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ファンドマネジャー、株を語る(4)

2017/02/07 20:31 投稿

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■「ファンドマネジャー、株を語る」執筆のきっかけ


現役ファンドマネジャーが株式投資について語る日々雑感です。
個別株の売り買いの推奨はありません。
それどころか、個別株についての言及はしません。

それでも、わたしは、株式投資が持つ本来の社会的意義については、
十分に伝えることができると思っています。

そして、投資のプロセスそのものが、投資家自身を幸福へ導く道標になる
と考えています。


わたし自身がそうでした。
投資を通して、世の中の仕組みがわかるようになりました。

投資により、経済的に恵まれるだけではなく、
投資というプロセスを通して、人としても成長できたように思うのです。


つまり、投資家とは、お金だけを企業に預けているのではありません。

投資とは、投資家自身の膨大な時間も高度な専門性も貴重な経験も
失敗から学んだ知恵もすべてを投資分析に費やすことです。

そして、その投資行為は、人を成長させます。


投資は以下の変化をもたらします。

単なる消費者から創造者に。
偏見やバイアスに支配される偏狭さを克服し、
普遍的で自由な思想を身につけることができます。
大多数の中に埋もれる受動的な存在から、
他者を導く能動的なリーダーへと変貌することができます。

ゼロサム的な思考や矛盾に悩む人は、矛盾を克服し、問題を解決し、
矛盾点を昇華する術を身につけることができます。


短期で利己的な人が、長期で意味のあることを成す人になることができます。
すぐに結果を出そうとする拙速な人も、
思慮深く、ステップ・バイ・ステップで成果を出すようになります。

たとえお金がなくても、株について考えることが、
豊かで幸せな人生を生きることに繋がっていくのです。

多少、大げさに響くかもしれませんが。



さて、わたしですが、外資系機関投資家(日本株アナリスト、日本株ファンド
マネジャー)としての職歴はおよそ20年になります。

15年前に自らの運用手法を書籍「インベストメント」(北星堂書店2001
年)にしましたが、多少、取材手法のみに偏った感がありました。

ファンドマネジャーが株を語ることは、
すなわち、職業について語ることでもあります。

株式ファンドマネジャーという仕事はこういう仕事である、
という内容でもあります。

また、アナリストやファンドマネジャーを育成するのための
ガチのガイドブックともいえるでしょう。

株式投資のもつ、社会的な価値が、あまり意識されない状況となっていること
も執筆の動機のひとつです。

個別株の推奨はありませんし、具体的な運用戦略は紹介しません。

株式投資に関するノウハウは千差万別であり、どんな個別の戦略であっても、
メリットとデメリットがあるからです。

みなさんが「株式投資」についての考えを深めるための一助となるように、
株についての必要最低限の事柄を整理しました。


過去のコラム:
 ファンドマネジャー、株を語る(1)http://okuchika.net/?eid=6579
 ファンドマネジャー、株を語る(2)http://okuchika.net/?eid=6603
 ファンドマネジャー、株を語る(3)http://okuchika.net/?eid=6824



■ファンドマネジャー、株を語る  0004
 =会社の大規模化とその社会的責任=



☆☆ 株式会社の大規模化・グローバル化


人の一生は短いが、企業は名目的には永遠に生きる。
そして、企業価値は、将来の配当であるとしたら、
当該企業に、どの程度の「将来」が期待できるのか、
一度、よくよく考えてみては、という話をしましたね。

組織、商品、企業、配当等の「永続性」というものについて、
少々、思いをはせてみては?という話の続きです。

上場企業の形態である株式会社の歴史は、案外、浅いものです。


株式会社の歴史はせいぜい西暦1600年のイギリス東インド会社、1602年オランダ東インド会社あたりがはじまり、とされているようです。

ですが、中世であっても、たとえば、ベネチア共和国の商人たちは
12~16世紀あたりでも航海事業はプロジェクト投資の仕組みを有していました。
造船技術や航海技術(羅針盤)の向上などで、大量に物資を輸送できるようになったことで、商業が発達したのです。

