Into the Dark Depth
 そのボート小屋は狭く埃だらけで、長いこと打ち捨てられていたのが明らかだった。中にあったのは傾いた木のテーブルに、泥まみれで腐りかけた絨毯のみ。それを剥がすと下水の悪臭が湧き上がり、瘴気が目を刺す。闇に向かって口を開いているのは往時の下水道につながる竪穴である。がたついた鉄のはしごが一筋、闇の中に降りていた。
 ジェイドは火を灯した松明を竪穴の入り口へかざし、それから穴の底へと放り込む。オレンジ色の炎が下水道の床にぶつかり火の粉を散らす。炎が消える様子はない、ガスはないようだ。
「うわぁ、ホントに入るんスか? ここに?」
「私たちは死鼠団と戦っているのよ、当然ね。タラン!」
「たまらないッスね。ぬるっとしてます。あ、ぐにゅっともしてる。うわ」
 情けない実況を聞いてあなたは仲間と顔を見合わせる。
 ヘプタは肩をすくめ、エイロヌイの笑いは意図が読めない。
 病が完全に癒えたわけではないミシュナを、セイヴと共に残してきたのは正解だったようだ。そしてエリオン。一番この場に文句を言いそうなエラドリンは闇を凝視しつつ、心はここにないようだった。

 ――にいさん、にいさん!
 エリオンの脳裏に、弟の声が届いたのはボート小屋に入る少し前である。
 必死な呼びかけだった。
 ――強い闇の力がにいさんのところへ……。気を付けて!
「デイロンか? 一体何があったんだ!」
 思念を凝らすが答えはない、ただ弟の不安と憔悴だけが波のように伝わってくるだけだった。
 瞑目し、雑念を払う。もとより危険は承知している。いかなる闇が待ち受けていようと、進むのみだ。なによりも、デイロンは「気を付けて」とこそ言ったが、「逃げて」とは言わなかったのだ。

「何かあったンすか?」眦を決したエリオンに、いささかふさわしからぬ装いのコアロン神官が尋ねる。
「いや何もない」サン・エルフは応えた。「それよりも気を付けろ。この先には、危険がある」
「そりゃまぁ、死鼠団のアジトですし」戸惑うように返すヘプタに、それはそうだと思い直し、エリオンは頬を緩めた。そして軽く呪文を唱える。悪臭がだいぶ薄まり、爽やかな森の匂いが漂う。
「“プレスティディジティション/奇術”、これで少しはマシになるだろう」
「魔法ってのは便利ッすねえ」

 四方を石材で囲まれた下水管の中はひどく窮屈に感じられた。
 はしごの横木は握り締める手の中でぬるりと滑る。ときどき吹き上げる風がエリオンのつくる芳香のとばりを破り、その度に下水のむかつくような臭気が立ちこめて、息ができなくなった。

エリオン:コメントで、『タランを先に行かせればいい』って(笑)
エイロヌイ:タランを呼び出せるのは一日一回なんだよね。さっきワニに噛まれた後に呼び出しているから、今日またタランが妖精境に戻っちゃったら、次の大休憩が終わるまで呼び出せないのよ。
DM:下水道ですが、こんな感じです。奥の方に中二階があって、目的地は更にその先。この段差の上に行くには、皆さんが降り立った側の岸からは下水の壁をよじ上るか、対岸に渡って石段を登るか、ですね。

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サブマス/ジェイド:下水の幅は10フィート、登攀は15フィートくらいか。〈運動〉があればいまなら出目10で判定できそうだし、特に問題ない感じですが。
エリオン:あ、エリオンは〈運動〉-2なんで、出目10しても落ちるかも。
サブマス/ジェイド:おおう畜生(笑)基本はウィザードでしたもんね。
エリオン:だから、“フェイ・ステップ/フェイの一跳び”かな。仲間一人連れてけるし。
ヘプタ:こっちにも“ステップ・トゥギャザー/揃って一跳び”があるッすよ。これでPCなら全員飛べるッす。
エイロヌイ:タランも[遭遇毎]だけど瞬間移動できるのよね。
サブマス/ジェイド:でも、貴重な瞬間移動を戦闘でも何でもないここで使っちゃう?
DM:少なくとも下水道のこの場所では悪臭や危険があって小休憩はできないです。
全員:んー。

