掃溜めに朽ちたエース:セイヴ
 ラスカン――。
 そこは掃溜めの街、絶望の泥沼。
 外道の魔術師、悪党海賊のなれの果てが弱者をいたぶり、奪い取り、そして暗がりで喉を切裂かれる。
 腹を空かせた野良犬たちが、路地裏で死者を(ときにはまだ生きているものも)貪り喰らう。市壁の中に満ちるのは吐き気を催すどぶ川の臭い。

08e9cbd257de2e28fcd2fdf63a809ffbef1cabbf

 ハーフエルフのエースは物心ついたときからこの街にいた。
 おそらく彼にも親はいたはずだ。赤子のうちに素材や奴隷として売られずに、育つことができたというのはそういうことだ。
 だが、彼はなにも覚えていない。父と母、どちらがエルフで人間だったのか。二人はこの街にふさわしい悪党だったのか、それとも不本意にもこの街に関わった運の悪い人間だったのか。彼は知らなかった。その代り、彼には養い親がいた。
 トイテール。
 “キング・トイ”、“未来を見通すもの”の二つ名を持つ、ハーフリングのバードにして、盗賊ギルド『死鼠団』の首領である。
 盗賊ギルドが子供を拾い、育てるのは珍しいことではない。使い道はいくらでもある。しかし成人するまで無事生き残るものはわずかだ。そして、エースはその数少ない“生き残り”だった。

柳田→サブマス:つまり、生まれながらの悪党?
宮坂→セイヴ:いや、悪党だったら死なずに済んだ。
全員:?
セイヴ:ハーフエルフのころ、つまりラスカンにいた頃。エースはその名どおり死鼠団の稼ぎ頭だったが、そのやりかたもほかとは違った。彼は、盗み仕事で脅迫はしても殺しはしない。この仕事のえり好みが死鼠団の中で煙たく思われることもあったけど、それを黙らせるだけの稼ぎがあった……!
岡田→DM:なるほど、ではどれだけできたか〈盗賊〉判定で確かめてみましょう。
セイヴ:っと、難易度25まで成功
DM:十分です!

 その日もエースは、対立組織から金を掠め取り、アジトへと戻ってきた。死鼠団に所属する盗賊達は、あがりの1/4を“キング・トイ”に納めることになっている。卓のうえにどさりと貨幣の詰まった小袋をおくと、ひそひそ、ちゅうちゅうと取り巻きが噂する。
「……なんてェ稼ぎだ」「毎月あれだけ稼ぐんじゃ、“キング・トイ”の仕事断っても文句は言えねえ……」。物陰から羨望と嫉妬とが入り交じった視線がハーフエルフに集まる。
「さすがだな、エース」
「アンタの仕込みさ」
 エースの前には卓を挟んで、背中の曲がった野獣めいた姿。鼻面は長く、左右につきだした髭がぴくぴくと動いている。大ネズミじみた半人半獣の姿、トイテールである。アジトの中ではこの姿がくつろぐのだという。見れば、周囲の死鼠団もまた、獣じみた姿を取っている。人の姿を保っているのは、エースくらいか。

f08760990e5bee4e676c2259d899617f706b4e99

 これこそがラスカンで囁かれる噂、死鼠団の正体であった。彼らは皆ワーラットなのだ。
 死鼠団は新人を迎える折に血の儀式を行なう。そこで先達のワーラットが新入りに穢れた血を授け、彼をワーラットにしてしまう。これにより死鼠団の団員はいかなる隠れ家であっても、そこにネズミ一匹でも這い込む隙があれば、入り込んでものを盗み人を殺すことができるようになるのだ。

DM/トイテール:「お前がここまで育つとは思わなかったぜ」
エース(セイヴ):「アンタのおかげだよ。育てられた恩はまだまだ返したりない。僕は死鼠団にいるからこそ、このクソみたいな街でも生きていける」
DM/トイテール:「にしてもたいした稼ぎだ。エース。これだけの腕があれば、お前がアタマになることだってできるんじゃねえか」

