安倍首相が放った金融政策と財政出動という2本の矢。そして最後の一本である“第3の矢”である成長戦略が2003年6月14日に発表された。第4回の『日本再生会議』では、その主なプランである「日本産業再興」「戦略市場創造」「国際展開戦略」について経済再生担当大臣の甘利明氏に話を聞いた。
角谷浩一(以下、角谷):皆さんこんばんは。コネクターの角谷浩一(かくたにこういち)です。先週(6月)14日にアベノミクスの3本目の矢が発表されました。成長戦略日本再興戦略と周期的な財政再建の方向性を示す経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太の方針というのが閣議決定されました。そして総理はサミットに向かってG8で世界中の、いわばアベノミクスのチャレンジを注目し、結果的にはこのまま進めるべきだということでまとまっています。いっぽう個別に会談したドイツのメルケル首相などは相変わらず懸念をしめしていますけれども。いまアベノミクスの実体はどうなっているのか?そしてこれからどうなりそうなのか?そこをきょうは甘利大臣に伺おうと思っております。あらためてご紹介します。甘利明(あまりあきら)経済再生担当大臣です。
甘利明(以下、甘利):こんばんは。しばらくです。
角谷:2月のころ“最初にどんなことやろうとしてるんですか?”と甘利さんに伺ったら“どうなるのかしらん?”とお答えになって、そんなうちにどんどんマーケットも動き出した。甘利さんが何かよけいな発言してるわけじゃないのに…。
甘利:(笑)
角谷:なんか甘利さんが言ったから、みたいな雰囲気ももありますけれども。
甘利:だって株価が下がると私のところに抗議の電話が来るんですよ(笑)いっぱい。そのくせ株価が上がってもお礼の電話1本も来ませんね。
角谷:ははは。まあ大臣がその操作をしているわけじゃないんだけれども、逆に言うと政府の経済に対しての一挙一投足、それだけ国民は注目していると。ただ一方、株をやってる人以外のいわゆるわれわれは一体この効果はいつ私どもに到達するんだろうかと。そういう期待もあるし不安もある。それは一体いつなんだろうか?ということに対しての興味も高い、ということだと思いますね。
甘利:そうですね。
角谷:本日はそんな話をたっぷり甘利大臣に伺おうと思っております。番組ではユーザーの皆さんから質問やご意見などを募集しています。メールは番組のホームページの番組のページのメールホームからお願いしたいと思います。甘利大臣への質問、それからアベノミクスへの意見、いろいろ伺えればと思っています。
甘利:はい。
角谷:さてアベノミクスですが、2月にこの番組に出ていただいた時には大体春ごろにはこうなる、夏ごろにはこんな感じという話もいただきました。
甘利:はい。
角谷:さて、これまでのアベノミクスと言われる金融政策や財政出動、まあ、日銀の総裁人事もそのあと決まりましたから。ちょっとそこまでを振り返って甘利さんから見てこの2月から6月までの流れというものどんなふうにお感じになっているか伺えますか?
甘利:かなりうまくいったと思います。成長戦略はまだこれからですが、その前に金融政策と緊急経済対策財政出動をやりました。これは予想以上にうまくいきました。まあ反応が良すぎた分、あとのリアクションで場が荒れてるんですけどね。点数をつけると80点90点くらいとしてもいいんじゃないでしょうか。
角谷:そのなかで2月のお話の時には一時金のアップ、つまりボーナスを少しアップできないだろうかとか、給料が上がるようにできないだろうかとか、いろいろと相談して進めたいとおっしゃっていました。そのあと小売り中心に給料が上がる、ボーナスが上がる。それから場合によってはパートの人やアルバイトの人たちにもそれが広がるようなことをやりましょう、という会社も出てきました。
甘利:はい。
角谷:一方でちょうど2月から4月にかけては春闘の時期で、労働組合と経営者が給料というものに対してのやりとりがあるわけですけども。甘利さん、総理、それから麻生財務大臣へ対して“給料上がるようになんとかしてもらえんか”という声もありました。こういう動きはいままでなかったと思うんですけれども。
甘利:そうですね。賃金交渉は民民の契約ですから民事不介入って原則があるのですけどね。われわれがやろうとしたのは、べつに組合に代わって交渉するっていうんじゃなくてですね。もうかったんだったら一時金でいい、つまり将来を拘束されないような、給料とかじゃなくていいから、一時金でも出していただくとそれがまた起爆剤になって経済の歯車はまわっていきますよってことを言いたかったんですね。
角谷:まあいままでの停滞期で、場合によっては企業のなかでは内部留保といってお金をためてるけれども設備投資するタイミングやチャンスきっかけがない、と。それから耐震装備をするために会社のカタチを少しつくりなおし整備をさせることなどに費やされてなかなか人件費にまわってこなかった。ところが経済が明るくなる兆しがあるのなら、そちらにまわせるかもしれない、という経営判断が生まれる後押しになった感じはしますかね?
