ウクライナへの軍事進攻勃発から3か月余りが経過。紛争の事態打開に向けトルコ大統領の懸命の仲介交渉案に光明を求めようという声も一部に出始めたが、日本では混沌としたウクライナ情勢の報道に一種の慣れが感じられる。
慣れと言えば、原油高、物価高騰に円安報道、こうした状況にも慣れが生じ、株安に慣れてきた投資家が株上げの仕掛けでも始めたのか、過去調整トレンドを続けてきた様々な銘柄が動き始めたとの印象も持てる。
新型コロナ感染も3年目に突入し感染のピークを経て、マスク生活も含めデータ発表にも慣れが生じているように感じられる。
ようやく明るさを取り戻しつつある株式相場。日経平均は2万8000円を目前にするまで戻り、三角保合い局面を脱して再び3万円台乗せの世界に向かおうというのか。金利の上昇局面が続く米国においては株高が終焉したような動きではあるが、日本株は相変わらずの低金利政策の下で復活の芽が出始めたようだ。
そうした株高に拍車をかけるのが企業による自己株買いの積極化だろう。
株主総会が意識される3月期決算の発表後の5月16日あたりから自己株買いが活発になり、市場に出ている投資家の売りが徐々に吸い取られているのではないだろうか。
例えば日本郵政(6178)による7.6%もの来年3月末までの上限2.78億株、2000億円もの自己株買いが発表された5月13日を境にして株価の強展開が目につく。
このほか1.82%の自己株買いを発表した北川鉄工所(6317)や11.6%、575万株もの自己株買いを来年3月10日まで実施するとしたマクセル(6810)など下値模索を続けてきた銘柄にもようやく反転上昇の兆しが見えてきた。同社の場合は来年3月29日に買い付けた自己株の全株を消却するともしている。
自己株買いとは企業が発行した株式を一定期間内に一定の株数を一定額で買い取る行為。自己株買いした株は金庫株として保有するか消却されることになるが、このところはワコール(3591)、上組(9364)、光電工(6849)、消却の発表も相次いでいる。
時価総額の規模は小さいがキャッシュリッチな企業であるテノックス(1905)においても2.9%、20万株を1.7億円分来年2月28日まで買い付けると発表。また同時に既存で保有する15万株と今回買い付ける上限20万分を3月24日に消却すると発表。発表後の株価は徐々に上値を追い始めている。
株式消却とは文字通り株式を発行した企業が市場に出回っている自社の株式を自ら買取り消滅させる(帳簿上の存在そのものを消し去る)ことをいう。
バランスシート上は株式消却は自己資本の減少を招き、自己資本比率の低下を表すが、上場企業にとっては株価の低迷を打破する有効策となりえる。
このため株価の低迷を眺めてきた株主に朗報として捉えることができる。
自己株買いは既存株主や新たな投資家にとっては好材料と受け取られるので株価が低迷している場合は株価の底打ちにつながりやすい。
自己株買いより増配を優先すべきだとの意見もあるが、既存株主からは比較的長期間の自己株買い実施が歓迎されるものと思われる。施策としては増配による資金負担増も自己株買い実施による保有現預金の減少も同じような効果をもたらすものと考えられる。企業によっては減益見通しを発表する一方で同時に自己株買いを発表するという事例もあり、減益によって株価が大きく下落するのを防ぐという株価意識の表れが感じられる。
なお、トヨタやソフトバンクG、ソニーなど多くの上場企業が相次いで自己株買いを実行しており、今や株式市場にとっては需給改善の有効策と考えられる。多くの余剰資金を抱えた企業にとっては今後も積極的な自己株買いが続くことになろう。
これは物言う株主からの一般的な要求にも前向きに応える有効活用策とも言えるだろう。一方で増配なき自己株買いは前向きな投資対象がない裏腹の関係でもあり業績停滞の証にもなる点は冷静に考えておく必要があるだろう。
また浮動株、流通株の減少にもなる施策であるため、自己株買い終了後の流動性低下ということにもなる点も念頭に入れておく必要がありそうだ。
(炎)
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