 トイテールのからかいに物陰のネズミたちがざわり、と蠢く。
「アンタがいる間は無理さ」エースは答えて笑う。トイテールも笑うと、酒の入った革袋を放った。
「ネヴァーウィンターに行った連中がな、仕事のあがりを納めて来なくなった」
「いいのか? “キング・トイ”ともあろう方が。不心得ものを放っておいて」
「まあ、それでいろいろ考えてな。……明日の夜、いつもの場所で話がしたい。悪い話じゃないはずだ」
「人殺しじゃないなら、やるさ」

 咎めだてるようにネズミの鳴声がアジトに拡がるが、首領が牙を剥きだして笑うとそれは止む。

「変わらねえな」
「背中を刺したナイフはいずれこっちの背中に廻ってくるからね」

DM:そして次の日、月のない晩にエースは“いつもの場所”に来ます。そこは廃墟となった劇場で、ステージの上には先にトイテールが来ています。やはり獣人の姿で。
エース(セイヴ):「トイ、あんたがここに僕を呼び出すのは決まって大仕事の時だ」
トイ:「相変わらず時間には正確な奴だな」
エース(セイヴ):「仕事は段取り八割、あんたが教えてくれたことだろ」
トイ:「お前をガキの頃に拾ってから……、何年だ?」
エース(セイヴ):「上がりを納めるようになってからなら、10年だよ」

 ハーフリングサイズの獣人は眼を細めた「そんなになるか……」

トイ:「お前は俺が育てた中では、一番才能のあるクソ“だった”な」
エース(セイヴ):「“だった”?」
トイ:「俺はな、自分の地位を脅かすような奴が大嫌いだ。俺の二つ名は“未来を見通すもの”。見えたんだよ、エース。お前をこのまま野放しにしておいたら、確実に俺に成り代わるって未来がな!」

 劇場の屋根裏、舞台の袖、客席。
 暗がりの中に憎しみで青白く光る双眸が、一つ、また一つ。否、その数は優に数十を超していた。人の姿、大きさであればエースが気づかぬはずはない。だがドブネズミほどの大きさで物陰に潜んでいるとしたら?
 油断があったことは否めない。しかし、敵に廻した死鼠団の恐ろしさをエースは今思い知らされた。

a6fe5169aaea5eea5e4b626c5f436432a81752ae

エース:なんかすごい数のミニチュア?!
DM:ほら、中途半端な数だと戦えちゃうと思っちゃいますから♪
堀江/雑魚ワーラット:「へへへ、お前がエースを気取ってられるのもこれまでだぜ!」
堀内/同じく雑魚:「いくらお前でもこの数にゃあ勝てねえさ!」
エース:「チッ……」

 ひゅかっ。
 嘲笑った獣人の眉間に、短剣が突き刺さる。

堀内/雑魚:ということで「さ、さすがエース……」と死ぬ(笑)
サブマス:はや!
エース:「殺しだけはしない、って決めてたんだがな」
DM/トイ:「約束を破った子供にはお仕置きだ!」というわけで多勢に無勢ですので、ここで死んでください(笑)
サブマス:ここで死なないとレヴナントになれませんからね(笑)
エース:「ぼ、僕はまだ死にたく……ぶべらっ」(笑)

 舞台の上、ハーフエルフの屍にネズミたちが群がっていた。骨まで囓り尽そうかという勢いは、まるで憎しみと妬みを込めたかのよう。
「もうすこし、抵抗するかと思ったが」トイテールは呟いた。
 そして、舞台の上にあるのがわずかばかりの肉片と骨のみになったのを見て、はじめて彼は安心し、幾つか用意してある秘密のねぐらに戻った。
 掃溜めの街、ラスカンではいくらもあるできごと、幾度もあった夜の物語である。