甘利:そうですね。民間企業は200兆円も超える内部留保を持ってるんですね。ではなぜ打って出ないかというと、やっぱり見通しがつかないからなんですよ。政府がきちんと金融政策財政出動、それから成長戦略で将来の霧を晴らしてやる。あるいは規制緩和で障害物をどけてやると彼らも決断をするんですね。その決断を促す環境整備をわれわれがする、ということなんです。規制緩和ってのは企業にはできませんから。それに元の基礎研究や税制改正も国でしかできませんから。そんなふうに方向を見定めて障害物を取り除いて、彼らの乾坤一擲の勝負をうながすという環境づくりが政府の仕事ですね。
角谷:その環境づくりはいろんなところにアプローチをかけたり、短期的なものでなく中長期的な戦略を持ちますよ、ということだと思うんですが、いままでやってきたように見えてこういうふうな方針で進めたのはちょっと久しぶりってことなんですかね?
甘利:そうなんです。先ほども言いましたけれども。賃金交渉ってのはたしかに政府が介入するものじゃないんですよ。だから賃金本体じゃなくて一時金。とにかく労働分配率に少しでも還元するような、そういう将来を拘束しない余力を還元してくれればそれがどんどんいい回転を起こすんですよと。いまもう四方八方凍りついちゃってますが、どっかの氷を溶かしていかないと全体が動かないということでね。これは良い方向にまちがいなく動き出しましたからね。
角谷:なるほど。流動性をつくり出すことによって、固まっているものが動き出すと。ただ小売業の皆さんは正社員というものがそんなに多くなく、パートやアルバイトの人中心です。彼らからすると社会の全体に行き渡るっていうのではなく、かなり一部なんじゃないかという声がありました。これはどういうふうに考えればいいですか?
甘利:たしかにまだ一部です。先月NHKの討論会に出たときに、その調査で景気を肌身でよくなったって感じてる人って20%ですって数字が出たんですよ。まだ5人に1人です、と。でもその前ってだれもいなかったんだから(笑)だれもいないところから5人に1人のところまできてるんですよね。これが4人に1人。3人に1人。2人に1人ってまわしていくのがわれわれの仕事です。
角谷:ええ。
甘利:ちょっとおもしろい話があるんです。われわれは税制改正をやったわけですが、そのなかで交際費の上限を引き上げたんです。しかも全額経費として見れるようにして。これは4月から動き出すんですけれども、中小企業の社長は3月からなんか今度交際費の上限が増えたからっていって銀座でお金を使う人が出てきたと。ちょっと、社長社長!まだ来月からですから減税はっていう(笑)でも雰囲気が実態経済を引っ張ったっていうひとつの例ですよね。
角谷:なるほど。
甘利:だからいま消費が伸びてきたのは気分で伸びてきたわけです。そして回転し始めたから所定外賃金、つまり時間外の賃金と残業ですね。これは少しずつ上がってきてるんです。それからパートの時給も統計とってみると上がってきてるんですね。雰囲気から動いてますけども、それが実態経済にはね返ってきてると。だからいきなり全部ドーンとよくなるわけじゃないんですね。どこかが動き出してよそへ影響していって全体が動き出すと。
角谷:“マーケットは前食いだ”という言葉があって、発表した段階でその可能性で雰囲気がよくなり、実施されたころにはもうその話は終わりだよ、と。どうしてもそのタイムタグがあって甘利さんが発表した直後の段階ではボーンと行くけども、実態が動き出したときにはもうつぎのことを期待しちゃってる。このマーケットと実態がうまくリンクしてくる時期ってのは、これからだんだん始まると思えばいいんですかね?
甘利:そうです。成長戦略そのものはこの秋から具体的に動き出していきますから。アベノミクスで大事なのはプランだけつくってハイひと仕事終わり、っていうんじゃなくてプランを立てて、これを実行できるようにしっかりフォローしていくことが本当の仕事だと総理も宣言してるんです。ですから工程表を作成して1年1年進捗管理をしていくっていう体制をこれからつくっていきます。いままでの成長戦略と違うところはつくって終わりではなく、そこから始まるというところだと思うんですね。
角谷:それでは成長戦略の話に少し入っていきたいと思っているんですけれども。この成長戦略ですけれども第1の矢として『大胆な金融政策』がありました。第2の矢として『機動的な財政出動』というのもやりました。そして第3の矢として『新たな成長戦略』があると。これは特徴としてどこを見ると、なるほど、これはいままでの仕組みと変わるな!ということになるんでしょうか?
