前回もお伝えしましたが、職業柄、海外の金融機関(ヘッジファンドやプライベートバンク等)のオフィスへの視察・訪問には出かける機会がございます。
そこで前回の記事では、海外金融機関の富裕層向けサービスをご理解頂くことで、良い金融機関を選ぶ参考にして頂こうと、出張や視察の機会に学んできた各スイス系金融機関の顧客アプローチについてお伝えしました。
今回の記事では、以前スイスのチューリッヒのUBS本社を訪問し、UBS、クレディスイス、ジュリアスベアを始めプライベートバンクに携わるバンカー、マネジメント、アセットマネージャーなどから話を伺う機会がありましたので、そのまとめをお届けしたいと思います。
○UBSについて
UBSはスイスに本拠を置く世界有数規模のユニバーサルバンクであり、外資系金融機関として国内でも有名です。
(ユニバーサルバンクは商業銀行業務・投資銀行業務・証券業務のほか、リース・ファクタリングなど金融業務が包括的に可能である銀行の事を指します。)
元々は1862年創立のスイス・ユニオン銀行と、1872年創立のスイス銀行コーポレーションという二つのスイス名門金融機関が1998年に合併し、社 名をUBS AGとして設立されました。そして1990年代から次々にM&Aを行い、世界トップクラスの投資銀行となります。
以下に、UBSの本社を訪問した際に見聞したこと等をまとめます。
○UBSの特性(1)顧客の属性毎に専任の担当者を配置
まず、UBS はスイス内にアントレプレナー(経営者)やエグゼクティブ(会社幹部)専用のオフィスを配置しています。そして、アントレプレナーやエグゼクティブの顧客に対しては専任の担当者を設けています。
私自身の野村證券での経験からも思うのですが、1人の金融機関の担当者が全ての方に満足をして頂くことは大変難しいことです。それは、プライベートバン カーやファイナンシャルアドバイザーなど金融機関の担当者には、担当する対象先毎にどうしても得意不得意ができてしまうからです。
例えば、私自身の場合、企業オーナーなど経営者の方を担当することが得意でした。しかし逆に、リタイアメント層や主婦の方々の担当はあまり得意ではあり ませんでした。しかし当然、人によっては、リタイアメント層や主婦の方を担当する方が得意な人もいます。また、弁護士や会計士の方などを担当することが得 意という人もいます。
これは、担当する顧客の属性毎に、求められる知識や人間性、また顧客自身の課題も異なるからでしょう。
その為、会社として多くの顧客が満足するサービスを提供するには、このUBSの経営者専門のチームのように、顧客の属性毎に適切に担当者達をグループ分けしておくことは理に適っており、個々の強みを活かせる可能性が高いと思われます。
ちなみにですが、このように、顧客の属性ごとに別々のチームで対応する手法は、UBSとJPモルガンが非常に優れていると言われています。
○UBSの特性(2)バランスシートにもとづいたコンサルティング体制
UBSの顧客向けコンサルティングのプロセスを要約すると以下のようになります。
1.クライアントのリスクの許容度を把握する
2.顧客の求めるものやゴールなどを、資産ポートフォリオに基づき把握する
3.現在の資産のリスクの度合い等をレポートする
UBSはこのように、顧客のニーズやゴールに合わせたフィードバックを行うことが特徴的であり、その為のレポーティングシステムも充実しています。
また、顧客への現状分析や提案に際しては、通常は法人向けに使う「貸借対照表」や「損益計算書」を個人向けにカスタマイズして使用し、通常のアプローチでは、現状のフローとストックのバランスを顧客とともに把握していきます。
そして作成したバランスシート(貸借対照表)に基づき、課題を資産カテゴリーごとに整理します。その上で、提案に進むというプロセスを採用しています。
○UBSの特性(3)専門家チームによる顧客フォロー体制
またUBSの顧客アプローチの特徴として、担当者の個人的な能力だけに頼らず、チームとして顧客に高い価値提供をする事を重視していることも挙げられます。
顧客には専任の担当者(Relationship manager)がつきますが、その裏には担当者をフォローする上司(Senior management representative)が控えており、各々のプロダクトのスペシャリスト(Product specialist)のサポートも得られます。
ちなみに、UBSの本社にはワインコンサルタントやアートマネジメントの専門家なども複数名在籍しています。他にもフィランソロフィー(慈善事業)の専門家も2~3名は常駐しています。
また事業承継など、様々な分野の専門知識が必要な案件については、弁護士や税理士などの専門家達のチームビルディングにより一層の力を注いでいるようです。
○UBSの特性(4)基本に忠実に聴く力と顧客関係を重視
以前のUBS本社訪問時には、多くのプロフェッショナル達からインタビューを行うことができました。特に印象深かったのは、顧客担当者1人1人から顧客との関係強化と(前編でもお伝えした)聴く力を重視する姿勢が感じられたことです。
例えば、UBSスイス本社にて財団やファミリーオフィス担当チームのヘッドをされている女性の話ですが、彼女も「Listening=聴く力」が最も重要と繰り返していました。その結果として顧客満足度の向上に繋がるし、チャンスがやってくると考えているそうです。
ちなみに彼女が担当するような財団やファミリーオフィスとなるとその資産も大規模で、一番大きなクライアントは運用資産額が1000億円を超えるそうです。また、平均でも顧客辺り200億?300億円の運用資産額があると
のことです。
話を聞いていると、顧客の規模的にも、機関投資家向けのアプローチ方法に似ているような印象です。
顧客のコンタクトを増やし、毎回指名をもらえるように関係強化には相当力を入れているとのことでした。
また、UBSだけでなくクレディスイスから参加していた同社幹部とプライベートバンカーにも話を伺えたのですが、2人ともタックスや承継といったキー ワードを連発していました。ジュリアスベア(大手プライベートバンク)も同じだったのですが、スイス系のプライベートバンクは顧客との長期の関係性に重点 を置いているため、タックスや承継に力を入れていると考えられます。
余談ですが、UBSは米国内でのビジネスにおいては、ブローカレッジ(金融商品の売買)中心のモデル、スイスではプライベートバンク(富裕層向けのコンサルティングによるフィーモデル)中心と、各々モデルが異なる体制を取っています。
そして両者のデータを見比べると面白い傾向があり、結果的に、プライベートバンクモデルの方が収益性高く、預かり資産に対するチャージできている平均手数料は、ブローカレッジの手数料が0.81%、プライベートバンクの手数料が1.03%となっているとのです。
このような事実も、UBSが顧客との関係強化や顧客アプローチ内でのリスニングに力を入れている理由にあるのかもしれません。
以上、UBSのスイス本社にて見聞きすることが出来たUBSの顧客アプローチなどについてまとめをお伝えしました。
今回取り上げた一つ一つの項目はどれも「当たり前」「基本」に属すことかも知れません。しかしその基本を国内金融機関に比較して遥かに高いレベルで実践しているという印象です。
今後の金融機関や担当者の選択に役立てて頂ければ幸いです。
冨田和成
株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO
冨田和成プロフィール
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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