 しかし、物語はここから始まる。

 無人となった劇場、肉片と骨片がわずかに散らばる舞台に天から一筋の光が落ちた。新月の夜である。月の光ではあり得ない。
 照らすのは、肉体のあった痕跡。かろうじて人型に見える血と肉の跡。
 目覚めよ、と呼ぶ声がした。
 エースと呼ばれていた魂は、目を開く。
 目の前には鴉の翼を生やした人影がある。容貌はおぼろにしか見えないが、心に響く声で女と判断できた。
 舞台に落ちる光の柱は、魂の目には武人の姿と映った。鎖帷子にバスタードソード、胸には“金色の天秤を携えた骨の腕”のしるし。

a81b5982750d9db417eea608cac23a8cd28ad70b

 “死者の王”“罪人を裁きしもの”ケレンヴォーの姿であった。
「あなたにはなすべきことがあるのです」鴉の翼の天使、ケレンヴォーの御使いは死を告げてくれなかった。

 最初に感じたのは土の臭いである。
 目を開く。なおも暗い。真っ暗だ。
 闇を払おうと伸ばした手が板に当たる。ぐい、と持ち上げるとどさりと土が零れた。棺の中に横たわっていたのだ。
 冷たい空気を吸い込む――まるで生れて最初の息のように。見るもの、聞くものはどれも鈍く生彩を欠いて、くぐもって感じられる。体に感じるのはぬくもりではなく冷気。手足の先がずきずきと疼くのは、指先から伸びる鉤爪に慣れていないせいだろう。
 いまや何一つとして自分のものではない、体も、命も。この身命は使命を果たすまでと、神から賜ったかりそめの体なのだった。
 耳に残るのは、「ネヴァーウィンターへ向かうのです」という女の声。冷やかで穏やかな、有無を言わせぬ優しい声。それ以外の記憶は、目覚めたあとで思い出す夢のように、つながりなく、おぼろ。
 ただ一つ埋み火のように怒りだけが燃えている。「使命とやらが何かは知らねえが。糞ネズミどもに借りは返す」と。
 彼は北へと歩み出した。
 セイヴ、彼は後にそう名乗ることになる。

8bbcf48741ee36a4a1be839e9a3a7329f476f7d5


このシーンのうらがわ
 参加プレイヤー、宮坂健。
 外資系ゲーム会社にて、毎週各地を飛び回る旅人。お菓子タイムにご当地お菓子があるときは多分このひとのおかげ。本企画によりTRPGに復帰してそろそろ1年、今回はレヴナントのスカウト(レンジャー)、セイヴで参加。
 ラスカンを拠点とするワーラット(ネズミ人間)のギャング団、死鼠団の一員であったがわけあって脱走したというテーマ、デッドラット・ディザーター(死鼠団の脱走者)を選択。もともとはハーフエルフであったが、ここに記したような事件を経てレヴナント(『影の勇者』所収)として復活、復讐に燃える。撃破役としての撃たれ弱さをレヴナントの戦闘継続能力でカバーする。
 アンデッドなのに、参加メンバーの中では一番常識人があり、パーティのまとめ役となっている。

セイヴのキャラシート


英雄が目覚めるとき:ヘプタ
 彼はつまり、ごろつきというやつだった。
 血筋は野良犬なみ、話はホラばかり。
 場末の酒場に入り浸り、見え見えの嘘で武勇伝を語る。酔客どもが彼を叩き出さないのは、彼の“武勇伝”がそこそこ笑えるからで、ウケているうちは自慢話も芸のうちなのである。
 その彼のホラ話のレパートリーが最近、増えた。