甘利:まず3つの政策を組み合わせているということです。『金融政策』と『財政出動』と『成長戦略』。いままでの場合、この『金融政策』が切り離されていて『財政出動』と『成長戦略』の組み合わせなんですよ。これの何がマズいかというとデフレのまま、進めようとすることなんです。
角谷:なるほど。なるほど。
甘利:簡単に言いますと経済対策成長戦略というのは、日本経済で500兆円の大きな薪に火を点けて燃えさせるってことですよね。でもふつう、キャンプファイヤーやる場合、いきなりマッチで火は点かないから種火を使うでしょう?小枝を集めて新聞紙を集めて、それに火をつけて本体に移しますよね?この種火が『財政出動』なんですよ。で、本体の薪である日本経済500兆円に火を点けようとするんですけど、なんどやっても火が点かない。よく見るとこの薪、水浸しじゃないか、と。水浸しっていうことはデフレの状態ってことなんです。だから今回アベノミクスがやったのは、まず『金融政策』という水抜きをして乾かして、それから種火へ付けて本体の500兆の日本経済に火を点けること。しっかりと水抜きをして燃えやすい状況をつくった、ということです。
角谷:なるほど。種火はいままでもあったけれども、それが移らない。
甘利:移らない。だから種火が燃え終わった時点で景気がダメになっちゃう。
角谷:種火をすったマッチが借金として残ってしまう。
甘利:そうそう。
角谷:この種火がやっと移るところまできたから、これからチロチロがだんだん見えてくるぞと。こういうことなんですね。
甘利:それがまずおおきな入口として違うところですよね。それから3つのプランを実施していく。具体的にはまず日本の産業界の足腰を強くする。そのためにいま古くなった日本の施設設備を最新のものに入れ替えて新陳代謝をする。日本の企業って不採算部門を抱えたままなんです。こっちではもうかってるけど、べつのところで不採算な部門の赤字を補填してる、と。だから全体の利益率が上がらない。だったらいっそのこと不採算部門を切り離す。切り離してまとめてもっとスリム化すれば本体の部門も補填がなくなるから利益率も上がるんですね。ただ、2つの不採算部門を集めてスリム化して採算が取れるようにしていくには赤字はしばらく出ますよね?このリストラ作業をしていく作業中に親会社が赤字を補填できるように、損益通算できるような税制があれば、これを彼らはやるんですよね。だから自身の設備を生産性のいいものに変えていくのと、不採算部門を切り離して採算部門に化けさせると。そして、それを税制で応援できるような仕組みをすると。それを臨時国会に出すということです。
角谷:なるほどね。
甘利:それから企業自身が元気になっても企業が使う基盤が元気じゃないといけないですよね。たとえばIT基盤。日本っていうのはITのインフラはよくできてるんだけど、IT活用が進んでないですよ。政府にいろいろ申請するにしたって、それ以前に政府の電子化が進んでないんです。政府の電子化をやります。いままでも政府CIO(政府全体のIT政策を統括する者)という人がいたんですが、今度法律改正してこの人を各省の事務次官よりもポジションを上にしました。すると何ができるかっていうと次官に指示ができるわけですよ。
角谷:いわゆるアメリカのキャルスみたいなことなんですかね。
甘利:あと、科学技術基盤を強化していきます。日本の科学技術の司令塔って、権限も予算もないから機能してないんですよ。だからそこを権限も予算もつけます。これが指揮官役で各省の科学技術予算の重複がないかとか、連携が取れるかとか、ぜんぶ指導していきます。
角谷:ふんふん。
甘利:それから人材です。国際人材が足りないですね。それなりの英語力を持った人材が日本は足りないんですよ。じゃあどうやるか。国家公務員のキャリアの試験にTOEFLを2年後から入れます。そうすると一般の企業や教育機関もそれに対応してくる。そうやってITの基盤、科学技術の基盤、人材の基盤を足腰から強くしていく。その上で2つのフロンティアをつくりますよ。国内のフロンティアと海外のフロンティアを。国内のフロンティアでは、いま日本が抱えている頭の痛い問題を戦略目標にするんです。たとえば少子高齢化が進んでいます。このままいくと2050年には65歳の人が人口の4割になります。そうするとみんな年金生活してる人ばっかり。払う人は減ってく。医療費は増える。ああ日本の未来はもう暗いってみんな思っちゃうんですね。