 とにかく避けたいのは下水の水に落ちて浸かることだった。キャライメージ的にも、実ゲーム的にも。
 しばし、手段を検討するプレイヤー達。しかし、状況の展開の方が早かった。


奇妙な客
「エラドリンの私がなぜこんなところに来なければならないのか!」
 苛立つ声と明かりが下水の奥、これから冒険者たちが踏み込もうとするところから聞こえてくる。この場で耳にするのには不似合いな流麗なアクセント、エルフ語である。
「この声!?」エリオンには聞き覚える声であった。
「何者か!」先方もこちらの明かりに気がついたのだろう。誰何の声が投げかけられる。中二階の上に見えた影は二つ。
 一人は神官のローブにコアロンの聖印、ニュー・シャランダーの好戦派神官エムレイ・ファイアースカイの副官、アデミオス・スリードーンである。もう一人は槍と剣を携えた護衛兵であった。妖精境の美しい陣羽織は、やはりこの下水には似つかわしくない。
「アデミオス殿、なぜ、こんなところに?」エルフ語でエリオンが尋ねる。このやり取りを理解できないのはただ一人妖精境に馴染みのないジェイドのみであった。ヘプタが小声でやり取りを中継する。

DM/アデミオス:「ファ、ファイアスカイさまの指示でこの下水に生える“下水美人”という薬草を探しに来たのだ」
全員:「んなわけあるかー!」
DM/アデミオス:「何ですと、ご存じないのですか?」と驚いた表情で。
エイロヌイ:ええいやかましい。〈看破〉だ〈看破〉(笑)

 ところが。

エリオン:「エリオン、わかりません」
ヘプタ:「いやいやいや」
サブマス/ジェイド:「……」
ヘプタ:「いやいやいやいや!」
エイロヌイ:「『下水美人、どんな花なのかしら』」
ヘプタ:「嘘ですって!嘘!」
DM:あ、タランも見抜いてるそうです。『いや、ないっすわー』とか言ってますが。
サブマス/ジェイド:ヘプタって要所はちゃんと見抜くよねー。
ヘプタ:怪しいって思ってくださいよ!
エリオン:「く、行方不明になった先遣隊の件もあるというのに、こんなところでのうのうと花探しなどしているだと!?」これなら噛みつける。
DM/アデミオス:「こ、これこそはコアロン神殿に託された任務なのだ!」
エイロヌイ:「そして、目的のものは見つかって?」
DM/アデミオス:「エイロヌイ様までこのようなところに!? い、いや、無駄足でしたな。人間達の街などにくるほどではなかった」
ヘプタ:結局見破っているのはオイラだけッすか。なら、言うっす。「アンタ、怪しいッす」
DM/アデミオス:「お前のような者に言われたくはない!」
全員:あー(納得)
DM/アデミオス:「それよりもエリオン殿も、エイロヌイ様も一体何だというのですか! そんな怪しいヤツを連れて……。どう見ても悪の手先ではありませぬか」
エリオン:「これは道案内だ、下水には下水にふさわしい道案内が必要だからな」
ヘプタ:微妙にイラッとするッす(笑)

 下水美人という華があるかどうかはともかく、いるべきでないところに、いるべきでない者がいることの不自然さはごまかしがたく、不信を隠さないPCたち。やがてアデミオスの方が痺れをきらす。

DM/アデミオス:「……やれやれ。面倒な連中だな。片付けてしまった方が早そうだ」
ヘプタ:「あれ、お知り合いじゃ」
エリオン:「そのはずだったが……。どうやらエルフの誇りをネズミどもに売ったか?」
DM/アデミオス:「何を言うか! エルフの誇りは変わらずこの胸の中にある。この街もいずれ終わる。そうしたら、エルフの軍を率いてこの街を占拠し、シャランダーの帰還、帝国復活の橋頭堡にできるというわけだ! これこそがサン・エルフの誇りよ。
 そういえばお前達は人間と共存しようとなぞ考えている一派だったな!」
エリオン:「まさかここまで……。司祭様もこれを知っているのか?」
DM/アデミオス:「お前達が知る必要はない!」

