北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
■ラーメン活動月報(11月)
□告知/スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
『「ヌーハラ」という虚構の概念と、啜ると美味しくなる話』山本剛志
2016年11月のラーメン界で一番話題になった新語に「ヌーハラ」がある。麺を啜る音が、その習慣のない外国人にとっては失礼であるという、「ヌードルハラスメント」の略語である。「セクハラ」「パワハラ」同様の語呂の良さもあいまって、ネットニュースやワイドショーでしばしば紹介され、それに対するタレントの反応が更にニュースになるといった具合で展開された。
ワイドショーでは、「訪日外国人増加」や「おもてなし」の話として取り上げられていたが、この「ヌーハラ」なる言葉が、とある日本人ツイッターユーザーが10月にいきなり持ち出した概念である事は触れられていない。しかも「製麺業界の圧力で隠匿されてきた」なる陰謀論付きで。ラーメン業界を15年ほど見ている私からしたら、製麺業界が圧力をかけられるほど強く、隠匿できるように一枚岩で動いているという話は荒唐無稽でしかない。更にその方は「豚骨ラーメンがイスラム教徒を差別している」など、珍妙な主張を続けていたらしい。当人はアカウントを削除した為、単なる「釣り」かどうかは分からないが、根拠のない空論と言うしかない。
ところが、「ヌーハラ」なる言葉は一人歩きしてしまった。ネットニュース「GetNaviweb」が『“ヌーハラ”ってどういう意味? 日本特有の新たな「ハラスメント」誕生が物議』という記事を掲載し、それを毎日新聞サイトが紹介、そして、フジテレビ系の「ユアタイム」「とくダネ!」が取り上げた。その際には、日本人が勝手に考えた概念という点は抜け落ちていて、番組では「外国人からクレームでもあったのでしょうか?」という補足をしてしまい、それを元にした出演者の反応が、スポーツ新聞で取り上げられるに至った。「苦痛に思っている人がいる」という紹介は、明らかな「デマ」である。
このようなデマの発生手順は、SNSが情報流通の主役になった2010年代の特徴である。「ネットの反応」などを転載していく中で、前提が無視されてデマになってしまう。嘘ニュースサイトのデマが米大統領選の結果を左右してしまうなど、個人で発信できるSNSと、「真実よりも面白ければいい」という「ポストトゥルース社会」との相性の良さは、今後批判的に検証されなければいけない。
閑話休題。海外では一般的ではない「麺を啜る文化」を、広める動きもある。新横浜ラーメン博物館は2013年にYouTubeで「【ラー博TV】ラーメンはすすると格段に美味しくなる。」という動画を公開している。12分ほどの英語コンテンツだが、さほど難しくない英語で、テロップや日本人の発言はそのまま理解できるので見てほしい。麺を啜る事で、ラーメンの香りが鼻でも楽しめるようになる事を、医学的な観点からも説明している。私も疲れている時など、つい麺を啜らずに噛んでいる事があるが、我に返って麺を啜ると、やはり違う食感が感じられる。啜るとむせてしまう激辛ラーメン以外は、啜る効果を自分の舌と鼻でその味を楽しんでほしい。
今回のコラムについては「IT media ビジネスオンライン」の『スピン経済の歩き方:「ヌーハラ報道」に、目くじらを立てる理由』」に大きな知見を得ました。著者の窪田順生氏に感謝します。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は今年2月にオープンした「RAMEN 赤青 MURASAKI」の「鶏醤油らぁ麺」を山路と山本が食べて、語ります。
「鶏醤油らぁ麺」780円
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