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私は正中離開、いわゆる「すきっ歯」がとてもコンプレックスでした。
生まれつき前歯が2本少なく、乳歯の時からすきっ歯です。
歯が少ない分とても大きな前歯が2本あり、その間が約3ミリも空いています。
2本の前歯の隣はすぐに犬歯です。
インターネットで検索してみると、「すきっ歯はだらしなく見える」「貧乏臭い」「間抜け顔」等、やはりあまり印象は良くないもよう。
その一方で「ヨーロッパでは、すきっ歯は幸せを呼び込むと言われている」「欧米ではチャーミングに見られる」という話もあり、その国ではあえてすきっ歯にされる方もいらっしゃるようです。
しかしここは日本ですから、前者のネガティブな意見が一般的でしょう。
だからこそ、私にとってとても大きなコンプレックスだったのです。
隙間が空いていることから、「前歯、折れやすいかも…… 」と母が心配し、リンゴの丸かじりや、硬いお煎餅等は食べることを禁じられました。
またうっかりしていると、食事の際に噛んでしまった箸が隙間に挟まり、なかなか外れず痛い思いをしたこともあります。
いっそこの噛んだ箸と共に、前歯が折れてしまえば差し歯に変えられるのに…… と思ったこともありますが、人一倍大きな前歯はそう簡単に折れることはありませんでした。
このわずか3ミリの隙間が、長期にわたり私を苦しめることになるのです。
笑顔が消えた学生生活
「永久歯に生えかわるとちゃんと前歯が4本になる子もいますから」と私の乳歯を見た歯科医が母に言ったそうです。
母は大いに期待したそうですが、小学1年に生え変わった私の前歯は、残念ながら2本のまま。
そして乳歯の時よりも大きな前歯、広い隙間となっていました。
小学生の頃は、誰も私のすきっ歯を指摘する人はいませんでした。
なので「もしかして私が前歯を気にしているだけで、みんなは気づいていないのかな?」と呑気に思っていました。
しかし中学に上がると隣の席の男子が笑いながら「お前の前歯はスゴいすきっ歯だな」と、わざわざイラストまで描いて見せてくれました。
そして当然のようにビーバーと呼ばれました。他にもネズミだのリスだの……。
みんなの前で言われた怒り、本当はみんな気づいていたと知った恥ずかしさ、改めて自分の醜さを確認してしまった悲しさ…… たくさんの負の感情が私に芽生え、
その日から人前で話すことはもちろん、笑うことすら嫌で嫌でたまらなくなってしまいました。
最近でこそおしゃれのために「伊達マスク」をつけたり、花粉や感染予防等でマスクをつけている方は多いですが、
当時は風邪でもあまりマスクをする方は少ない時代でしたので、常に口元に手を当てて過ごす毎日でした。
高校生になると、さすがに面と向かってすきっ歯を指摘してくる人はいませんでしたが、「気づいていても言わないだけ」ということを知っていましたから、
誰かと話していても相手の目線が気になり、目線が私の口元に向かうたびに逃げ出したくなるのでした。
歯並びの悪い友人が、私が居ることを知ってか知らずか「まあ、すきっ歯よりはましかな」と言っていたのを聞き、とても傷ついたりもしました。
実際に私もすきっ歯なら歯並び悪い方がまだましだと思っていましたから。
しかし実際に他人に言われると辛いものがありました。
幸か不幸か、親は私をとても可愛がり、また非常に楽観的でしたので、
「すきっ歯なんて気にしない!あなたは充分可愛いから良いじゃない」
「今にすきっ歯の時代が来るかも知れないじゃない!」
「すきっ歯でも、虫歯のない綺麗な歯なんだから大事にしなさい」と、
いまいち私の気持ちに寄り添ってはくれませんでした。
すきっ歯の時代が来るはずなんて無いでしょう…… と、若干怒りを覚えました。
もちろん私がすきっ歯で悩んでいることを知っている友人達も「気にすることないよ!」と言ってくれましたが、どんなに励まされたところですきっ歯が治るわけではなく、
「気にするなだなんて、所詮他人事だもんね。あなた達はこんな前歯になったことないもんね。」と、
どんどん卑屈になっていく自分に気付き、見た目だけではなく気持ちまでも暗くなっていきました。
当時思春期真っただ中だった私は全く自分に自信が持てず、好きな男の子に話しかけることも、笑いかけることも出来ない、そんな学生生活を送りました。