「あんた達、オレのことを覚えておくとイイッすよ。オレはいずれ世界を救うくらいはする男ッすからね!」
「なんでえ、ヘプタ。ずいぶんとデカいこと吹くじゃねえか」
「知ってンでしょ、オレがヤるときはヤる男だってことは」
「“ヤるときはヤる”、ねえ。そんなら溜まってるツケ、とっとと払ってもらいたいもんだけど!」
「まぁまぁ、ちょッと待つッすよ。今度耳を揃えて払ってやるンすから。なんたってオレは……。オットいけねえ、こいつツぁ内緒」
「なんだ? 新しい儲け話か? ボロいカモでも見つけたか?」

 嘲笑、冷罵もどこ吹く風。
 安酒場から飛び出ると、ヘプタは路地を急ぐ。大股で、肩で風を切って。
 向かう先はネヴァーウィンターの旧貴族街、ブラックレイク地区。ここに住んでいた貴族達は、有事の備えにと家々を格別頑丈に作っていた。そのおかげでこの地区の建物は先の災害にも耐え抜き、焼け残ったのである。中に住んでいた人間はその限りでなかったが、その責を大工たちに問うのは間違いだろう。
 ともあれ、災害直後からこの地区は川を挟んだ守護卿区と並び、避難民たちの拠点となっていた。一方でこの地区は、真っ先にダガルト・ネヴァレンバー卿とミンターン島傭兵による“ニュー・ネヴァーウィンター”が制圧した守護卿区から逃れた、抵抗勢力や犯罪組織の潜伏場所ともなっており、今なお彼らにとっては頭の痛い場所でもあった。広場の詩人がネヴァレンバーを“自称守護卿”と歌ってもミンターン傭兵に引っ張られていくということもない。
 ヘプタはやがて、一つの酒場の前に立ち止まる。
 奇妙な店だった。表まで聞こえてくる賑わいの声がなければ、酒場とはわからなかったかも知れない。道路に面したショーウィンドーにはマネキンが並び、飾り壁のあちこちには鏡が飾られている。並んでいるマネキンがまとっているのは色褪せた、30年前の流行服。災害前の栄華の忘れ形見である。
 店の名は『千の顔の家』。貴族相手の服飾店跡で、往時の装飾を内装として賑わう、ブラックレイク地区一番の酒場である。
 ヘプタはよりいっそう肩をそびやかし、この酒場の裏口に向かう。路地裏ですれ違った店員は苦笑して道を空ける。「キムリルが待ってるぞ」。
 と、ヘプタは真剣な顔で口の前に指を立てる。
「しっ、しーっ! 駄目ッす、秘密ッす。ハーパーは秘密組織なンすから、正体がわかるようなこと言っちゃ駄目なンす!」
わめくヘプタに店員≒ハーパーの構成員は大きくタメ息をついた。

DM:というわけでヘプタは『千の顔の家』地下にあるハーパーのアジトに、リーダーのキムリルから呼ばれるんですが、彼女は何でヘプタをハーパーに入れようと思ったのか(笑)
堀内→ヘプタ:こんなだから、まったく仕事をあてがわれない(笑)
DM:とはいえ、このままにしておくわけにもいかないので直々に指導があるわけです。「今日はあなたにハーパーの規範について教えます」
ヘプタ:「ほんとッすか! 新しいなー!」
DM/キムリル:「何回教えたと思っているんですか! ……ええと、ハーパーの規範、まず1つめ。“悪と戦うこと”」
ヘプタ:「悪と戦うこと」
DM/キムリル:「恐怖と専制から人々を守ること」「守ること」
ヘプタ:「守ること」
DM/キムリル:「平和を得るために法と秩序を支持すること」
ヘプタ:「シジすること」
DM/キムリル:「富と権力の集中を無くすこと」
ヘプタ:「トミとケンリョクのシューチューを……なんか難しいッすね。つまり金をガメてるやつをぶっ殺すってことで」
DM/キムリル:「簡単に殺しちゃいけません!」で、ハーパーの証、竪琴を象ったブローチを見せて言います。「一人前になったら、これを渡せるんですが」

