マル激!メールマガジン 2024年4月17日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1201回)
NATOの拡大で変わる欧州の安全保障と日本が考えるべきこと
ゲスト:遠藤乾氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
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昨年のフィンランドに続き、スウェーデンが今年3月7日、NATO(北大西洋条約機構)に加盟した。200年以上も非同盟中立を守ってきたスウェーデンの方針転換はヨーロッパの安全保障のあり方を根底から変えるかもしれない。
元々ロシアのプーチン大統領にとって、ウクライナへの軍事侵攻はNATO東方拡大への対抗の意味合いを持っていた。しかし、結果的に侵攻によってNATOが益々拡大することになった。遂にNATOという軍事同盟は、フィンランドの1,500キロに及ぶロシアとの国境を隔てて、ロシアと直接向き合うことになってしまった。
東京大学大学院法学政治学研究科教授でヨーロッパの安全保障に詳しい遠藤乾氏は、ロシアによるウクライナ侵攻がなければスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟することはなかったという意味では、ロシアのオウンゴールのようなものだという。その上で、ロシアと近接しながらこれまでNATOには加盟せずに「ノルディックバランス」を保ってきた両国が加盟に踏み切った最大の理由は、ウクライナに対するプーチンによる核の脅しだったという。
核兵器の使用も辞さないプーチンの姿勢を目の当たりにして、もはやNATOの核の傘に入らなければ自国の安全を保てないとの確信を得たことが、NATOへの加盟を後押ししたと遠藤氏は指摘する。
結果的にスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟したことにより、バルト海はNATO加盟国に取り囲まれることになった。これまではEUには加盟してもNATOとは一定の距離を置いてきたスウェーデン、フィンランドの両国がNATOに加盟したことで、EUとNATOの版図がほぼ一致することになり、結果的に東西の境界がより鮮明になった。また、NATOという軍事同盟がNATOを脅威に感じるロシアと直接向き合うことになったことで、自ずと欧州の軍事的緊張は高まることが避けられない。
さらにここに来て大きな問題となっているのが、NATOの盟主であるアメリカが果たしてNATOにとどまり続けるかどうかが怪しくなっていることだ。11月の大統領選挙で実際に再選される可能性が出てきているトランプ前大統領は、度々NATOからの脱退も仄めかしてきた。NATOというアメリカを中心に形成された同盟体制が、スウェーデンとフィンランドの加盟でより盤石になったように見えても、アメリカが抜けてしまえば、すべての前提が崩れてしまう。
遠藤氏はアメリカ抜きのNATOで各国が足並みを揃えてロシアに太刀打ちすることは難しいだろうと語る。アメリカの動静次第では、欧州の安全保障が第二次大戦後もっとも視界不良な時代に突入する可能性が出てきているのだ。
一方で、今週、訪米中の岸田首相が米連邦議会で演説を行ったが、その中で首相は、日本がアメリカと肩を並べて世界秩序の維持に邁進する覚悟があると大見得を切った。また、日本はグローバルな秩序の維持にもアメリカと一緒になって取り組むとまで約束している。国賓待遇で歓待してくれているアメリカへのリップサービスの面があるにしても、いつ日本はそんなことを決めたのだろうか。そもそも憲法の制約がある中で、そんな空手形を切って大丈夫なのか。
バイデン大統領から日本が最重要な同盟国などと持ち上げられて喜んでいる首相のはしゃぎ過ぎが心配だ。
欧州の安全保障も東アジアの安全保障も、結局のところ20世紀の大半で圧倒的な優位性を誇っていたアメリカの力が相対的に落ちているところに問題がある。そうした中で日本は引き続きアメリカ一辺倒の外交政策を続け、かつてアメリカが果たしてきた軍事的な役割を世界規模で肩代わりするところまでやるつもりなのか。その力が日本にあるのか。それが日本の真の国益に適うことなのか。今一度厳しく検証する必要があるだろう。
中立を保ってきた北欧諸国が軍事同盟に参加することで欧州の軍事バランスはどう変わるのか。「もしトラ」が実現しアメリカが再び極端な孤立主義路線に転じた時、欧州や日本の安全保障はどうなるのかなどについて、東京大学大学院法学政治学研究科教授の遠藤乾氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・北欧諸国のNATO加盟はヨーロッパをどう変えるのか
・ビクトリア・ヌーランドの退任とネオコンの行方
・なぜウクライナはNATOに加盟できないのか
・落ちていくアメリカにすがり続けることが日本にとっての国益なのか
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■ 北欧諸国のNATO加盟はヨーロッパをどう変えるのか
神保: 今日は2024年4月13日の土曜日です。メインのテーマは、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したことでヨーロッパの安全保障がどうなるのかということですが、それを見て日本は何を考えなければならないのかということも話したいと思います。
ゲストは東京大学大学院法学政治学研究科教授の遠藤乾さんです。子どもの頃からの常識として、中立といえばスイスやスウェーデンを思い浮かべるのですが、今回それが崩れ落ちました。スウェーデンのNATO加盟はロシアのウクライナ侵攻に対するリアクションという理解で良いのでしょうか。
遠藤: スウェーデンの場合はナポレオン戦争以来の国是のようなものを変えました。ただ中立といっても、冷戦時代にスウェーデンの統合参謀本部が持っていた軍事作戦は対ソ連政策しかなかったので括弧付きの中立ではあるのですが、ポイントはプーチンさんの核の脅しだったと思います。フィンランドは冬戦争の時に当時のスターリンの軍隊を撃退し、自分たちの中に反ソ的な人を入れないということで手を打ちました。
スウェーデンもフィンランドも通常兵器であればロシアを撃退する自信があると思うのですが、核の脅しを聞いた時、NATOに入り核の傘の下に入らなければ自分たちではどうしようもないと思ったのだと思います。
神保: 逆にこれまでスウェーデンがEUやNATOにあえて入らないという道を歩んできた道理は何だったのでしょうか。
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