 それまで沈黙を守っていたエラドリンの護衛兵が、がくがくと震えだした。
 目を見張る冒険者たちの前で、切れ切れに言葉が絞り出される。
 兜の下から、袖口から、胸元から濃い白い煙が立ち上る。
「に、げろ。エリオン、エイロヌイ、さ、ま」
 開いた口から空気が補給され、炎が嬉しそうに兵士の体を蹂躙する。その口、目、鼻から、ごう、と炎と煙が吹き出し、皮がぶすぶすと燃えてずり落ちる。
 中から出てきたのは消し炭のようにいぶる、人型をした悪鬼の姿。
「シアド・デヴィル……! アデミオス、貴様、悪魔と手を組んだか!」

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「ジェイド、間違わないでね」レイピアを抜きはなち、妖精の騎士は告げる。「あれはフェイワイルドの生き物ではないわ」。
 ――いや、問題はそこではない。
 そう思いながらも、あなたは確認をする。「一体何が起きたっていうんですか!?」
「知り合いだったが、悪に寝返ったようだ」答えたのは、やはり剣を抜いたエリオンである。すでに風を切る刀身が響鳴を奏で始めている。
「汚穢に満ちたこの下水で、身内の恥を断ち切るというのも、また趣深いと思わない? タラン」、「そっすかァ?」。
 ――本当に、このひとは読めない。タランに同意しながら、あなたはアデミオスを見据えた。

「しょせんお前達は先遣隊から外れた雑魚、ここで片付けてやる!」アデミオスの手にしたワンドが硫黄の煙を放ち、地獄の炎に燃え上がる。
 この時、アデミオスには勝算があった。
 自分達は相手に対して高所を確保している。彼の技、地獄ウォーロックの遠隔攻撃ならば眼下の敵を七面鳥の如くに撃ち散らすことができる。射撃に晒されて壁を登るならば、思う壺。下水を渡るにしても一手番を無駄にする。
 サン・エルフ(エラドリン)のエリオンには“フェイの一跳び”があるが、上に登ってきたとしてもシアド・デヴィルが彼を守る。さらに、
「(こちらにはまだ、腕利きがいる……!)」
 彼と信仰を同じくする手練れ、女ドワーフの暗殺者が暗い視線でハンドクロスボウを構えた。


人知れぬ死闘
 真っ先に動いたのはヘプタである。
 先ほど使用をためらったステップ・トゥギャザーの技、今こそが好機であった。ジェイドの肩に手をかけて一声、コアロンを頌えると二人は異界に分け入って移動、現実世界へと戻ってくれば、ジェイドはアデミオスの隣に、ヘプタはその更に隣へと出現する。
「な!?」
 そしてクロスボウに祈りを込めて一撃。光芒を放つ太矢がアデミオスの頬をかすり、大いに彼をうろたえさせる。

DM/アデミオス:「貴様、ただのチンピラではないな?」
ヘプタ:ヘソのピンをアピールするッす(笑)
DM/アデミオス:「ハーパーだと? この街のハーパーは壊滅したはずッ」
サブマス/ジェイド:巡行時はジャヴェリンだったので、ここでロングソードに持ち替えます。
DM:ジェイドはここで中二階の奥に、まだもう一人いるのに気がつく。銃剣つきのハンド・クロスボウを両手に持った女ドワーフです。目には敵意。

