北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
□告知/スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
「作り手の想い」山路力也
この仕事を始めてすぐの頃、雑誌の取材を受けていた時に「山路さんの好きなラーメンは何ですか?」と聞かれました。おそらく今までに一番聞かれている質問であり、愚問であると思っているわけですが、その時に真剣に考えて出した答えが「作り手の顔が見えるラーメン」でした。作り手の顔が見えるラーメンを食べたい。それは今でも変わらない僕のポリシーだったりもします。
豚骨が好きとか味噌が好きとか、そういうことではなくて、どんな味であっても作り手の想いが込められたラーメンを愛しく思うのです。極論を言うならば、工場で作られたスープをアルバイトがマニュアルに忠実に作った美味しいラーメンよりも、店主が一生懸命考えて作ったけれど今ひとつ美味しくないラーメンの方が愛おしい。美味いか不味いかというよりも、好きか嫌いかという観点でラーメンと向き合いたいといつも思っています。
そもそも食べ物が美味しいとか不味いと感じるのは、食べる人のそれまでの経験値に因るところが非常に大きく、私が美味しいと思ったものでも他の人は不味いと感じるかもしれない、不確かな基準だったりします。しかしそのご主人が一生懸命作ったという事実は誰にも曲げられない。美味いか不味いかは分からないけれど、一生懸命お客さんのために作ったんだよ、ということを伝えられる人になりたいなといつも思っています。僕はラーメンを紹介したいのではなく、多分そのラーメンを作った人を紹介したいのかも知れません。
先日、福岡の老舗ラーメン店にお邪魔しました。二代目のご主人が「山路さん、うちの釜見た事あったっけ?」と言いながら、厨房の奥を案内して下さいました。直径1メートルはあろうかという大釜に、大量の豚骨。これを何十年も毎日も作り続けているわけです。出来るだけ出来立ての美味しいスープを飲んで欲しい、材料はけちらずにたっぷりと豚骨を入れた味を食べて欲しい。その思いで日々この重労働をしているのです。
ご主人に「美味いスープを取る秘訣みたいなものはあるんですか?火加減とか時間とかですか?」と聞きました。ご主人の答えは「気合いかなぁ。釜に向かって本気で『美味しくなぁれ」って言うんだよね。自分の体調が悪かったり、その言葉が伝わっていない時はスープが美味しくならないんだよ。不思議だよね」と。僕はこういうラーメンが、ラーメン屋さんが大好きなんです。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は今年4月、代々木公園にオープンした「らーめん已己巳己(いこみき)」の 「煮干し醤油ラーメン」を、山路と山本が食べて、語ります。
らーめん已己巳己@代々木公園