その後、広く資本を集う形式となり、
株主の責任が出資額以上にはならないことを保証することで、
株式会社形態が急速に普及していきます。

さらに産業革命により、大陸横断の高速海路が開拓されます。
そして、大陸を横断する鉄道プロジェクトなどが始まります。

鉄道によって、広く一般市民にも株が公開され、
多くの株主が生まれるきっかけになりました。


ここで、株主が有限な責任しか負わないという意味は、
当初、出資した金額以上には損失がでません、という意味です。

上場株に投資するならば、買った金額はゼロ以下にはならないということです。

当たり前ではないか、と思われるかもしれませんが、
社会的な責任は、一般的には有限ではありません。

消費者金融は過払い金を払うことで、存亡の危機に陥りましたが、
株主に過去の配当を返せとは言えないのです。

あるいは、東電が廃炉までのコストを全部、株主が負担すれば買った金額がゼロになるばかりではなく、
株主に多額の賠償責任が発生することになります。

そうはならない、ということです。


株式投資の最大のメリットであるリスクの限定性。

出資リスクが出資額に限定されることで、
出資者は安心して投資が行えることになりました。

効率的な事業主体が徐々に規模を拡大していく一方で、
非効率な零細業者が淘汰されます。


すると、ありとあらゆる分野で富の集中と寡占化が進むことになります。

もし、国家が制限を設けなければ。


☆☆ テクノロジーの進展と生産性の向上


印刷、火薬、顕微鏡、産業革命をもたらした蒸気機関。

生産性で圧倒するテクノロジーと株式会社との相性は抜群です。

大規模な設備や最新鋭の機械は十分な資本を必要とします。

十分な資本を集めるときに、広範囲に集めることができて、
リスクが限定される株式会社への出資は、
大規模プロジェクトには合っているからです。

そして、世界中に未開拓の需要(市場)があったこと。
また、事業の特性。規模の経済が効くこと。
大規模で広範な出資が必要になったこと。
競争の結果、寡占化が生じたこと。

以上、様々な要因が重なり、グローバルで活躍する大企業が誕生しました。


☆☆便利さと快適さの追求と「加速」するイノベーション。
  急拡大する生産能力。



現代資本主義社会において、株式会社は社会のほぼすべてのニーズに応える主な供給者となりました。

株式会社によって供給されるモノやサービスは、電気、ガス、通信、鉄道、海運、空運などの社会インフラだけではなく、
あらゆる種類の食品、雑貨、衣料。音楽、映画、書籍、テーマパーク等のエンターテイメントは企業が提供します。

マンション、オフィスビルなどの不動産、ありとあらゆる製品、商品、サービスは株式企業が提供するようになりました。

その供給能力は、どの分野においても、過去から、現在にいたる過程で、
数倍から数百、数千倍と劇的に増大しました。

たとえば、産業のコメと呼ばれる半導体は、情報処理の容量ベースでは、
年率で倍増するペースで伸び続けているのです。


人類は、産業革命以降、化石燃料と蒸気機関の発明により、
急速なテクノロジーの発展、もしくは、イノベーションにより、
生産性を格段に向上させる手段を有するようになりました。

太古の人力から、牛や馬に頼った中世、
蒸気機関により万力が可能になったため、
「早いもの勝ち」という陣地取合戦がグローバル規模で起こりました。

動力が牛馬や人力に頼っていた古代エジプトのピラミッド建設では、
数十年に渡る建設期間が必要でした。

いまや、100トントラックがタイヤの径だけで数メートルもあろう
強力建機で作業効率は格段に向上しています。

真空管やトランジスタ、その後の半導体集積回路の微細化等、
多くのイノベーションにより、人々の生活は快適で便利なものになっていきました。

学問も格段の発展を遂げました。

数学、化学、物理、工学では、ほとんどすべての学問領域で驚くような進展を見せました。


この100年間、200年間の進化は、
それまでの人類の数千年の歴史を合わせたものよりも、
大きな進化や深化を遂げているのではないでしょうか?


☆☆技術革新による負の一面。デフレについて。
  命はイノベーティブできないことについて。



テクノロジーの進展によって、生産性が高まり、
供給能力は多くの分野で過剰気味です。

加えて、コストダウン努力や競争激化から工業製品については
デフレ色が強まっているように思える。

ただし、農産物などの一次産業は、命そのものを扱うため、
情報産業や工業と違い、それほど生産性をあげることができません。

稲には稲の時が流れるのであり、いま植えて何分後に収穫できるようなものではありません。

工業製品のように性能を年々改善できるものではないのです。


その農業の生産革命は窒素化学肥料の大量生産の確立でした。
また、遺伝子組み換えや品種改良等も生産性向上に貢献しました。

この数十年間で農業の生産性は数倍になったのも事実です。

ですが、とても、工業製品の数千倍、通信情報量の数千億倍という供給力の増加ペースには追い付きません。

食糧の生産増加にともなって、世界の人口も増加していますが、
技術進歩による製品やサービスの供給能力の向上はそれ以上でしょう。

テクノロジーの進化は、生産能力、供給能力の向上による工業製品や
IT製品やITサービスの食糧と比べた「相対」価格の低下要因となります。

その結果、情報関連のサービスや工業製品については、世界中がデフレ色で覆われるようになりました。


一方で、食料は大規模災害や天災によって、簡単に供給不足になります。
デジタル技術がやすくなり、便利になり、効率的になる一方で、
人間の命の根幹に必要な水や食料は、
不安定な供給に頼ることになっているのです。