 もう一人の戦闘参加者に思うところはあるが、ジェイドは当初の心づもり通り“ハンマーハンズ/槌手撃”でアデミオスを打ち“パワー・ストライク/強撃”を重ねる。かたわらのシアド・デヴィルには動く機会を与えない。突き飛ばしにも成功し、階下のエリオン、エイロヌイの足下へと裏切り者を送り出した。
「ファブリア! 何を突っ立っている。さっさとこいつらを殺せ!」落下音の後に聞こえて来た声には憔悴の色が濃い。させじとジェイドは女ドワーフとの間合いを詰める。飛び道具使いには間合いを与えてはならぬ。

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 下水道の床に這うアデミオスはエイロヌイにマークされた。守るべき主から離れたシアド・デヴィルは、無防備を晒すヘプタへと殺到、燃えさかる腕を叩きつける。己の肉の焼ける音を聞けば、ヘプタはこの相手から目を逸らすことなどできるはずがない。

 この戦場には敵の動きを阻害する技の使い手が3人いる。
 シアド・デヴィルはその打撃を軽んじて他を撃つ相手の肉を焼く。
 エイロヌイもまた、彼女の神威を軽んじて他を撃つ敵を光で灼く。
 ジェイドの技はこの二人とは違う。
 間合いを逃れようとする相手、自分以外を撃とうとする相手の隙を見逃さずに剣を振り下ろすと言う技だ。神や魔法によらぬ人の為す技ゆえ、外れることもある。

 暗殺者ファヴリアはそこに賭けた。飛び道具の間合いを取るために、一歩飛び退る。逃さずと振り下ろしたジェイドの刃は――!

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 女ドワーフは己の慢心を恥じた。戦士の放った肩口への一撃は鎧を裂き、肉を深く抉っている。さらに打撃の勢いに乗ってこの戦士は下水の壁へと彼女を押し込み追い詰める。
 ――だが、次はない。
 ファブリアはクロスボウの先に仕込んだ刃でジェイドを突き放し、一歩飛び退るともう片方のクロスボウを放つ。
 盾に突き立った太矢を見てジェイドは息を呑む。ぬめりと厚く塗られているのは紛うことなく毒だった。

 アデミオスは怒りのあまり、冷たく心が研ぎ澄まされていくのを感じた。
 サン・エルフのために尽そうとコアロン・ラレシアンの宗門に身を捧げたにも関わらず、かの神は彼には微笑まなかった。神威の技は必ずしも聖職者の位階や篤信に比例しないとは言え、自分の如くサン・エルフの栄光を願い、異種族を討ち滅ぼす誓いを立てた者にエルフの祖神が恵みを垂れないのは解せなかった。
 それ故に彼は、誇りを守るために必要な力を、別の神から受け取らねばならなかったのだ。地獄の烙印を受けなければならなかったのだ。
 なのに、こやつらは。
 ニュー・シャランダーにいる間はまだ、我慢もできた。しかし、目の前にいるチンピラは交じりモノだと言うのにコアロンの恩寵を授かっている。
 許せなかった。なにもかもが。チンピラが、サン・エルフの誇りを裏切った者達が、そして祖神コアロン・ラレシアンが。
 聖印を引きちぎり、彼は主の名を叫ぶ。「アスモデウス! 地獄の王!」
 起き上がる手間も惜しんでフェイ・ステップ。対岸に渡ってそこから“エルドリッチ・バースト/妖光爆裂”。一人でも多くと狙ったのはエイロヌイ主従。光塵が収まったとき、そこにはタランの姿は無く、手傷を負ったエイロヌイが膝をついていた。
「どうだ、これが我が力だ!」
 と、その時。
 もう一人のサン・エルフが駆けた。

エリオン:移動して、エイロヌイに駆け寄ってアクション・ポイントでもう一回移動。フェイ・ステップでアデミオスの目の前に瞬間移動します。「貴様が立ち上がるのをわざわざ待ってやっていたというのに、無様なあがきを見せるとは……、醜いな!」そしてここで名乗る!
外野:おおお!