0b943f66aee9229253bde61a144b889b70614850

ヘプタ:「そろそろじゃないですかね」
DM:キムリルは大きく溜息をついて「遠いですねえ」と。「とはいえ、実践の場に出ないと永遠にこのままかも知れない。私は決断しました。こんどの夜に行なう偵察にあなたを連れていきます」
ヘプタ:「やたっ!」
DM/キムリル:「ですがっ!絶対にっ! 何もしちゃ駄目ですよ!!!」
ヘプタ:「あれー!」
DM/キムリル:「何もしちゃ駄目ですからねっ!」
ヘプタ:「わ、わかったッす、オレは“何もしないこと”をするッす!」
DM/キムリル:「この任務は、私たちハーパーと“アラゴンダーの息子たち”と共同でダガルト・ネヴァレンバーに立ち向かうためのものです。ニュー・ネヴァーウィンターと称して私兵によるネヴァーウィンター支配を企むあの男、ネヴァレンバーは明らかな専制君主、この街を良くない方向に導いているは明らかです……」

 “アラゴンダーの息子達”は“大災厄”の後もこの街を捨て去るのを拒んだ者達である。ネヴァーウィンターを最後に統治していた者の名を戴いて、この地の民による自治を主張しているが、ネヴァレンバー卿の勢力とは絶望的なまでの戦力差があった。
 ハーパーはその信念に従い“アラゴンダーの息子達”に協力、キムリルがこの抵抗運動を率いていた。いずれこの運動が実を結んだ暁には、他の圧政に苦しむ民のいるところへ去って行く。それがハーパーの常であった。

DM:さて、キムリルと仲間、そして“アラゴンダーの息子たち”の若い血気盛んなメンバーは共に守護卿区に向かっています。月夜で道も明るい。
ヘプタ:「へへへ、おれの“クイーン”が火を吹くぜ」とクロスボウを構えて周囲を警戒するッす。
DM/構成員:「だからお前は武器を持ってくるなって!」
宮坂/外野:首根っこつかまれてそうだ(笑)
DM/メンバー:「よし、この先の屋敷だ。行ってくる。お前はここで見ていろ」
ヘプタ:「了解っす。でも危なくなったら手伝いに……」
DM:と、その時。ひゅっと矢音が!
全員:!

 一つ矢音が聞こえたあとは続けざまだった。
 アルフレッドは子供がそろそろ生まれると言っていた。ベルナドットは家で彼女がサラダを作って待っていると言い、チャーリーはこの作戦のあとに結婚式を挙げるハズだった。
 思えば今晩ここに来るときにデヴィッドから写真を見せて貰ってたのが間違い立ったのかも知れない。とにかく、目の前で仲間達が次々と倒れていく。
 待ち受けていたミンターンの傭兵、つまりニュー・ネヴァーウィンターの兵士が倒れたレジスタンスに襲いかかる。

DM/傭兵:「へっ、まったく情報通りだったな」
ヘプタ:隣で倒れているマイケルさんを抱き上げて尋ねるッす「マイケルさん! どういうことッすか? あいつら、情報通りって、どういうことッすか!?」
堀江/傭兵:「お、まだあんなところにチンピラがいるぜ」(笑)
ヘプタ:逃げようとしますが腰が抜けて、何かとは言いませんが『じょじょー』と足下から音がします(笑)「死にたくない、死にたくない!」で、ここで信仰に目覚める。
DM:こんなところでかよ!
ヘプタ:「死にたくない、死にたくない! 神様、オレはじめて祈るッす。助けてください神様!」
サブマス/外野:これまでただのチンピラだったヘプタが、心の底から神に祈ったその時!
ヘプタ:カッコいいからと持っていた、コアロンのしるしが描かれたサイフがぴかーと光り始めます(笑)
堀江/外野:これで神様でてきちゃっていいのかよ(笑)