角谷:悪循環なイメージありますね。
甘利:それを生涯現役社会にしていく。そうすればみんなが支える人口はどんどん増えていくわけですね。ただしそれには問題があって、いまの問題は平均寿命と健康寿命のあいだがどんどん開いているんです。
角谷:はい。
甘利:これは寝たきり寿命とか入院寿命の割合が増えているってことです。ですから健康寿命を平均寿命に近づけていく。ライフサイエンスの分野で画期的な発明をしていくというのもひとつです。さっきの新薬の話もそうで、スピードを上げて新しい医療機器を日本からどんどんデビューさせていく。日本は技術は持っているのに製品医薬品とか医療機器は輸入超過なんです。これを逆にしようと思ってるんです。日本がソリューションをしっかり開発すればソリューションごと次には輸出ができるんですね。そういう戦略で国内フロンティアの開発をやってます。
角谷:なるほど。
甘利:それから海外フロンティア。このあいだ、シンガポールにある放送局で「ハロージャパン」っていう番組スタジオを見に行ってきたんです。そこで何してるかっていうというと、日本のアニメや番組を字幕をつけて流してるんですよ。けっこう人気があるみたいで。温泉番組とかでもいいんですけど、そういう番組をローカライズして日本のコンテンツはすごく魅力的ですと、アピールできる。
角谷:それを見た人が日本に行ってみようか、と思うわけですね。
甘利:ところが、現地化するのにお金がかかる。ファイル化っていって方式を変えなきゃならない。向こうにはそのお金がないんですよ。そこで官民ファンドをつくって支援をするっていうふうにしました。それで東南アジア方式にファイル化して変えて、それで現地語に変えて。もちろん放送枠も取るお金も必要ですけどね。流していくということと地域に来る観光客とのセットにするってそんな展開もしているんですよ。
角谷:いまのお話聞いてなるほどと思うこともいっぱいあるんですが、ふたつ気になります。ひとつはアベノミクスの結果、リストラが広がってしまったり若い人の就職のチャンスが減っちゃったり、優秀な外国人ばかり採用されちゃって就職しようとするこれからの人たちが残念な結果になるんじゃないかって、不安を持つ人もいると思うんですけど。
甘利:あのね、おもしろいもくろみをすることになったんですよ。日本のビジネスコンテストについてなんですけどね、現状だとゲームで終わっちゃってる。アメリカのFacebookだってGoogleだって学生発信ですよね?でも日本の場合、トロフィと賞状をもらって終わり。ゲームなんですよ。これをビジネスにつなげていく。小額で出資したい人をたくさん集めるクラウドファンディングで芽が出そうなベンチャーに出資をできるポータルサイトを今年中に作成します。ビジコンのアイディアとファンディングを結びつけるっていうポータルサイトです。それに加えて産業革新機構っていう政府系の期間がスモールビジネスというか、そのアイディアに出資をしていくっていう仕組みもエンカレッジしていきます。
角谷:そうすると就職できるできない、でなく起業する、オレは自分でやってくぞ、っていうチャレンジの人たちを受け入れる土壌はかなり広がるってことですね。
甘利:それで“会社をつくっていくにはどうしたらいいですか?”っていう疑問にもそのポータルサイトで相談できるようにしていきます。
角谷:なるほどね。つまり“どこかに入りたい。けどどこかに入れてもらえない。はみ出しちゃう”、そうじゃなくて自分でやっていくということに対して面倒を見るよ、と。そういう人たちを応援するだれかが現れやすくなるために、政府が繋いでいく、と。
甘利:そういうことです。
角谷:さっきの教育の話でTOEFLとかいろんなものやるってのはいいことだと思うんです。自民党の教育再生会議のなかでもそりゃけっこうだと。だけど英語でいったいなにをしゃべるのかってことがポイントになるんじゃないかと思うんですよ。たとえば歌舞伎のこと、浄瑠璃のこと、落語のこと、日本の文化や食べ物のことなんかをいろんな世界中の人が興味を持ってくれても、いや英語できますけど日本のことはあんまり知りません、じゃ本末転倒になっちゃうような気がするんですけど。「クールジャパン」って日本のいいところを外に出していくってプランですよね。これはどのようにお考えですか?