「我こそはシルヴァークラウン家のエリオン、イリアンブルーエンを守る“戦刃の神曲奏者(ブレードシンガー)”なり! アデミオスよ、悪魔に魂を撃った報いはこのフェノルの刃にて受けるがよい!」
 サン・エルフの魔剣士は名乗った。
 その名乗りは下水の闇の中にあって凛と響く。名乗りは歌となり、振るう刃が舞となる。エルフ秘伝の魔法剣、ブレード・ソングが今ここに紡がれる。

エリオン:もうちょい名乗って良いですか(照)
全員:どうぞどうぞ(笑)

 彼が歌うのは父祖に連なる剣の由来、そして始祖より伝えられし剣技の正統である。
「かつて妖精境の平和を脅かした七匹の大蛇の王、太陽の蛇オルダリオンと女王なる月の蛇ケイマガジンを屠りしものの裔こそが我。その魔力で編み上げし魔剣フェノルを握るもの、太陽と月を掴みしものエリオンとは私のことだ!」

DM/アデミオス:「な、フェ、フェノルの剣だと!? 実在していたというのかッ!」
外野:ノった?!
エリオン:命中して11点(DM:重傷!)そして剣術呪文、アンシーン・ハンドで4点追い討ちしたうえで、3マス横滑り。汚水の中に放り込みます!
DM/アデミオス:それにはなンとか耐えた!「エリオン、お前が生まれた夜に真っ赤な流星が落ちたというのは本当だったのか! そこまでの魔力を有していようとは……侮ったわ」
ヘプタ:さらに設定乗っけた!?
エリオン:「その流星は忌まわしき闇の星。その話をするな!」
サブマス/ジェイド:しかも受けた!?
エイロヌイ:なんだこの人達(笑)

 しかしまさかこの時にはこのやり取りがさらなる伏線に繋がるとは思ってもみなかったのである。
 第二ラウンド、ヘプタはグレイスフル・スイッチで臨機応変に武器を持ち替え、シックルで目の前のシアド・デヴィルに斬りつける。さらにアクション・ポイントで“ブレッシング・オヴ・ザ・ワイルド/野生の祝福”。神の祝福を受けた打撃を与えて、敏捷に間合いから逃れる。そのままジェイドの後に逃げるとその上でコアロンの印が描かれた財布を掲げて自分の手傷を回復する。
 ジェイドはファブリアを“グラウアリング・スレット/威圧的な眼光”で牽制しつつ突撃して、さらに壁際へと追い込んでいく。
 そしてエイロヌイ。

DM/アデミオス:「エイロヌイ殿、なぜこのようなやからに組みするのですか! 妖精境の住人であり、誇りあるあなたがこのようなゴミどもと共に行く必要などないではありませんか!」
エイロヌイ:「誇りある者は九層地獄の王アスモデウスを崇めたりはしないわ」

 そして彼女の目がすぅと、細くなる。
「それよりもあなたは、私を転ばせたわね? 私に膝をつかせたわね?」
 そして繰り出される“レイディアント・デリリウム/惑乱の煌めき”が裏切り者の目を奪い、心を惑わせる。
 手負いはアデミオス一人。しかし、畳みかける勢いが冒険者たちにはあった。
 シアド・デヴィルの腕は空を切る。ファブリアと呼ばれた暗殺者は刃で軽傷は与えられても決め手が届かない。惑乱するアデミオスは倒れたまま自暴自棄となってエリオンを撃つがあたるはずもなく、エイロヌイの神罰を受ける。
 光輝に討たれ喘ぐアデミオスの前で、エリオンが優雅に剣を振り上げる。その時であった。

DM/アデミオス:「エリオン殿! 切り札はこちらにあるのですよ! 弟のデイロンどのが何か言っておりませんでしたか? 『危険が迫る、闇が来る』と!」
エリオン:「なんのことだ?」
DM/アデミオス:「あなたの弟が危険な力を持っていることは我らも承知。ゆえに私の側近が弟殿のそばにいるのですよ!」
エリオン:「まさか、デイロンに何かしようというのか?」
DM/アデミオス:「その通り。あの方はいずれ我らを率いる存在になられるお方。デイロン殿の強い魂はアスモデウス様も認めていらっしゃるのです」


このシーンのうらがわ
全員:こっちの設定も拾った!?
エリオン:わー、弟がラスボスルート?