 ゴミ箱に頭をつっこんで、ヘプタは祈った、叫んだ、助けを呼んだ。「神様助けて!」と。その時、信仰が神性へと伝導され、新たな力が彼の体を運んだ。
 コアロン・ラレシアンを信ずる者がなし得る秘蹟。“揃って一跳び/ステップ・トゥギャザー”の技である。ヘプタは傷ついたマイケルと共に瞬間移動、路地を見下ろす屋根の上へと出現した。

ヘプタ:そして、マイケルさんの傷口にサイフを押しつけて祈るッす。“癒しの言葉/ヒーリング・ワード”「ふさがれふさがれふさがれ!」
DM:そりゃ、治る……。
ヘプタ:「ふー、意外と何とかなるもンだ」(全員爆笑)
宮坂/外野:コアロンすげーな(笑)
DM:さて、助かったと月明かりに照らされた戦場を見下ろすと、ハーパーのリーダ-、あのキムリルがヘプタの仲間達をレイピアで突き殺しています!まるで、ミンターン傭兵団にキムリルが協力しているよう。
ヘプタ:「え?」と目をこすって良く見る。
DM:「皆殺しにしろ、一人も生かして帰すな、このことは知られるわけにはいかない!」と。
宮坂/外野:(嬉しそうに)この街もダメな奴しかいませんね! 似た境遇ですよ。
DM:そして、彼女がぽつりと「これで、私も……」と呟いたとき、背後からミンターン傭兵の一人に彼女も切捨てられます。
全員:!
DM:兵士達は死体を残して立ち去っていきます。キムリルもまたかつての仲間の死体とともに路上に横たわっている。
ヘプタ:「も、もうわけがわからないッす。何が正しくて何が正義なのか、わからないッす」(泣)

 惨劇など知らぬように路上に静寂が訪れる。あとに残っているのはハーパーと“アラゴンダーの息子たち”の死体だけ。
 血の海の中に呆然と足を踏み入れるヘプタ。事切れたキムリルに近づく、声をかける。
 答えがあるはずもない。じっくりと骸の顔を確かめるが間違いなくあのキムリル、ハーパーの規範をへプタに説いたキムリルである。その襟元には竪琴の紋章、月明かりに輝くハーパーのピン。
 ヘプタはそれを手に取った。顔には決意があった。

ヘプタ:「あんたが一体何者だったか、どういうつもりだったかはわからないけど、けど、あの時聞いたハーパーの信念をオレは忘れないッす」

 ハーパーのピンには、守護者たる神々の力がある。ふさわしくない者にはその力を引き出すことはできない。そしてこの時、ヘプタの手の中でピンは確かに燦めき、リーラの恩寵、マイリーキーの忍耐、タイモーラの幸運を彼に与えた。
 確かに彼はまだ真のハーパーにはほど遠い。しかし、真実を知り、この任務を果たしうるのも彼のみなのである。

 なお、この事件の後ハーパーと“アラゴンダーの息子たち”は決別、抵抗運動は瓦解した。影響力を失った彼らは内紛を続け迷走し、市民は抵抗運動に対する信頼を失っていったのである。

71102ac8d551d93038d5aaaab0718829a9c37d8f


このシーンのうらがわ
 参加プレイヤー、堀内裕之
 出目担当。ドラマチックな出目でこれまでも配信中かずかずの迷シーンを繰り広げてきた古強者。今シーズンはキャラメイクから飛ばしている。
 クラスは『ヒーローズ・オヴ・フォールンランズ』所収のウォー・プリースト。このクラス自体は近接戦闘クラスなのだが、『ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング』にて導入された、エルフの祖神にして魔術の神コアロン・ラレシアンの領域を選択することにより、遠近両方に対応したキャラクターとなった。
 テーマはハーパー・エージェント(ハーパーの密偵)。ただし、プレイで示されたように現時点では組織の力を利用するどころか、重要参考人として追われる立場とも言える。
 なお、ハーパーのピンはヘソのピアスにしたと言うことである。
 ……ねえ、立場わかってる? ほんとーに?