甘利:留学から帰ると愛国者になる。よくあることですね。
角谷:よく言いますね。
甘利:留学して外国の学生としゃべると彼らは自分の住んでる国はこんな伝統があるんだ、こんな文化があるんだと言います。そのあと“お前のところはどうなんだ?”と聞かれて、初めていかに自分が祖国のことを知らなかったと気がつく。それでいろんな人と話をするうちに日本って外から見たらこんなにいい国だったんだと認識するから愛国者になって日本に戻ってくる、って話ですね。国際交流ってのは相手の文化を認め合うってことなんですよ。認め合うためには自分で理解してなきゃならない。つまり外国文化と接するってことは日本の文化を見つめる機会になるんですよ。
角谷:おっしゃる通りですね。
甘利:だから“とりあえず日本語の論理構成ができてから英語教育を”なんて人がいますけど、そんな人はずーっと異文化と接触してないから自国文化についての造形は深まらないんですよ。だから国際化っていうことは自分の国を知ることと共通なことになるわけです。
角谷:日本化が国際化につながるんだ。
甘利:そうです。そうです。
角谷:なるほど。それではもうひとつ。世界中ではすでに日本のいいところは知られている、そこをもっと活かすのにクールジャパンなんかのチャレンジがあるわけですよね。その一方で5月の末に自民、公明、日本維新で児童ポルノ改正法が出ました。
甘利:はい。
角谷:たとえばアニメーションなんかはまさに日本の文化であり、特徴であり、世界のなかでも冠たる日本のあこがれのひとつですけれども。もちろん児童ポルノはいいとはぼくも思ってません。ただ、アニメだとか2次元的なものだとか、出版物に対しての規制が広がってくることで日本の自慢できるものが前に出ようとするのに、国内ではダメって言われてるみたいな感じがするのですが。こういう矛盾もほんとは甘利さんのところで少し整理してもらいたいんですよ。
甘利:そうですね。児童ポルノを取り締まるのをダメっていう人はほとんどいないと思うんですけれども。
角谷:はい。
甘利:あんまりそこから派生してアニメーションの表現がぜんぶ制約されたら、それこそ日本が誇る文化が衰退してしまうのではないかとは感じます。自民党が各党と調整してるのはだれが見てもこれはちょっとマズいんじゃないの?という内容だと思うんですが。そこからどんどんハミ出していかないような線の引き方をどうするか、っていうテクニカルな問題ではないでしょうか。
角谷:そうだと思います。ただ改正法案は少し荒っぽくて、単純所持に対しても非常に厳しい扱いをしていると。たしかにこの理論っていうのは日本のいい部分と、世界からこれダメでしょうと思われてる部分が混在しているかもしれない。でもそこをきちんと整理してもらわないと、いいところだと思ったものがダメになったりして。
甘利:よく注意していきます。
角谷:さてそれでは、いまこういうことを考えていますよ、ということについてお聞きします。
(角谷、フリップボードを出す)
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6つの課題
・待機児童
・薬のインターネット販売
・混合診療
・農地問題
・社外取締役
・科学技術の司令塔
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角谷:薬のインターネット販売でどうして景気がよくなるんだっていうふうな質問が出ましたけれども(笑)
甘利:薬のインターネット販売を成長戦略に置くのはおかしいよと。それはたしかにその通りだと思うんですね。べつにたくさん薬を買ってもらうためじゃなくて、ネットを通じてこういうことができる、というのが成長戦略なんです。ネットだからダメとか、危険とか…ネットでも薬屋でも薬剤師しか売っちゃいけないんですから。売る手法を初めから線を引いてしまうのは、新しい展開を止めることにはなりませんか?ということだと思うんですね。
角谷:安倍さんもよく言いますけど“ここで止まっちゃったっていうのはダメなんです”と。つまり3本の矢のその力を合わせることによって、いままではこれムリですとか、できません、とかを乗り越えるっていう知恵をいろんなところから持ってくるというのがいまの戦略だってことなんですね。
甘利:そうですね。最初から既成概念のもとに“むかしからダメだから”っていうやり方だと発展していきませんから。さらに踏み込んでいくのに心配があるとしたら何ですか?と。その心配はこうやって排除できますね、って。できなかったらもちろんとどまるんだけど。できるんだったら進んでいいですよねっていうことです。
角谷:全体的には骨太の方針やいろいろなことにチャレンジをしてる途上ですから、ぜんぶがいま出して明日結論が出る、なんてことがないのはわかります。ただ一方で生活保護を受けてる人が過去最高だというのは今年の3月の数字で出ました。
甘利:そうですね。
角谷:それからニートの数が過去最高になったという数字が昨日発表になりました。そういう意味では全体的には経済的弱者とでも言うんでしょうか、これからチャレンジする前にどうしてもつぎのステップに上がれない人たち。こういう人たちへのサポートとか、そこにどういうふうな光の当てかたをしていくのでしょうか?
