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「Sちゃんは兄弟いるの?」

「うん、兄と姉」

「へーうらやましい!」

「欲しかったらあげるよ」

「またまたー!」

冗談ではありません。私は心の底からこう思っています。でも、友達には本当のことは言えません。

「兄も姉も仕事も結婚もしていないニートで、毎日家でごろごろしてるだけ」なんて言ったら、友達の私を見る目がきっと変わります。

もう友達でいてもらえないかもしれません。そう、私の兄弟はニートであり、私はそれを心から恥じているのです。

不登校の兄


9つ離れた兄は、中学の時から不登校になりました。私は幼かったので、ほとんど覚えていませんが、「お兄ちゃんはいつも家にいる人なんだな」と思っていました。

当時母親に「なんでお兄ちゃんは学校にいっていないの?」と残酷な質問をしたことを覚えています。

母親もくわしい原因はわかっておらず、自分が教えてほしい、と思うくらいだったでしょう。

ゲームや漫画が好きなので、いつも家でのんびりしている様子で、「そういう人なんだな」と思っていましたが、十数年前からニートという言葉が世に出るようになりました。

そこで私は初めて、「うちの兄は、世間から見ると変わった存在なんだ」と知るようになりました。

5つ離れた姉は、大学に行くことをきっかけに上京しました。

高校まではハンドボール部で、特に問題なく学校に行っていました。

しかし、大学卒業間近で、「卒業が危ない」と大学から連絡が入りました。ほとんど大学に行っていないということで、両親が東京まで説得にいきましたが、良い結果は得られず、そのまま大学中退となりました。

しばらく東京でフリーターをしていましたが、家賃が払えず、結局実家に戻ることになりました。

うちは変なんだ


姉が実家に戻ってきたころ、私は大学生になりました。

小・中・高ととくに大きなトラブルもなく、高校ではたまに友達と遊ぶためにさぼることはあるものの、いたって真面目に通っていました。思い起こせば、小学生のときに一緒に遊んでいた友達に仲間外れにされた経験はありましたが、別のグループの子たちと友達になったので、その子とは縁が切れたくらいです。

友人関係に関しては、非常に恵まれていました。

そして、大学3年生になると、就職活動が始まりました。

就職活動でまずやることは、自己分析です。自分がどんな育ち方をして、何が好きで、どんな人間かを考えていきます。その上で、自分がどんな仕事をしたいのか、またどんな仕事に向いているのかを絞ります。

ここで初めて、私は、自分の兄も姉も普通というレールから外れた人だと痛感させられます。そして、今まではちゃんと学校に行けていたけれど、いつか自分もひきこもってしまうのではないか、そんな恐怖を覚えました。

そして、とある企業の面接です。

ここの提出書類には、同居家族の構成も書かなくてはなりませんでした。幸い年齢と性別だけだったので、正直に書き、提出しました。

しかし、人事の採用担当者から、こんな質問がありました。「お兄さんとお姉さんと一緒に暮らしているんですね。ご兄弟は何をしているのかな?」一瞬、戸惑いました。

そして、一番聞かれたくないことを聞かれてしまった、と思いました。私自身のことなら、そんな目立った成果はないけれど、いままでコツコツがんばってきた、と言えます。

しかし、本当のことを言って「この子の兄弟は2人ともニートなのか。じゃあこの子もきっと根性無しなんだろうな」と思われることが怖かったのです。

そこで私は「兄も姉も自宅近くの会社で働いています」と嘘をつきました。その後の質問は滞りなく進みましたが。しかし、私は帰ってから、「会社によっては、応募者の身辺調査を行うところもあるらしい」ということをインターネットで知り、もうこの会社は無理だ、諦めよう、と思いました。

しかし後日、その会社からは内定のお返事が頂けました。

それ以来、私は友人や知人から「兄弟いるの?」と聞かれたとき、「いるけど、結婚して実家にはいない」「兄はいるけど忙しくてほぼ帰ってこない」「仕事で東京にいる」などと嘘をつくようになりました。

幸せな家族がうらやましい




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