エリオン:「そ、そのようなこと私は許さぬ。コアロン様も許すまい。デイロンは神に守られているのだ!」
DM/アデミオス:「さて、どうでしょうかね。今ここで私が死に、連絡が途絶えたならあなたの弟もどうなることやら……。さぁ、剣を納めるのです」
エリオン:「く、卑怯な!」
エイロヌイ:「エリオン、」
エリオン:「?」
エイロヌイ:「ここで刃を止めてしまったなら、そのことについて弟はなんて言うと思う?」
エリオン:! 「確かに、こんな卑怯な脅しに屈しフェノルの刃を引いたなら、デイロンもその瞳を曇らせ悲しむだろう!」ということで、問答無用。ぐさっとヒットして10点。
DM/アデミオス:「き、貴様! 後悔するぞ」
エリオン:「うるさい、このドブで頭を冷やせ!」 とアンシーンハンドで放り込みます♪
DM:これは潮時だなぁ。

 冒険者たちは生き残りのファブリアに攻撃を集中する。ヘプタの矢がジェイドの剣が、エイロヌイのレイピアが女ドワーフに手傷を与えるが決定的な一打にはならない。シアド・デヴィルもまたファブリアを助けようとするが、もはやただのダメージでは誰も止まらない。
 ファブリアはエイロヌイ、ジェイドに隣接されるが、離脱を決行。防衛役二人はそれぞれ移動に対して機会攻撃を行なうが……。

ジェイド&エイロヌイ:『あ』

 まさかの出目1が二連続。謎の女ドワーフ、ファブリアは下水道の闇に消えた。
 そして戦闘が終了する。


この街の深淵
「……嘘ではない。ニュー・シャランダーの主だったものたちはお前の弟の力に気づいている。あれほどの力を持っている存在を放っておくはずはあるまい」
「我が弟は真っ直ぐな心を持っている、惑わされることなどあるものか!」
 エリオンはとどめを刺さなかった。アデミオスの言葉がどれほど真実かはわからない。しかし今ここで妖精境へ戻ることができぬ以上、弟のことよりも彼がなぜ下水道にいたのかを問いただすほうが重要だと、あなたの言葉に従ったのだ。
「死鼠団と取引をした。目的のためにな。連中は先遣隊の情報を欲しがっていたから、くれてやったのだよ。我らが手を汚したわけではない」
「貴様!」
「ニュー・シャランダーのほとんどは、取るに足らぬ人間たち、おろかなこの世界の者達に愛想が尽きている。連中には好きなだけ争わせておけばいい。調査? 手を結ぶ? そんなことは必要ない。この街はあと少しで滅びるのだからな。お前達はこの街で何が起こっているのか知っているのか?」