大規模災害でサプライチェーンが分断されると、自給率の低い日本人の一部は餓死してしまうリスクがあることを物語っています。

実際、戦後の食糧難のとき、この日本で1000万人餓死説が流れるなど、
大多数の日本人は飢餓に苦しみました。
サプライチェーンや電化製品への過度に依存しなければならないわたしたちは、脆弱な基盤の上に成り立つ社会を生み出しているのです。


☆☆株式会社の社会的な供給責任。生活の隅々にまで入り込む株式会社


いま、株式価値を考える上で、配当の継続期間について議論をしていました。

株式会社について、考えを掘り下げているため、
話題は横道にそれているように見えますが、しばらく我慢してください。


現代においては、株式会社は普遍的な存在となった、というところまで話してきました。

ですから、今後も、株式会社が世の中の供給を一手に引き受ける体制が存続するだろうを仮定してもよさそうです。

社会に対する製品やサービスの主な供給者が、個人であった時代は終わった。
いま、社会への供給責任を果たすのは大きな株式会社です。

上場企業は、誰でも株主となることできる。社会に開かれている存在です。
社会に対する供給責任が会社にあります。そして、需要も社会全体にあります。


☆☆ビジネスサイクルとステークホルダーについて


社会からの需要が存在することで、株式会社には、売上が立つ。
売上の元となるサービスや製品が社会と企業との接点です。

どんな企業にも、取引先や協力工場など、関係の深い友好的な企業集団が関わっています。

ある企業の原価は、別の企業の売上となって、企業間でサプライチェーンが構築されています。

そして、資本の足りない部分を銀行借入や社債が担うが、それらで、
工場新設や運転資金などを融通し、彼らには、利息や利払いをします。

これが金融業界と社会との関わりです。

そして、国や地方自治体があり、彼らには税金を納めます。
税金が納められることで、社会の公的なサービスの継続が可能になります。

そして、このビジネスサイクルを指揮するのが経営者であり、
経営者は、税引き後の利益から役員報酬を得ます。


さあ、ビジネスが上手くいく場合、最終的に、株主が配当を得て、
それでも残った利益が企業の内部留保となります。

戦後、このスキームはうまく機能していましたが、80年代からの法人減税、
高所得者への減税などで、いまは、ほとんどの企業がオフショアを活用して、
十分な税金を納めません。

よって、富が企業に集中している状況が今日の姿です。


しかし、会社の存在は、言うまでもなく、まずは、需要家である社会からのニーズに依っています。

その意味で、

「株式会社とは、社会に対して商品サービス等の供給責任(リスク)を負うシステム」

であり、株主はそのリスクの一部を負うのです。

社会の構成員は、誰でも、それぞれが社会に対する責任を負う。
株主も社会の構成員であるから、
商品の供給という社会的な責任を負っているのです。

特に、供給を一手に担うグローバル企業には、
非常に重い社会的物資の供給責任があります。


☆☆身近な存在となったグローバル企業と株式投資


最初に、永続する配当列の例え話をしましたが、配当は永続するのか。
その前提は、人間が滅びないと仮定するしかありませんでした。

株式会社は、社会への供給責任を負い、従業員に雇用を提供することで、
社会に貢献することになります。
利潤が残れば、利潤は社会への新たな供給責任を果たすために再投資されます。

会社は、あくまで、社会の公器であり、社会の構成員の生活の安定の上に存在しています。

上場企業が、その姿勢を失ったときは、企業は存続意義を失うでしょう。

存続意義を失えば、会社は継続できません。

競争力を失っても、社会的な責任を果たせなくても、いずれの場合も、
配当は途切れてしまいます。

そうした会社と社会との基本的な関係を、投資家は認識しなければならないでしょう。


今回、株式会社は、良い悪いは別にして、国際社会と地域社会の人々の生活の隅々まで入り込んでいることを認識しました。

そして、当然の疑問がわいてきます。

これでいいのでしょうか?と。


みなさまへの質問

格差社会解消の有力な手段として、グローバル企業は
解体されるべきでしょうか?

若者を中心に、格差固定に対する社会への不満が鬱積しています。
確かに、テロや戦争で既存秩序が破壊できるのであれば、
戦後の何もないところからスタートした日本のように、
多くの個人商品にビジネスチャンスが巡ってくるのでしょう。

格差の固定をどの程度、許容するべきなのでしょうか???

みなさまからのご意見をお待ちしています。


日本株ファンドマネジャー
山本 潤



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