甘利:以前、若者女性活躍推進フォーラムというのをやったんですけどね。そのときにネットの関係者を識者のひとりとしてお呼びしたときに“ネット上のスーパーアイドルって引きこもりの人がつくるんですよ”って言われたんですよ(笑)引きこもりってクリエイティブなんです、と。彼らがつくってネット上にアップしたものが共有されてアイドルになるんですよ、と言われてかなりカルチャーショックを受けたんですけどね。ようするに、そういうクリエイティビティを実業に結びつけるとか引き出す。いろんなアクセスの仕方を通じて社会に出ていくっていう道をいくつもつくることが大事だと思うんですよ。
角谷:ああそうか。なるほどね。
甘利:待機児童を5年間で解消するっていうのを総理が提案したのは、女性が経済活動や社会活動に出ていきたいけどこういう制約がある、だったらその受け皿をちゃんとつくりましょう、ってことなんです。アベノミクスでは「全員参加」っていうキーワードがあります。それは意欲はあるんだけども子供を責任もって預かってもらえる施設が近所にない人とか、引きこもりの人とか、あるいはお年寄りで元気なんだけどもリタイアしちゃったって人とか、それぞれの出ていけない理由の環境整備をしていって、全員参加でがんばっていこうってことなんです。
角谷:あなたの将来を面倒見ますよ、とは違うんだと。あなたはいままで選択肢がこれしかなかったけども、環境を整えていくつかの人生を選べますということを政府が用意するってことなんですね。
甘利:だからみんなが何らかのカタチで社会を支えるんですよ。支えてもらう分もあるけども、100%支えてもらうじゃなくて6割支えてもらってるけど4割オレが支えてるんだ、という社会にしていかないと、このままだと活力がなくなっていくということですね。
角谷:なるほどね、困ってる人たちへのセーフティネットって、いままでだとただ助けるということだけだったけども、ハードルを取り除いて選択肢を生み出すことでチャレンジを可能にする。そしてみんなが参加できる社会をつくっていく道を何本も整備するっていうのが骨太の方針なんですかね。
甘利:そういうことです。
角谷:いまのお話を聴いていると、これがあるからあきらめてる、これがあるからうまくいかない、これがあるからいま私はガマンしている。そう思ってる人たちもチャレンジする道をいくつかつくりますよ、と。その選ぶ道にちゃんとみんなが乗っかってくれて社会参加をしてくれると、じつはみんなに好循環がまわってくるんじゃないだろうか、と。
甘利:そうですね。さっき生活保護が増えてるって話も言いましたが、収入が得ることができるとそっくり支給費から引かれちゃうんです。だから働いても働かなくても同じ額になっちゃうからじゃあ止めた、になっちゃうんですね。新たに収入を仕事して求めることができたらその半分は残るとか、そういうふうなシステムを変えていけばしだいに生活保護から脱出して行くことができる。0か100かという方式だからなかなか1回入っちゃったら出てこれないんですね。
角谷:いままでの閉塞感のなかでしょうがないと諦めようって人たちが、いや諦めなくてもよさそうだと前を向いたり上を向くことで何かが見つかってくるかもしれない、と。その手助けは骨太の方針であるとか経済の景気全体が上向いてくることによって雇用が増えたりチャンスが増えたり、それから仕事の種類が増えたりとすることでまかなえるんではないかと。だから明日から皆さんに何が用意できますよ、とはいかないけれども、皆さんの才能や若い人たちのエネルギー、パワー、知恵、それを活かす場所をつくればいろんなことが始まるんじゃないか、ってことなんですね。プライマリーバランスがどうしたこうしたって、若い人はそこに行き着くまでにくたびれちゃうんだと思うんですよ。甘利さんがよし、これやろう!と。規制緩和に関してもよし、これはもうみんなに相談してみるよ!と。いろんなことが障壁になっているんならオレが言うよ!っていうのがあればたぶん転がるんでしょうね。