 縛り上げた裏切り者を前に立て、あなたたちは下水を進む。
 やがてたどり着いたのは牢獄であった。もとの用途は何だったのか。今となってはわからない小部屋に鉄格子が嵌められ、そこで十数体ほどの人影が膝を抱えてうなだれていた。彼らは皆、見覚えのあるお仕着せを着ている。ニュー・ネヴァーウィンターの兵士、つまりはミンターン島の傭兵である。彼らは囚われの身となって、この穴倉へと閉じ込められたようだった。
 異様だったのは、あたりを照らす青緑の光である。
「呪文荒廃か」
 あなたの隣でエリオンが息を呑む。魔法使いである彼はその光の意味を即座に理解できたのだ。魔法を歪め暴走させる力、生き物を作り替え破滅させる力がこの場所には充ち満ちていた。穴倉の中央に置かれた宝玉がその力を発していた。
 意図は明かである。牢獄に囚われた者達を呪文荒廃の力に晒し、“荒廃クリーチャー”へと変化させようというのだ。
「弱いものは光を浴びただけで死に至る。生き延びても正気を保っていられるものは少ない。死鼠団はこれを地下深くから手に入れた。そしてこの地に混乱をもたらすために利用しているというわけだ」淡々とアデミオスが解説をする。
「……! まさかニュー・シャランダーの先遣隊もか!?」
「先遣隊は死んだようだ。死鼠団は『戦士の死体はサーイのレッドウィザードに高く売れる』と言っていたからな。生き残りは知らぬよ、死鼠団に聞けばいい。我らは利用できるから取引はしたが、この街のクズどもがどのように食い合おうが知ったことではない」
 エリオンとアデミオスの会話をよそに、あなたは鉄格子に歩み寄る。奥にいる鎧姿に見覚えがある。
 美しい黒い髪に傷だらけの厳しい顔。やつれて瞳を閉じてはいるが、なお傲然たる表情、抜きはなった鋼の如き武人。間違いなく彼女こそはかつての師匠サビーヌ、このネヴァーウィンターにあってはセイバイン将軍と名乗る女戦士であった。
 配下と共に彼女もまたこの地に囚われてあったのだ。
「ヘプタ、この人達に治療を!」あなたの声を裏切り者が嘲る。
「やめておけ、ヤツはもうすぐ荒廃クリーチャーとなる。無駄なあがきだ」
「ジェイド、なぜここに?」師は大儀そうに目を開いた。蒼い炎がその目から迸り眼前に閃く。アデミオスの言葉の通りだった。すでに呪文荒廃の力がセイバイン将軍の体を作り替えてしまっている。正気を保っているのは、彼女が歴戦の兵であるからだ。
「とりあえず、怪我だけでも治すッす!」
「やめろ! 襲ってくるぞ。呪文荒廃に飲み込まれれてしまえば、暴れ回る化け物に変わる! 解放するな」
 アデミオスの言葉は正しい。波止場で戦った人間のなれの果てどもをあなたは思い出した。牢獄の中にはすでに事切れた兵士達の骸が横たわっていた。変異に耐えきれず、ねじれた体のまま息絶えたもの。化け物に変わり仲間に倒されたものには刀傷があった。数えれば半数以上が変異し、斃れていた。それでも、
「置いていくわけには行きません、助けます」
 件のオーブをエリオンがたたき壊す。数瞬蒼い炎が閃いて、そして消える。「荒廃クリーチャーは、治らないと聞いています。ごく稀に、その力を克服できる個体がいるだけとも」エイロヌイが耳打ちする。「それと、一応。ネヴァレンバー卿のところであったセイバイン将軍と本当に同一人物なのかは、確認しましょう」
 あなたはそれにうなずき、彼女と自分だけしか知らないことを尋ねた。
「サビーヌ先生。あの時なぜ、身分を詐っている私を助けてくれたのですか?」

「私はお前の父、レオン様からお前の素性を聞いている」
「……! では、ネヴァレンバーも私のことを?」
 サビーヌは首を振った。
「ネヴァレンバーがそのことを知れば必ず動く。恩を仇で返すことはしたくなかった」
「先生……」鉄格子にかけた手にじっとりと汗がにじむ。あなたは今、迷っていた。

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このシーンのうらがわ
 セイバイン将軍は荒廃クリーチャーと化している。
 彼女は恩人だが、解放した場合味方となる保証は何一つ無い。彼女なりの筋を通して再びネヴァレンバー卿の元に戻り、今やニュー・ネヴァーウィンターとも袂を分かったジェイドの前に立ちはだかる可能性もある。
 さらには正気を失って襲いかかってくるかも知れない。
 
問い:囚われのミンターン傭兵団幹部をどうするか?

1):解放する。
2):放置する。
3):とどめを刺す。



 果たしてジェイドの決断は――!

