追加緩和が期待される背景には、最近発表される日本の経済指標下振れに対する警戒感の強まりがあります。7月、8月の鉱工業生産は予想に反してマイナスとなり、機会受注の数字では民需が3か月連続して大幅に減少でした。
そんな中で、先週発表された10月の月例経済報告では、生産を「弱含み」として3か月ぶりに下方修正。また、本日発表された9月の貿易統計では、貿易収 支は黒字予想に反して赤字、特に輸出の伸びの鈍化が目につきました。輸出の鈍化は、中国への輸出減少が影響していると見られます。
経済指標悪化の一方で、政府、日銀が政策目標としている「デフレからの脱却」「物価目標2%達成」が難しくなるという可能性も追加緩和期待を高めています。
8月のコア・インフレ率(生鮮食品を除くCPI)は前月比マイナス0.1%でしたし、生鮮食品とエネルギーを除いたコアインフレ率も前年比1.1%と2%に半分強とは言え、来年前半頃の達成は難しそうです。
物価がマイナス圏から持ち直してきた裏には円安要因がありました。昨年10月には110円以下だったドル円相場は、その後円安が進行し昨年暮れには 120円水準に達していました。現在のドル円相場が続けば、前年比の物価水準に今後、円安の影響が薄くなっていくでしょう。物価目標の達成のためにも有効 な政策を実施しなければならないはずです。
また、今日は安倍首相が最近掲げたGDP600兆円達成のために、従来の「3本の矢」(大胆な金融政策、財政出動、成長戦略)を強化していくというような発言があったと伝えられたことも市場の追加緩和期待を高めて株高、円安に動きました。
金融政策にできることには限界があるのは確かですが、今後も、政府の新たな政策とのからみでも金融政策がさらに注目されそうです。
昨年は10月31日(金)の日銀政策決定会合でサプライズ緩和があり市場は大きく動きました。今年は10月30日(金)が政策決定会合。黒田総裁は、こ れまで「予想外で市場にインパクトを与える」効果がある内容とタイミングで実施してきました。そのやり方からすれば、市場が期待する中での政策決定はない だろうというのが市場の多くの見方ではあります。
ただ、今回の実施は見送りだとしても、いずれタイミングを選んで追加緩和を実施するだろうという期待は残るでしょうし、物価目標時期が後ずれになれば、現在の異次元緩和は長期化するだろうという見方が強まるのではないかと思います。
さて、10月に入って、注目された米国の雇用者数が予想を大きく下回ったことや、幾つかの経済指標の停滞から、米国の金利正常化実施の時期が後ずれするという見方が多くなり、米ドルが下げました。特に金利正常化予想で売られていた新興国通貨に買い戻しが入りました。
日本円は、追加緩和期待や株式相場の反発によるリスクオン(リスク選考)もあり円高方向への動きは限られましたが、先週発表された米国の経済指標が予想 より悪かったことを受けた金利低下(米国債10年物が一時1.97%)に伴い、一時118円台前半まで売られる場面があり、ドル円相場が円高方向への戻し に入ったとの見方も強まりました。
しかし、上記したように市場に灯り続ける日銀追加緩和期待や昨日発表された米国の住宅関連指標が良かったこともあって直近120円台をタッチする場面もありました。
一方、10月月初に大きく買い戻された新興国通貨は、ここへ来て上げ幅を縮小しました。
ブラジルレアルについては、国債の格下げも響いたでしょう。
ユーロの対ドル相場も、一時は1.15米ドルまで戻しましたが、欧州中銀の追加金融緩和期待もあり、1.13ドル台まで戻し、今週は小動きで推移しています。
米国の金利正常化時期は、後にずれるという予想が今のところ多数派と言われていますが、引き続き年内の実施を予想する向きもあります。
今年3月まで上昇を続けてきた主要通貨に対するドル相場は、その後調整時期が続いて方向を模索中と見ています。今後の経済指標や世界経済の状況次第でもありましょう。
引き続き米国をはじめとして、日本、欧州、中国の金融政策当局の出方に注目していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
*10月21日15時執筆
本号の情報は、主に10月20日の東京市場終値水準を引用しています。
なお、記載内容および筆者見解は参考情報として記しています。
式町 みどり拝
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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