甘利:そうです。いまの組織ですが、会議を開いて決まったことを本部会議に上げるんです。本部会議は総理が主催してますから、総理大臣命で各大臣にあなたはこれをできるように役所を指導しなさい、これができるように組み立ててくださいって指示がいくんです。どうしていままで民主党政権下でいろんなことがうまくいかなかったんだろう?って考えました。内示を受けて経済再生担当大臣に就任するまでの2週間のあいだ、組織の設計とかを徹底的に検証して上手くいくような仕組みを設計したんです。
角谷:なるほど。その準備期間がだんだんモノをいってくるということなんでしょうかね。ではいままでのお話をふまえてアベノミクスに対してのアンケートをとってみたいと思います。以前この番組に出ていただいた2月はアベノミクスがまだ動き出す前でした。いま少し動き出してじっさい株価が上がったり、いろんなことが可能性として広がり始めました。さてアベノミクスに期待するか。今までの甘利さんのお話を聞いて期待するかどうかと。4択でお願いしたいと思います。
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アンケート
1:期待する
2:どちらかといえば期待する
3:どちらかといえば期待しない
4:期待しない・わからない
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角谷:経済のむつかしい話だったり具体的になにをしますということよりも、こうやって新しい日本の考えかたのインフラの組み替えを政府全体でチャレンジしてるということですね。
甘利:それからね、目標を10年で達成するとするでしょう?そのあとに1年ごとにチェックするんですよ。政策群ごとに達成度指標っていうものさしがあるんです。ものさしを当てて1年間で達成できなかった場合には、その原因を探りなさいと。そして原因がわかったら政策推課をしなさい、と。
角谷:工程表だけじゃダメなんですね。工程表の検証が大事なんですね。どこでつまったかが、わからないといけない。
甘利:そういう仕組みなんです、アベノミクスって。だからそれがいままでと全然違うんですね。
角谷:さあどういう結果が出ますか。ほうほう、これちょっと興味深い数字だな。
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アンケート結果
1:期待する 40.9%
2:どちらかといえば期待する 22.9%
3:どちらかといえば期待しない 14.9%
4:期待しない・わからない 21.2%
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角谷:どんなふうにごらんになりますか?
甘利:ありがたいですね。
角谷:メールをいただいています。愛知の男性38歳の方です。『アベノミクスで景気回復と言いますが民間はまだまだどん底です。もし給与が上がる前に消費税が上がってしまうとまた不況になってしまうと思いますが、いかがお考えでしょう?』という質問です。
甘利:たしかに消費税8%に上げるのは来年の4月からで、その判断は今年の10月にします。その10月のときに何を判断するかっていうと、これは法律で決まっているんですけど、名目成長率、実施成長率、それから物価動向、失業率等々を相互判断して景気が間違いなく好転してます、という判断が成り立ったときに上げるっていう選択をすることになっています。
角谷:ゴーサインが初めてそこで出る?
甘利:はい。ですから景気が失速しているなかで消費税を上げるっていう判断はありません。そこでわれわれは全力を投じて、その10月の時点に間違いなく景気が好転してるって状況になるように全力でやってかなきゃならない。
角谷:ヘンな話ですけど、名目成長率などもとりあえずなんとかなっていて、いまのままでいったら消費税を上げられるような環境が−−いちおう法律で決まっているものは−−整ってると。でもここで消費税を上げたらちょっと景気が冷えこむんじゃないか、そういうマインドとしてちょっと不安だな、というときは“ちょっと待ちましょう”とか“延期しましょう”っていう選択はあるんですか?