ヘプタのキャラシート


出会い:ネヴァーウィンターの市門:ジェイド、セイヴ、ヘプタ
 ネヴァーウィンターの南門。陸路の高道から北上してくる行商が門内の広場に市を作り、賑わいは港に劣らない。
 馬車から荷を下ろす者がいる。露店に金物を並べる者がいる。粉をこね、鍋の油で揚げる者がいる。串に刺した肉を火鉢で炙り、香料を振る者がいる。
 市の中央には晒し台があって、罪人が手と首に枷を嵌められ、そこにつながれている。子どもたちがゴミを投げつけて笑っていた。
 あなたは門をくぐり、この喧噪の中に踏み込んだ。
 数日ぶりに見る人混みに一瞬、気圧されそうになる。ウォーターディープの市場に比べれば人は少ないのだが、これまでずっと荒野を旅してきた身には十分だ。
 肉を焼く香ばしい香りが、あなたの腹を鳴らす。唾が湧くが、あなたは路銀の心許なさを知っている。手早く串を返すおかみも、フードを下ろしたあなたの姿をいぶかしそうに見た後は何も言わずにいる。
 諦めようと振り返ったとき、もめ事の気配があった。

DM:セイヴとヘプタはそれぞれの事件のあと、数週間くらいたっていてこの街に流れ着いていると言うことにしてください。
ヘプタ:ヘプタは浮浪者みたいなことをしながら生き延びていたんですが、地元のごろつきに絡まれて殺されそうになったところをセイヴに助けられたと。
セイヴ:うん、ありそうありそう(笑)この街のことはよくわからないから、地元のヘプタに教えてもらおう。
ヘプタ:「任せてくださいアニキ! なんでも教えるッすよ!!」
DM:生来のチンピラってこーゆーことを言うのだろうか(笑)では、二人は町の廃墟に一緒に住んでいるということで。ある日、守護卿地区に買い物に出かけた帰り、買い物袋をぶら下げて……。
サブマス:なんかほのぼのしてるな!
ヘプタ:いちおう、サングラスで変装してますよ、ヘプタは!
DM:ですが、街の衛兵達がヘプタとセイヴを見つけて呼び止めます。「おい、おまえら!」数は四人ほど。普段は隠れたりしてやり過ごせてたんですが、今日は買い物で浮かれてたのか。つかまりました。「なんだ、怪しい奴だな」
セイヴ:「俺のどこが怪しいって言うんだよ!」
全員:怪しいよ!

 顔は白塗りで指先は鉤爪の男と、世紀末ヒャッハー系雑魚がサングラスして連れ立って歩いてたら、それはまあ、職務質問するだろう。

ヘプタ:「お、俺たち全然怪しくないッす!善良な市民ッす」といってヘソを隠します(笑)
DM/衛兵:「ほう? 善良な市民だっていうなら、俺たちにアイサツがあるはずだろ?」そして、武器の柄に手をかけつつ囲んでくる。
セイヴ:「アイサツってのは……、アレか? ヘプタ」
ヘプタ:「そ、そうっす、ぴかぴかしたアレッす。そしてオレは持ち合わせがないッす」(笑)
堀江/外野:「ひー、巻き添えは勘弁だ!」とあたりの行商が店をたたみ始める(笑)
サブマス/外野:「母ちゃん、おじちゃんたちなにしてんの?」「しっ、目を合わせるんじゃありません!」
DM:こんな状況でジェイドは二人と会うのです(笑)

 あなたは囲まれている二人の姿を確かめる。
 一人は、革鎧に白塗りの顔、黒い鉤爪を指先から伸ばした偉丈夫。
 もう一人は、いかにもチンピラ然としたやせっぽちで、大釘を打った革鎧もこけおどしとしか見えず、白塗りの偉丈夫にすがりついている。

