.6%の支持を集め、事実上、引き分けと言っていい結果だった。
この結果は一見、いざ選挙戦となれば本命候補が抜け出してくるだろうとの見方を支持しているようにも見える。しかし、長年、大統領選をウォッチしている上智大学の前嶋和弘教授は、むしろトランプやサンダースの支持が本物であることが証明されたとみるべきだと解説する。これまで両候補の支持はあくまで世論調査という人気投票の結果だったが、実際の投票でも世論調査に近い結果が示された形となったのだ。
前嶋氏は、ダークスースの2候補にここまで支持が集まる理由として、米国内に鬱積する不満の存在を指摘する。常識的には暴論にしか聞こえないトランプの移民排斥発言やイスラム教徒の入国拒否発言などが不満層の琴線に触れ、またサンダースが提唱する対富裕層増税や公立大学の無償化、金融業に対する規制強化なども、不平等感を募らせる若年世代から、ようやく自分たちの代弁者が現れたと受け止められる理由となっている。
前嶋氏は現段階でトランプやサンダースが主張している政策は、実際にはほとんどが実現困難なものであり、より現実的な政策にシフトしていく可能性が高いと予想するが、彼らが最後まで高い支持を得続け、両党の候補者選びが党大会まで縺れる可能性は十分にあると言う。それはアメリカで格差の拡大を容認する政策が続いた結果、もはやアメリカ社会では中間層が空洞化し、一握りの富裕層と巨大な貧困層が形成されつつあるからだ。
いよいよ本格的に始まった大統領選挙を通して、ダークホース候補の大躍進の背後にある現在のアメリカ社会に鬱積する不満の正体について、ゲストの前嶋和弘氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・“オモチャ箱”のような緒戦が示すもの
・ヒラリー・クリントンが大統領になる確率は「3~4割」
・トランプとサンダースの政策は“絵に描いた餅”だが……
・宮台真司がうらやましがる、米大統領選挙のシステム
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■“オモチャ箱”のような緒戦が示すもの
神保: 今週、アメリカの大統領選挙が始まりました。昨年10月、慶應義塾大学環境情報学部教授の渡辺靖氏さんをお呼びして、「米大統領選でダークホースが台頭する背景」というテーマで議論しました。当時は「トランプなどはいずれ失速するだろう」というのが大方の見方で、いわば人気投票で高支持率を得ていた状況でしたが、いよいよ実際に投票が行われるとどうなるのか、ということが徐々に明らかになってきています。
宮台さん、マル激ではスタートして15年、ずっと米大統領選を取り上げてきましたね。
宮台: ゴア対ブッシュの大統領選において、集計を巡ってゴタゴタしている時にちょうど番組が始まりました。
神保: 米大統領選というのは、われわれだけでなく日本全体の大きな関心事になります。アメリカでは三大ネットワークとCNN、FOXは、選挙戦の番組を作るため、巨大なスペースを確保します。しかし、人員的にもスペース的にも、その次に大きなリソースを割くのは日本のNHKなんです。例えば、自民党の総裁選は実質的に日本の次の総理大臣を選ぶプロセスですが、その総裁選の報道よりも、こちらの方が多いのではないですか。
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