北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
■連載コラム(第16回)
『ラーメンの憂鬱』〜「職人」としての佇まい(山路力也)
『教養としてのラーメン』〜関西のご当地ラーメン(山本剛志)
□告知スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
「北島秀一さんに捧ぐ」
北島さんが逝って、あっという間に一年が経ってしまった。この「ラーマガ」では毎号北島さんの文章も掲載しているので、その活き活きとした文章を毎号読むに、亡くなってしまったのがどこかまだ信じられない自分もいて、それがもう一年も前のことだなんていうのもまた信じられなかったりする。
北島さんが腫瘍摘出手術を終えた後、北島さんにはまだまだもっとたくさんの文章を書き続けてもらいたいし、それを生きるモチベーションにして欲しい。その一心で、私はこの「ラーマガ」を立ち上げた。その当の本人がいなくなってしまった「ラーマガ」を、パワーダウンさせてしまってはいけない。北島さんはラーマガの中では生き続けるのだ。この一年はただそれだけの想いで駆け抜けてきた一年のような気がする。
とは言いつつも。私はラーメン評論家の端くれとして、北島さんに追いつき追い越せと思って、北島さんが唸るような文章を書いてやれと思って、物書きとしての矜持を持ちながら仕事をして来たけれど、死なれてしまってはもう読んでもらうことも唸らせることも出来ないわけで、それがただただ悔しく悶々としていた。しかし、一年を経たこれからは、北島さんがやりたくても出来なかったことや、天国で悔しがるような文章を書いてやろうと思っている。
先日、北島さんの親しい人達が数十名ほど集まって、北島さんのことを語る会が開かれた。弟さんも参加して下さったり、北島さんの学生時代のご友人もいらっしゃったり。久々にお会いする方たちもたくさんいて、旧交を温めることも出来た。ラーメンを愛し、ラーメンに愛され、そしてたくさんの人達にも愛された北島さんらしい素敵な会だった。北島さんは僕たちの中では「しうさん」だけれど、学生時代の北島さんは「きたさん」だったのね。何か新鮮。(山路力也)
----------------------------------------北島さんが亡くなって一年が経った。命日の9月1日や、新横浜で「北島さんの事を語る会」が行われた9月9日を中心に、SNSでは多くの人が北島さんの事を語っていた。自分の知っている話も、知らない話もある。自分が知っているのは北島さんの一部分に過ぎないかのかもしれない。そう思いながら、何も書けないでいた自分がいた。この一週間ほど、雨が降り続いていた。
ラーメンの食べ歩きを始めた16年前から、北島さんは常に自分の目標だった。パソコン通信「Nifty-serve」時代には、グルメフォーラムラーメン会議室でのレポに対して指摘してもらったし、「電脳麺記」にアップされた店を最優先で巡っていた。優しく、時に厳しく、そして茶目っ気ある事もしたりする。箱根に宿を取って、夜中まで強い酒を飲んで騒ぎ、翌日二日酔いのまま小田原の「ブッダガヤ」を食べに行ったことも忘れられないし、新横浜ラーメン博物館の「居残屋 雄蔵」で柚子サワーを飲みまくった事も鮮明に覚えてる。
「超らーめんナビ」で10年近く、同じ「達人」の肩書きで活動したのは誇りだったがプレッシャーでもあった。北島さんのような文章は書けないなぁ、と思っていたし、北島さんのコラムで知ったことも多い。打ち合わせの席で武内さんと話している事に冷静に突っこんでいた北島さんも、つい先日の事に思える。
「dancyu」の記事を書くことになった時は、北島さんはいつもより喜んでいた。文章力が評価されての登用だったと思う。そして掲載された文章は、やはり力が入っていたなぁと感じたものです。
「超らーめんナビ」の達人制度が終了して、日常的にラーメンを書く場所がなくなる事に不安を覚えて、この「ラーマガ」は始まった。そして、ラーマガは「北島さんに文章を書いてもらう」ことも大きな目的だった。だからこそ「ラーマガ」はメンバーを入れ替える事はなく、北島、山路、山本の共同責任編集という形態を続けさせてもらっている。
永六輔さんの言葉に「人は、命を終えて一度死に、誰にも語られなくなって二度目の死を迎える」というのがある。気になって確認したら、去年も同じことを書いていた。武内伸さんが亡くなった時にも同じ事を言った気がする。ラーメンを語り伝えてきた先達の事を語り続けて、武内さんも北島さんも生き続けている事を、ようやく見えた青空の下で実感したい。(山本剛志)
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は1954年創業の老舗、中華そば福寿の「ワンタンメン」を山路と山本の二人が食べて、語ります。