甘利:いま私が言えることは上げられる環境が整うように全力でやるということなんです。G8でもアベノミクスはかなり高い評価もらえました。ただ1つだけ注文がつきました。それは財政再建の道筋をちゃんとつけてください、ということです。
角谷:そうでしたね。
甘利:もしここをおざなりにするとどういうことが起きるかというと、日本国債の信用が落ちて利払費が増えちゃうんですよ。利払費がいきなり増えていくと一般歳出経費がその分押されて減っちゃうわけなんです。だからラクをしようとすると苦労がきちゃう、っていう結果になるんですね。
角谷:ふんふん。
甘利:だから日本国債の信用をしっかり保つためには財政再建、つまりこの皆さんが持ってる国債は間違いなく償還されておかしなことにはなりませんよ、っていうことを担保しなきゃいけないんです。消費税を上げても大丈夫だってなるように、ここはもうしゃにむにがんばって経済環境をよくしていくと。そうしないとすべてのシナリオが狂っちゃいますから。消費税を上げる判断するときまではーーまではって、それから先ももちろんそうなんだけどもーーぜったいに政府は気を抜かないで景気回復に全力投球をしていくということになると思います。
角谷:そこらへんは気をゆるめられても困るけれども、一方で4月からいろいろ税金や公共料金など、じつは上がってるものもたくさんあるんですね。ですからそれに見合う生活のレベルっていうことを考えると、消費税ってのはちょっと頭のなかでは皆さん重くのしかかってるはずだ、ということはやっぱり念頭に置かなきゃいけないと思います。
甘利:うん。
角谷:もう1つ。36歳、神奈川の男性の方です。『最近、株価が乱高下したりしていますが、こういう状況を見ると景気回復について不安になります。甘利大臣はどのようにお考えでしょうか?落ち着くときはくるのでしょうか?』と。
甘利:市場がここのところ乱高下してるのは短期資金ですよね。短期資金っていろんな思惑で動くんですよ。上がってもうけて、下がってもうかる。ようするに変動しないともうからない。
角谷:もうからないといけない。
甘利:もちろん短期資金を否定するつもりはまったくないです。短期資金ウエルカムです。でももっと大事なことは、中長期資金をひきつける市場にしなきゃいけないってことです。なぜかというと中長期資金っていうのはイノベーションを起こします。企業は上場しようとして何かの事業を起こすときにやっぱり何年間かは赤字ですよ、本当にイノベーション起こす事業ってのは。そこを辛抱してくれるような資本が集まる場所が日本だ、というふうにしないとね。
角谷:なるほど。
甘利:先ほど、未上場未公開の株の非上場株の出資ができるような仕組みをつくると言いましたけどね。それも今日出資して明日配当よこせ、っていうような人ばっかりだったらイノベーションって起きないですよ。3年間ガマンして支えてやるからしっかりやれというような出資者がないと起きないんですよ。世界中で資本家の忍耐が短くなってるんです。でもイノベーションが起きないと世のなかしあわせにならないんですね。だから短期資金はもちろんウエルカムですけども。中長期資金にとって魅力的な市場が日本だというようにしたいと思いますね。
角谷:昨日の夕刊あたりだと東京では億ションが飛ぶように売れてるという話ですが、まだそこには投機的な意味のほうが強いのかなという感じがしますよね。そこらへんのバランスがうまく合ってくる時期ってのはじょじょに近づくんだと思いますけども。その秋口の消費税上げる決定のときとの競争なんでしょうかね。いまね。
甘利:今年の秋口に判断するけども、じっさいに上げるのは翌年の4月からです。それまで総理は景気動向を徹底的にしっかり球ごめをしてくぞ、とおっしゃってます。つまり財務省的にいうと10月の判断だったら、もうあとは気を抜いていいっていうふうになりかねませんよね。でも安倍政権としては判断をして以降も手を抜かないで成長戦略徹底的に達成度を追ってくぞ、と。重要なことがいままでなぜできなかったかというと、1年で政権が替わるからですよ。だから大事なことは、この安倍政権が長く続いてしっかり責任を持って最後までやり遂げるってことだと思います。さいわい7月に参議院選挙あったら3年間選挙がないですから。3年間は一心不乱に取り組めるんです。こういうチャンスってあんまりないんです。
角谷:うんうん。
甘利:だからしっかり、長期の安定政権で政策を実行していくってことが大事なんですよ。
角谷:工程表とそのチェック。問題点があったらそこが風通しが良くなるまでちゃんと検証する。これを進めて振り返り、進めて振り返り。これはもう気が抜けない作業だと思いますけど。それをやり遂げたときにやっぱり日本全体がいい感じになるんでしょうかね?
甘利:そうですね。そうさせなきゃいけないと思っています。安倍総理はもう、そうとうな覚悟でやっています。私、1次安倍内閣のときも経済産業大臣やりました。2次内閣でもやっていますけれども、1次内閣のときといまと彼は別人だと思います。
角谷:そうですか。
甘利:覚悟がまったく違います。
角谷:最後に甘利大臣からユーザーの皆さんに一言、アベノミクスのこれを見とけ!というポイントを教えていただければと思います。
甘利:成長戦略を250項目かかげています。それを皆さんの興味のあるものでいいので、追っていっていただきたいんですよ。何年までにこういうことができる、っていうのがいくつもあります。きちんとフォローアップができているかどうか、1年ごとにやっていきますから。
角谷:ということです。甘利さんには今年の2月に出演していただいて、今回は6月に出ていただきました。次回のときには、甘利さんとうとうここまで来ましたね、とそんな話ができることを期待しております。本日はどうもありがとうございました。
甘利:どうもありがとうございました。
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