サブマス:……これさ、決断を下すためのアンケートする必要あるの?
堀江/肉焼いてるおばちゃん:「だめだよ、アンタ。あんなのに関わっちゃ!」(全員笑)
セイヴ:まあ、柄の悪さだとどっちもどっちだけど、こっちの方が人数少ないし!
堀江/肉焼いてるおばちゃん:「あれはミンターンの傭兵団さ、この辺じゃ幅を利かせてるからね、睨まれたら面倒だよ」


このシーンのうらがわ
 このタイミングで視聴者にアンケート。
 ヘプタとセイヴという仲間とどのように出会うのか、新天地ネヴァーウィンターでどのように振舞ってゆくのか、ミンターンの傭兵つまりはニュー・ネヴァーウィンターとどのように関わって行くかを定める選択である。選択肢は三つ。

1):「兵士は横暴だ。あの二人に言い分がある。力ずくで助ける」
2):「無駄な争いは必要ない。この場の騒ぎを収めようと、代わりに金を出す」
3):「目立たないよう、無視する」

 視聴者の選択は……。



 助言に礼を言うと、あなたは喧噪のほうへ歩いていく。
 鎖帷子の揺れる音、吊した剣の鞘が膝に当たる音で、兵士達は振り向く。
 広場の隅にいた、傷病兵の物乞いがケタケタと笑った。
「へへへ、こいつぁおもしろくなって来たぜ!」
 あなたは、師匠サビーネの言葉を思い出していた。
ジェイド、おまえは守る相手を見つけなければならない。仲間を見つけなければならない
 あなたが身につけた剣の技は、騎士の剣。他者を守るための剣である。
 それに、こう思ったのだ。
 ――今ここでこの街のやり方に屈してしまったなら、受け入れてしまったなら。
 ――この先、身を立てることなどできようはずもない。
 あなたは衛兵の人垣の中に割り込んでいく。闖入者に立ち向かおうとした衛兵はあなたの威風に知らず怯む。
「な、なんだこのガキ!」
「ツラを見せやがれ!!」
 脅えをごまかすように、彼らはあなたが下ろしていたフードをはねあげる。あなたの顔が白昼にさらされ、どよめきが起こる。
 囲まれていた男たちのうち、死人のように青白い顔の偉丈夫が賛嘆を込めて口笛を吹く。
「あたしゃ、あっちの味方に決めたよ!」先ほどの女主人の声だ。「いい男だからね、きっとこっちが正しいよ!」
「ふざけやがって!」兵の一人が拳を振り上げようとしたが、古参兵がそれを止める。「よせ、ヤツは使い手だ」

DM:「“防衛のオーラ/ディフェンダー・オーラ”がわからんか! 怪我をするぞ」
ヘプタ:メタな警告だ(笑)
DM:「これは将軍に報告せねばな……」と呟いて、衛兵たちは引き下がります。
セイヴ:こうして、ジェイドは俺たちと出会うわけだな。
ヘプタ:「助かったッす! お礼にこの街を案内するッすよ、何でも聴いてください!」
セイヴ:「これから、俺たちは飯にするんだが、来るかお前も?」

 もとよりこの街に当てがあるわけではない。それにこの凸凹の二人連れにも興味はある。さらにいうなら、こちらの財布もからっけつなのだった。
 あなたは二人の後をついて行くことにした。
 こうしてあなたは運命の街にたどり着き、最初の仲間を得たのである。


ジェイドの決断まとめ
初回:
 問い:成人の誓いはどの神に誓う?
 決断:“幸運の女王”タイモラに誓う。「身寄りのない自分が己の運命を切り開くのに必要」属性は善となる。

二回目
 問い:衛兵に絡まれているヘプタとセイヴ、あなたはどのように振舞う?
 決断:「兵士は横暴だ。あの二人に言い分がある。力ずくで助ける」