石のスープ
今号の執筆担当:太田伸幸
都知事選について何か書くの、どうしても躊躇してしまう。と言って、さんざん原発の事なんか書いているのに何も書かないというのもなんだし……。
正直、迷っている。
俺の周囲も二つに分かれている。もちろん「脱原発」を掲げる有力候補二人にだが。
ただ、一つ見落としがちなのは、どちらが勝っても、あるいは負けても、脱原発を目指す運動はそれからが正念場だということだ。
貧しい人たち、弱い人たちに寄り添い、市民運動と同伴してきた宇都宮さんは素晴らしい候補者だ。一方、脱原発に残りの人生を賭ける覚悟で立ち上がった細川さんは政治の世界に化学反応を引き起こす可能性を秘めている。
知事は自分を信任してくれた人間のためだけに働くわけではない。反対した人間も含め、与野党と折り合いをつけながら物事を進めてゆくわけで、首長が脱原発を言ってその通りになるのであれば、それは民主主義ではない。どちらが勝っても少数与党。だから、運動をする側にとっても、選挙後こそが大切なのだと思う。
細川勝手連の鎌田さん、広瀬さんたちは長く真摯に運動を支えてきた人たちだ。
自戒の念も込めて思うのだが、もし、今も二年前のように国会前をデモ隊が埋め尽くし、メディアが委縮することなく原発問題を発信し続ける状態が続いていたら、彼らの判断は違ったものになっていたのではないか、と。
権力者にとって今の脱原発市民運動はメディアも含めて残念ながら「抑え込み可能」な存在に留まっていると思う。だから、どんな手段を講じてでも、この都知事選で楔を打ち込むべきだ、と苦渋の決断をしたのではないか。
同時にそれが危険な賭けであることも知っているだろう。
小泉さんがぶっ壊したはずの自民党は昔の「保守」党ではないように思う。
沖縄の理解を得るために地元の人間と酒を交わして語り明かしたという野中幹事長の時代と、地元選出の国会議員を恫喝して屈服させる石破現幹事長の違いが象徴的だ。
政策も議会の運営も、反対派の意見も取り込みながら「融和」を図ったかつての保守の面影はない。
このような政権党の前で、「抑え込み可能」な反対派として留まっていていいのか? という考えと、だからこそ、原則とプロセスが大切で、そこを飛び越えた時の反動が恐ろしいのだ、という考えの間で揺れる……。正直わからない。
ただ、言えるのは、少なくともこの都知事選で「脱原発」の民意を示すことはできるという事。そして、その後がもっと大切だ、ということだ。
鉛筆でも転がして決めようか、とも思う。二択で。
* * * * *
【編集部より】
2012年3月、東日本大震災からちょうど1年、「石のスープ」のメンバーが中心となって『風化する光と影』(マイウェイ出版)を出版しました。その際、企画・編集発行人となってくれたのが太田さんでした。当時から「震災本は売れない」と出版社から言われる中で、発行までの責任を負ってくれたのは、本書の中でも触れている通りです。
何度かお伝えしましたが、この春、「風化する光と影」の続編が発行される事が正式に決まりました。本来は3月初旬に出版予定でしたが、渡部の病気があり若干発行が遅れますが、現在、鋭意制作中です。今回も、太田さんがプロデュースを担当してくれ、渋井、村上、渡部がこれまでの3年間の取材成果を発表します。また、今回は、太田さんほか十数人の記者達が参加してくれ、前作以上の厚みのある本になる予定です。
それぞれの記者達が、この三年間、何を見続けて来たのか。この本を通して、読者の皆さんに、改めて東日本大震災を見つめてもらえる本にしたいと思っています。
「2014年2月9日執行 東京都知事選挙」には、以下の16人が立候補しています。
(立候補届け出順)
ひめじけんじ(ひめじ・けんじ)/61歳
宇都宮健児(うつのみや・けんじ)/67歳
ドクター・中松(どくたあ・なかまつ)/85歳
田母神俊雄(たもがみ・としお)/65歳
鈴木達夫(すずき・たつお)/73歳
中川智晴(なかがわ・ともはる)/55歳
舛添要一(ますぞえ・よういち)/65歳
細川護熙(ほそかわ・もりひろ)/76歳
マック赤坂(まっく・あかさか)/65歳
家入一真(いえいり・かずま)/35歳
内藤久遠(ないとう・ひさお)/56歳
金子博(かねこ・ひろし)/84歳
五十嵐政一(いがらし・まさいち)/82歳
酒向英一(さこう・えいいち)/64歳
松山親憲(まつやま・ちかのり)/72歳
根上隆(ねがみ・たかし)/64歳
また、各候補者の公約などが掲載されている「選挙公報」は、以下のURLからダウンロードできます(PDFファイル)
http://www.h26tochijisen.metro.tokyo.jp/pdf/publication_election.pd
【関連記事】
渋井哲也(2014年2月5日号)
「悩める東京都知事選。誰に入れる? それとも……」
http://ch.nicovideo.jp/sdp/blomaga/ar452802
渡部真(2014年2月6日号)
「やっぱり『脱原発』だけじゃ選べない」
http://ch.nicovideo.jp/sdp/blomaga/ar452836
村上和巳(2014年2月8日号)
「帯に短し、たすきに長し」
http://ch.nicovideo.jp/sdp/blomaga/ar455951
渡部真(2014年2月9日号)
「各候補者は『警報』にどう対応したか」
http://ch.nicovideo.jp/sdp/blomaga/ar456001
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太田伸幸 おおた・のぶゆき
1957年、横浜生まれ。編集者。E-Lock PLANNING代表。フリーランサーズ・ユニオン「出版ネッツ」執行委員。「石のスープ」のメンバーが中心となって2012年3月に出版した『風化する光と影』(マイウェイ出版)の編集発行人を勤める。近著として『竜二漂泊1983〜この窓からぁ、なにも見えねえなあ』(谷岡雅樹著/三一書房)を企画・編集。阪神淡路大震災と東日本大震災には、ボランティアとして長く関わり続ける。
[Facebook] https://www.facebook.com/tanenobu.ohta
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