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『いっそ、助けるか否かをタイモーラに問うか』コインを投げて裏表を問う、タイモーラの神占。しかしあなたはその考えを振り捨てた。
「いいのか、ジェイド。自分の体がどうなっているのかくらい、私にもわかる。お前を殺すかも知れない」
「助けることにしました。ですから、その先の幸運をタイモーラの神に祈りましょう」
 そしてあなたは鉄格子を押し開いた。

DM:セイバイン将軍はしっかりとした足取りで牢から出てきます。そして、何人かまだ意識のある部下を連れ出すと、武装を確認し街に戻ろうとします。「レジスタンス達は、“正義の館”を襲おうとしている。部下を見殺しにはできない。私は彼らの元に戻る。それが私の使命だ」
サブマス/ジェイド:「あなたを無駄死にさせるために、救い出したんじゃない!」
エリオン:「死体の山が増えるだけだ」
DM/セイバイン将軍:「だが、今のままでもミンターンの傭兵団は皆殺しにあう。ならば、私は彼らを率いるものとしてその死地にたって、一人でも多く部下を救わねばならない」
サブマス/ジェイド:「それならば、私たちが代わりにその危機を伝えに」……って何言ってんだ、俺(混乱)
エイロヌイ:「レジスタンス達は、死鼠団と手を組むことでネヴァレンバー卿の兵をも脅かす力を手に入れたのよね。これから私たちは、その死鼠団の拠点を叩きにゆくのよ。これが成功すれば、死鼠団、ひいてはレジスタンスも弱体化するから、将軍の言うような急ぎのことにはならないと思うわ」
エリオン:「確かに!」
ヘプタ:「逆に、今はそれくらいしかできることはないッすね」。解放した以上、彼女がどうするか、どうなるかは彼女が決めることです。
サブマス/ジェイド:そうだね……。
エイロヌイ:「行きがかりの恩を着せるようで申し訳ないですが、通りすがりの死鼠団に恨みのある冒険者に助けられたってコトにしてくださいな」
DM/セイバイン将軍:「わかった」と彼女は答えます。そして、ジェイドに向かい、彼女が携えていた剣を差し出す。「これで、仲間を守れ」+1ディフェンシヴ・ウェポンですね。
サブマス/ジェイド:ありがたく受け取った上で、「無くては困るでしょう」とこちらの武器を渡す。
DM/セイバイン将軍:「私はお前を軟弱に育てた覚えはない。生きて死鼠の穴から出てこい」
サブマス/ジェイド:「ご武運を」

 こうして冒険者と傭兵たちとは別れた。足を引きずり、身に呪文荒廃を宿した傭兵達はそれでも共に死地にて戦うため仲間達の元に戻る。冒険者たちは恩讐の連鎖の影で暗躍する悪を断つため、再び闇へと歩み出す。
 一部始終をネズミたちの赤い眼が目撃していた。
 死鼠団の本拠までは、あと僅かであった。


ジェイドの決断まとめ

七回目
 問い:囚われのミンターン傭兵団幹部をどうするか?
 決断:解放する。

六回目
 問い:あなたは自分の素性をどこまで仲間に明かすのか
 決断:ネヴァーウィンター王家の血を引いているらしい、ことまでも明かす。

五回目
 問い:あなたは今後、どの陣営に協力するか
 決断:まだわからないことが多すぎる、どちらの陣営にも属さない。

四回目その一
 問い:あなたは自分がネヴァーウィンター王家の血を引くことを仲間に、明かすか?
 決断:まだその時ではない。明かさない。

四回目その二
 問い:あなたがネヴァレンバー卿の元に連れて行く、信頼できる仲間は誰か?
 決断:ネヴァーウィンターをよく知るヘプタ。ネヴァーデス墓地での事件の当事者であるミシュナ。

三回目
 問い:王権を証し立てるネヴァーウィンターの失われた王冠。これを前に、あなたはどうする?
 決断:「まだ正体を明かすべきではない」王冠は被らない。

二回目
 問い:衛兵に絡まれているヘプタとセイヴ、あなたはどのように振舞う?
 決断:「兵士は横暴だ。あの二人に言い分がある。力ずくで助ける」

初回:
 問い:成人の誓いはどの神に誓う?
 決断:“幸運の女王”タイモラに誓う。「身寄りのない自分が己の運命を切り開くのに必要」属性は善となる。